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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

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親方、壁を着せる


 全チームを集めた。百人が広場に並んでいる。


「状況を説明する。北のグラオス山脈でドラゴンが動いてる可能性がある。過去の例から見て、降下まで二週間前後。城壁の改修は四割しか終わってない。今のペースじゃ全然間に合わねえ」


 ざわめき……不安が走る。当然だ。


「だが、間に合わせる」


 全員の目がこっちに集中した。


「やり方を変える。今までは古い壁を剥がして、中から積み直してた。丁寧だが遅い。これからは——剥がさない。古い壁は、そのまま残す」


「残す? でも親方、あの壁はボロボロだって——」


 ハインツが困惑した顔で口を挟んだ。


「ボロボロのまま残すんじゃねえ。上から()()()んだ」


「着せる……?」


 地面に炭で図を描いた。


 まず古い城壁の断面。厚さ一メートルの石積みの壁。中身はガタガタ。これが今の状態。


 次に、その外側にもう一枚、壁を描いた。古い壁にぴったり沿って、厚さ三十センチのコンクリートの層を追加する。


「古い壁の外側に型枠を組んで、隙間にコンクリートを流し込む。古い壁が内側の型枠代わりになるから、外側の型枠だけ作ればいい。型枠の手間が半分で済む」


 ざわめきが変わった。困惑から、理解に変わりつつある。


「コンクリートが固まれば、古い壁と新しいコンクリートが一体化する。古い壁がどんなにボロボロでも、外からコンクリートで包んじまえば、全体として頑丈になる。卵の殻みてえなもんだ。殻を厚くすりゃ、中身が柔らかくても潰れない」


 ハインツが目を見開いた。


「……壁を剥がす工程が丸ごと消えるのか」


「そうだ。剥がして、石を選別して、積み直す。この三つの工程がゼロになる。やることは型枠を立てて、コンクリートをぶち込むだけ」


「それって——」


「今までの四倍は早い」


 どよめきが広がった。


 ガルドが手を上げた。


「親方、それ最初からやれたんじゃ——」


「できなかった。時間があるなら中から積み直す方がいい。噛み合わせの溝も入れられるし、基礎からやり直せる。百点満点の仕事ができる。だがな、今は時間がねえ。百点は無理でも、七十点の壁を全周に作る方が、百点の壁が四割だけあるより、街を守れる」


 百点を四割か、七十点を十割か。


 答えは明白だ。


「ただし。北面と東面は既に百点で仕上がってる。ドラゴンが来るなら北からだ。一番危ない方角は最高の壁で守れてる。残りの南面と西面を、コンクリート被覆で一気に固める。これが作戦だ」


