表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/42

親方、壁を剥がす


 五日後、返事が来た。


 金貨三百枚、全額承認。


 レンハルト卿が書面を持ってきた。王印が押してある。正真正銘の『国家事業』だ。


「国王陛下の裁可が下りた。城壁改修は国家防衛事業として、棟方殿に全権を委託する。人員と資材の調達には王都駐屯軍の協力を付ける」


「王都駐屯軍の協力?」


「兵士を作業員として使える。最大、百名まで」


 百名。今までの三倍以上の人数だ。これなら八キロの壁にも手が届く。


「ありがたく使わせてもらいます」


「もう一つ。今回の城壁調査で、四年前の修繕工事に重大な問題があったことが判明した。この件は王都商務局で別途調査する」


 グリュンドか。


 四年前の城壁修繕を担当したのはグリュンドの石工チーム。修繕費として金貨五十枚が支払われたはずだが、実際の工事は石を載せただけ。金はどこに消えたのやら。


 俺がどうこう言う話じゃない。王都の役人が勝手に調べるだろう。俺は壁を直すだけだ。



    * * *



 城壁改修、第一段階。


 最も危険な北面から着手する。グラオス山脈に面してる壁だ。ドラゴンが来るとしたら、まずここに衝撃が来る。


 作業員は石工チームのハインツ以下十五名、ダグの大工チーム八名、軍からの兵士五十名、ガルドの土工班二十名。合計九十三名。


 ガルドが目を輝かせてる。



「親方、百人近い現場だぞ。すげえな!」


「すげえのはこれからだ。まず壁の外側の表面を剥がす」


「剥がす!? 直すんじゃなくてか?」


「表面だけ塗り直しても意味がねえ。中身を確認して、ダメな石を取り替えて、基礎からやり直す。だからまず表面を剥がして、壁の中身を見る」


 城壁の外側から、風化した目地と表面の石を剥がしていく。北面の一区画、長さ五十メートル分。


 兵士たちにツルハシを持たせて、表面を慎重に崩させる。壊しすぎたら壁自体が倒れるから、加減が要る。


「いいか、表面の石だけ剥がせ。奥まで突くな。力任せにやるな。壁が倒れたらお前らが下敷きだ」


 兵士たちは命令に従うのは得意だが、加減ってもんが分からない。三人ほどが力を入れすぎて危うく壁を貫通しかけた。そのたびに怒鳴って止める。


「もっと優しく! 赤ん坊をあやすつもりでやれ!」


「赤ん坊をツルハシであやすのか!?」


「たとえだよたとえ!」


 半日かけて、北面の表面を剥がし終えた。壁の内部構造が露出する。


 見えた中身は——予想通り、ぐちゃぐちゃだった。


 石のサイズがバラバラ。大きい石と小さい石が無秩序に詰まってる。目地が入ってない隙間がいくつもある。中には土を詰めただけの場所もあった。


「こりゃひでえ……」


 ハインツが顔をしかめた。石工の目から見ても、ひどい施工だと分かるんだろう。


「四十年前の施工がこれだからな。当時はこれが普通だったんだろう。責める気はねえ。だが、このまま放っておくわけにもいかねえ」


 壁の下部——基礎に近い場所を掘り始めた時だった。


「親方、なんか出てきたぞ」


 ガルドが呼んだ。


 壁の最下部、地面すれすれの場所。城壁の石とは明らかに違う、別の石材が顔を出していた。


 黒っぽい石。きめが細かくて、角が鋭い。表面に模様が——いや、模様じゃない。彫り込みだ。規則正しい溝が、石の表面に刻まれている。


「これ……」


 ルッカが駆け寄ってきた。石の表面に手を当てて、指で溝をなぞった。


 目が見開かれた。


「旦那。これ、ドワーフの石組みです」


「間違いないか」


「間違いありません。この溝は噛み合わせ(インターロック)です。石と石を溝で噛み合わせて、ずれないようにする技術。じいちゃんの山岳都市で使われてた工法です」


 ドワーフの遺構。


 城壁の下に、もっと古い建造物が埋まってる。王都ローデンが建設される前に、ここにドワーフの都市があったのか。


「リル、精霊にこの下を調べてもらえるか。どこまで続いてる」


「はい。――ノームが言ってます。この石の層、ずっと続いてるって。少なくとも北面の全域。深さはこのくらい……膝の下くらいまで」


 北面の全域。城壁の下に、ドワーフの古い基礎が眠ってる。


「ルッカ、お前がさっき言ってた話を覚えてるか。ドワーフの山岳都市は、ドラゴンが来ても壊れなかったって」


「はい。石の中に柱を通して、山と一体にしてたって——」


「この基礎がそれか」


 ルッカが黒い石をもう一度触った。今度はゆっくり、丁寧に。


「……かもしれません。この噛み合わせの溝、ただ石を固定してるんじゃない。力を隣の石に逃がすための構造です。一つの石が衝撃を受けたら、溝を通じて隣に分散する。隣もまた隣に分散する。全体で衝撃を受け止める仕組みです」


 衝撃の分散、免震じゃなく制震に近い考え方だ。俺が砦の帰り道に考えてたのと、方向性が同じ。


 ドワーフは経験的にこの技術にたどり着いてたってことか。理論は知らなくても、何百年もドラゴンと共存してきた経験が、この溝を生み出した。


「ルッカ。この溝の寸法と角度を全部記録しろ。一つ残らずだ」


「はい!」


 ルッカが目を輝かせて記録を始めた。自分のルーツに繋がる技術が、目の前にある。こいつにとっちゃ、金貨何枚分の価値がある発見だ。



    * * *



 夜。作業場で、ルッカが記録した溝のデータを眺めていた。


 面白い。溝の角度が一定じゃない。場所によって微妙に変わってる。地盤の硬さに合わせて角度を調整してるんだ。硬い地盤の上では浅い溝、軟らかい地盤の上では深い溝。力の伝わり方を、地盤ごとに最適化してる。


 理屈としては理解できる。だが、これを測定器もなしに経験だけで実現したドワーフの技術力は、正直すげえとしか言いようがない。


「旦那」


「なんだ」


「この技術、城壁の改修に使えますか」


「使える。ドワーフの噛み合わせとコンクリートを組み合わせる。古い基礎を活かして、その上にコンクリートの補強帯を打つ。噛み合わせの溝で衝撃を分散して、コンクリートで全体を固める」


「ドワーフの技術と、旦那の技術を、合わせるってことですか」


「そうだ。お前のじいちゃんの知恵と、俺の知識を組み合わせる。千年の経験と現代の材料。最強の組み合わせだ」


 ルッカの目に涙が浮かんだ。


「……じいちゃんが言ってました。ドワーフの技術は、いつかきっと誰かの役に立つって。忘れちゃいけないって」


「忘れなくてよかったな」


「はい……」


 ルッカが袖で目を拭いた。


 おい、泣くな。泣かれると困る。


「ルッカ」


「はい」


「明日から忙しくなるぞ。お前には噛み合わせの溝を、新しい石に刻む仕事を任せる。ドワーフの工法を一番よく知ってるのはお前だ」


「……はい! 任せてください、親方!」


「おう。頼むぞ、ルッカ」



 ガルドがにやにやしてる。リルが小さく拍手してる。カーラが寝てる。まあ、あいつはいつも通りだ。


 さて。明日から城壁の改修だ。


 ドワーフの千年と、俺の二十五年。合わせて千二十五年分の技術で、この壁を作り直す。


 ドラゴンが来ても壊れない壁を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