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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

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親方、仕事を急ぐ


 城壁改修を始めて二ヶ月が過ぎた。


 第一段階の応急補強が完了。北面と東面、合わせて三キロ分の壁に控え壁を追加し、コンクリートで目地を打ち直した。


 第二段階の基礎補強も、北面は終わった。ドワーフの古い基礎を活かして、その上にコンクリートの補強帯を打つ。ルッカが噛み合わせの溝を刻んだ石灰岩のブロックを、石工チームが積んでいく。


 百人近い現場は、もう一つの街みてえな賑わいだ。


 朝は号令とともに全員が持ち場に付く。コンクリートを練るチーム、石を切り出すチーム、運搬チーム、積み上げチーム、型枠チーム。それぞれにリーダーがいて、俺が全体を見て回る。


 ガルドが運搬チームの指揮を取ってる。石工のハインツが積み上げチームを仕切ってる。ダグの大工チームは型枠と足場を担当してる。ルッカは鍛冶場で噛み合わせの石と工具の両方を作り続けてる。リルは四種類の精霊と連携して、地盤調査、水管理、乾燥促進、高所安全を回してる。


 カーラは壁の上で見張り番をしてる。前回の夜襲以来、工事中は常に護衛を配置するようになった。姐さんがいると守備隊の士気が上がるらしい。Bランクの実力は伊達じゃねえからな。


 現場は順調だ。


 だが、順調な時にこそ、別の場所で何かが起きる。



    * * *



 ある朝、ヴェルトール伯から呼び出しがかかった。


 伯の屋敷に行くと、レンハルト卿も同席していた。表情が固い。


「棟方殿。一つ報告がある。職人ギルドのグリュンドが、昨日逮捕された」


「……そうですか」


「四年前の城壁修繕費、金貨五十枚のうち、実際に工事に使われたのは十枚程度だった。残りはグリュンドが横領していた。帳簿の改竄と、工事報告書の虚偽記載。職人ギルドの看板を使った詐欺だ」


 金貨四十枚の横領。それだけの金があれば、ちゃんとした修繕ができた。コンクリートがなくても、まともに石を積み直してモルタルを打ち直すだけで、壁はずっとましになっていたはずだ。


 四年前のドラゴン災害で壊れた壁を、金を惜しんで手抜きで直した。その壁が次のドラゴンの時にまた崩れたら、何人死んでたか。


 ……怒りはある。だが、俺が怒っても仕方がない。


「グリュンドはどうなるんですか」


「投獄だ。王都商務局の管轄で裁かれる。職人ギルドからも除名された」


「分かりました。——俺からは以上です。壁の工事に戻ります」


 レンハルト卿が少し驚いた顔をした。もっと何か言うと思ったんだろう。恨み言とか、ざまあ見ろとか。


 言わねえよ。あいつのことに使う時間があったら、壁を一段でも多く積んだ方がいい。


 伯の屋敷を出た。


「親方、グリュンドの話か」


 外で待ってたガルドが訊いた。


「ああ、捕まったとさ」


「……ざまあみろ、とは言わねえのか」


「言ってどうなる。壁が早く直るわけじゃねえだろ」


 ガルドが黙って頷いた。


 ただ、一つだけやることがある。


 職人ギルドに寄った。グリュンドの下で働いていた石工が何人かいるはずだ。親方が捕まって、仕事を失った連中。


 ギルドの前に五人ほどいた。みんなバツが悪そうな顔をしてる。


「お前ら、仕事を探してるなら城壁の現場に来い。人手は足りてねえ。日当は銅貨五十枚だ」


 五人が顔を上げた。


「……いいのか。俺たちはグリュンドの下にいた人間だぞ」


「グリュンドが悪いのであって、お前らが悪いわけじゃねえだろ。腕は確かなんだろ?」


「……ああ」


「じゃあ来い。石を積める奴は一人でも多い方がいい」


 五人が揃って頭を下げた。


 これでいい。恨みで人を遠ざけるより、腕で仕事を回した方が壁は早く直る。



    * * *



 工事再開。人員が増えて、ペースが上がった。


 東面の改修に入る。北面で培ったノウハウがあるから、手順に迷いがない。石を剥がす。ドワーフの基礎を確認する。噛み合わせの溝入りブロックを積む。コンクリートで固定。控え壁を追加。次の区画へ。


 流れ作業が板についてきた。一日五十メートルのペースで壁が生まれ変わっていく。


 改修が終わった区間を叩くと、鈍く重い音が返ってくる。密度が違う。前の壁とは別物だ。


 リルの土精霊が確認してくれた。


「親方さん、精霊が言ってます。新しい壁は、力がきれいに流れてるって。石同士が全部繋がって、一枚の大きな岩みたいになってるって」


 一枚の大きな岩。理想的だ。噛み合わせの溝で石が繋がり、コンクリートで固定され、控え壁で横揺れを支える。三重の防御。


 このペースなら、あと四ヶ月で全周が——


「親方」


 カーラが壁の上から降りてきた。珍しく顔が真剣だ。


「北の方、おかしいわ」


「おかしいって何がだ」


「鳥がいない。朝から一羽も飛んでない。それと——山鳴りがする」


 山鳴り。


 耳を澄ませた。


 遠くで、低い音が鳴ってる。ゴゴゴ、というか、ズズズ、というか。地面の底から響いてくるような振動。


「リル、精霊に聞いてくれ。北の山に何か変化があるか」


 リルが目を閉じた。しばらくして、顔色が変わった。


「親方さん……ノームが怯えてます。山が揺れてるって。大きい何かが動いてるって」


「大きい何か」


「分かりません。でも……すごく大きいって。ノームがこんなに怖がるの、初めて見ました」


 グラオス山脈。ドラゴンの巣。


 嫌な予感がした。


 バルクス隊長のところに走った。北の砦に駐屯してる隊長から、情報を引き出す。


「バルクス隊長、北の状況は」


「実は、ここ数日で山から降りてくる魔物の数が急増している。オーガだけじゃない。ゴブリンやワーウルフまで、山から逃げるように南下してきている」


「逃げるように?」


「ああ、まるで何かから逃げているように見える。こちらに攻撃してくるというより、通過しようとしている」


 魔物が山から逃げてる。何かもっと大きなものに追い立てられて。


 四年前の『竜降ろし』の前も、同じ現象が起きたと古参の兵士が言ってたのを思い出した。


「……隊長。前回のドラゴン降下の前にも、こういうことがありましたか」


 バルクス隊長の顔が強張った。


「……あった。魔物が山から逃げ出して、その二週間後に、大型ドラゴンが降りてきた」


 二週間。


 俺は城壁を見上げた。


 北面は完了。東面は半分。南面と西面は手つかず。全体の進捗は——四割。


 四割。残り六割が、まだ古い壁のままだ。


「ガルド」


「なんだ、親方」


「工事のペースを上げる。全チーム、夜間作業を追加。交代制で二十四時間回す」


「……来るのか」


「来るかもしれねえ。来なけりゃそれでいいが、来た時に間に合ってなきゃ話にならねえ」


 ガルドの顔が引き締まった。


「分かった。全員に伝える」


 走っていった。


 俺は壁を見上げたまま立っていた。


 八キロの壁。四割完了。残り六割。大型ドラゴンが来るまでに間に合うか。間に合わなかったらどうなるか。


 答えは簡単だ。壁が崩れて、街が壊れて、人が死ぬ。


 それだけは——絶対に許さねえ。


「全員集合! 段取りを変えるぞ、時間がなくなった」


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