 しん、と沈黙が続く。


 その中で、ダグが口を開いた。


「棟方。それ、本当に壁が強くなるのか。外から塗っただけでさ」


「塗るんじゃねえ、包むんだ。三十センチのコンクリートってのは、石の壁一枚分と同じ強度がある。今の壁に石の壁をもう一枚足すのと同じ効果だ」


「……試せるか。一区画だけ先にやって、強度を確認したい」


「いい心がけだ。やるぞ」



    * * *



 南面の一区画、長さ十メートルを試験施工する。


 まず古い壁の表面をざっと掃除する。苔や砂を落とすだけ。丁寧に剥がす必要はねえ。


 次に外側に型枠を立てる。壁から三十センチ離した位置に板を並べて、杭で固定する。型枠は壁の高さ六メートル分。ここは足場と風の精霊の出番だ。


「シルフ、上の方の型枠の固定を手伝ってくれ。板が倒れねえように押さえてくれりゃいい」


 風の精霊が型枠の上部にとりつく。板がぴたりと安定した。足場なしで六メートルの型枠が立つ。


 型枠の準備に半日。


 午後からコンクリートを流し込む。


 上から流す。灰色の泥が、古い壁と型枠の隙間をずぶずぶと満たしていく。一メートル分注入しては突き棒で突いて空気を抜く。また一メートル。また一メートル。


 全チームがバケツリレーでコンクリートを運ぶ。百人の人間が、一本の壁のために動いてる。


 夕方までに、十メートル区画のコンクリート打設が終わった。


「二日後に型枠を外す。それまで養生だ」


 水の精霊が養生につく。火の精霊が気温管理。土精霊が基礎部分の密着度をチェック。精霊が四種類フル稼働だ。


 二日後。型枠を外した。


 古い城壁の外側に、灰色のコンクリートの層がぴったり張り付いている。継ぎ目なし。古い壁とコンクリートが一体化して、厚さが一・三メートルの複合壁になっている。


「ハインツ、叩いてみろ」


 ハインツが拳で壁を叩いた。


 ゴッ、と重い音が返ってきた。今までの城壁を叩いた時の、どこかスカスカした音とは全然違う。密度がある。


「……重い。音が、重い!」


「それが強度だ。もう一つ確認するぞ。——ガルド!」


「おう!」


「全力で壁を殴れ」


「おう……って、え、はぁ!?」


「お前のSTR:Sで殴って、壁がどうなるか見る。手加減するなよ」


 ガルドが拳を握った。全力か? と目で訊いてきたから、頷いた。


 ガルドが腰を落として、拳を壁に叩き込んだ。


 ドゴン!!


 鈍い音が響いた。地面が揺れた。


 壁は——びくともしなかった。


 ガルドの拳の跡すらついていない。


「い、っっって……」


 ガルドが拳を押さえてる。壁を殴ったガルドの方が痛がってる。STR:Sの全力パンチを食らって、傷一つ付かない壁だ。


「おお……」


「嘘だろ……!?」


「あのガルドの全力だぞ!? 何だこの壁!?」


 作業員たちが壁に殺到した。叩く、蹴る、押す。びくともしない。


 ダグが壁に耳を当てて叩いた。


「中身が詰まってる。隙間がない。完全に一つの塊だ。——棟方、こりゃ岩だ。もう壁じゃねえ。岩の壁だ」


「コンクリートが古い壁の隙間にも入り込んで、全部を固めてるからな。元の壁がどんなにガタガタでも、コンクリートが接着剤になって全部を一つにする」


 ハインツが壁の前に立って、しばらく黙っていた。それから振り返って、俺を見た。


「棟方。これを全周に回すんだな」


「ああ、そうだ」


「この方法なら——一日でどのくらい進む」


「型枠の組み立てと打設で、一日百メートルはいける。二チームで回せば二百メートルだ」


「二百メートル……」


 今までは一日五十メートルだった。四倍。


 残りの南面と西面は合わせて約五キロ。二百メートルのペースなら——二十五日。


「二十五日で全周を固められる」


 歓声が上がった。


「いけるぞ!」


「間に合うじゃねえか!」


「親方すげえ! 何でそんなこと思いつくんだよ!」


 トビーが興奮して叫んでる。周りの作業員も似たようなもんだ。


 ガルドが殴った方の手をさすりながら、にやにやしている。


「親方、やっぱあんたすげえわ! 壁に服を着せるなんて発想、普通出ねえよ!!」


「俺の故郷じゃ当たり前の工法だよ。コンクリート被覆っつってな。古い建物を壊さずに補強する時に使う」


「当たり前って言うけどよ、この世界じゃ革命だぞ!!」


 まあ、そうかもしれんが。


 カーラが壁の上から見下ろしていた。


「ねえ親方。この壁の上で戦うの、楽しみね」


「楽しみって言い方はどうなんだ」


「だって揺れないんでしょ? あたし好みの壁だわ」


「壁に好みがあんのか」


「あるわよ。固くて、揺れなくて、足場が広いの」


 よく分からん趣味だが、戦う側の感想としては正しいんだろう。



    * * *



 その日の夜、作業場で全員に号令をかけた。


「明日から二十四時間体制。昼チームと夜チームに分けて、交代で回す。コンクリートは夜でも練れる。松明があれば型枠も組める。二十五日で全周を固める。一日も遅れるな」


「「「おう!!!」」」


 百人の声が揃った。


 俺は図面を広げた。残り五キロの壁。二十五日分の工程表を引く。どの区画から回るか、コンクリートの配合をどれだけ用意するか、型枠の板は足りるか。


 ルッカが黙って工具を研いでいる。明日から倍速で消耗する工具を、今のうちに全部整備してくれてるんだ。


 リルが精霊たちに話しかけている。「みんな、しばらく忙しくなるけど、お願いね」。精霊たちがぴょんぴょん跳ねてる。


 ガルドが拳にさらしを巻いていた。壁を殴った手がまだ痛いらしい。馬鹿だな。でも、あいつが殴って無傷だったから全員が信じた。


 カーラが風呂に入っている。嵐の前の最後の風呂かもしれんのに、いつも通りだ。ある意味すげえ。


 さあ。


 二十五日の勝負だ。

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