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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

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19/42

親方、市場を開く


 南区画の再開発を始めて四ヶ月。


 市場が完成した。


 メインストリートのコンクリート道路が東西に走り、その交差点に広場。広場の正面に商人ギルドの取引所兼集会棟。二階建て、木とコンクリートの混構造。この街で一番まともな建物だと自負してる。


 広場の東に公衆浴場。連日百人以上が押しかける稼ぎ頭。


 通りの両側に店舗が二十四軒。石灰岩の壁にコンクリートの基礎。間口と奥行きは全て統一してある。まだ空きはあるが、半分以上にはテナントが入った。八百屋、肉屋、パン屋、布屋、鍛冶屋、道具屋、薬屋。生活に必要なもんが一通り揃う。


 排水路は全域に行き渡っていて、雨が降っても道はぬかるまない。下町の他の区画とは別世界だ。


「……やったな」


 広場の中心に立って、ぐるっと見回した。


 四ヶ月前、ここは雑草と瓦礫だらけの荒れ地だった。ドラゴン災害で焼けてから三年間、誰にも見向きもされなかった場所。


 それが今、市場になってる。


 感傷に浸ってる暇はない。今日は開場式だ。



    * * *



 朝から人が集まり始めた。


 下町の住民はもちろん、上町からも見物人が来てる。噂が広まってたんだろう。「南区画に変な市場ができたらしいぞ!」「道路が石みたいに硬い!」「湯に浸かれる浴場がある!」。


 開場式はフェルマンが仕切った。商人ギルドの理事たちが並んで、挨拶やら何やら。俺はそういうのは苦手だから、端っこに立っていた。


 ヴェルトール伯も来た。伯の隣に、見かけない男が立っている。上等な服を着た中年。目つきが鋭い。



「棟方殿、紹介する。王都商務局の局長、レンハルト卿だ」


「初めまして。棟方鉄です」


「レンハルトだ。ヴェルトール伯から報告は受けている。自分の目で確かめに来た」



 王都商務局、つまり王国の役人だ。伯より上の、国の偉い人。こういうのが出てくると話がどでかくなる。


 レンハルト卿が市場を歩いて回った。道路を踏み、壁を触り、排水路を覗き込み、店舗に入り、浴場も見学した。


 一時間ほどして戻ってきた。



「棟方殿。いくつか質問がある」


「どうぞ」


「この道路の材料は何か?」


「コンクリートです。石灰と火山灰と砂と砂利を——」


「それは聞いた。聞きたいのは、これを他の場所にも作れるかどうかだ」


「材料があれば、どこにでも」


「王都の他の区画にも?」


「できます」


「……王都以外の都市にも?」


「材料さえ手に入れば」


 レンハルト卿が顎に手を当てて考え込んだ。


「棟方殿。この市場の建設費用と工期を教えてもらえるか?」


「総工費は金貨約八十枚。工期は四ヶ月。作業員は最大三十名体制」


「金貨八十枚で、この規模の市場が四ヶ月か。——ヴェルトール伯、従来の工法で同規模の市場を建てた場合、どのくらいかかる」


 伯が答えた。


「石工の試算では、最低でも二年……費用は、()()()()()()()


「つまり四分の一の費用で、六分の一の工期……」


 レンハルト卿が俺を見た。


「棟方殿! 近いうちに、王宮から正式な依頼が行くかもしれん。心づもりをしておいてほしい!」


「……何の依頼ですか」


「まだ言えん。だが、この技術は一つの市場に収めておくにはあまりに惜しい」


「まあ……分かりました」


 それだけ言って、レンハルト卿は護衛と共に去っていった。


 ……王宮から正式な依頼、だってぇ?


 やれやれ……勘弁してくれよ、俺はただの土方だぜ。



    * * *



 開場式が終わって、市場が正式にオープンした。


 人の波が押し寄せてきた。


 広場は朝市みてえな賑わいだ。店舗から威勢のいい声が飛ぶ。子供が走り回る。荷馬車がコンクリートの道路を滑るように走る。


 浴場には朝から行列。もう慣れた光景だ。


 ガルドが広場の端で焼き鳥みてえなもんを買い食いしていた。


「親方、この市場すげえな。人がわんさかいるぞ」


「お前は働け」


「今日は開場式だから休みだって言ったのは親方だろ」


「……言ったか」


「言った」


 まあいい……今日くらいは。


 リルが精霊と一緒に排水路を点検して回っている。人が大勢来ると排水路にゴミが入りやすい。沈砂桝(ちんさます)の掃除も必要だ。こういう地道な管理作業を嫌がらないのは偉い。


 ルッカは店舗の扉の蝶番を調整していた。開閉がスムーズにいかない店があったらしく、呼ばれて直している。小さな仕事だが、テナントには大事なことだ。


「旦那、この蝶番(ちょうつがい)、鉄の質が悪いです。あとで全部作り直していいですか」


「頼む。だが、今日のところは少し休め」


「でも……あと、ちょっとだけ」


 職人気質だな。ドワーフの血ってやつか。


 カーラは浴場に入っていた。開場式に顔を出す気はなかったらしい。この姐さんのブレなさはある意味すごい。


 夕方。人の波が引いた広場に立った。


 フェルマンが帳簿を持ってきた。



「初日の市場全体の売り上げ、集計が出ました!」


「いくらだぁ?」


「店舗のテナント料と浴場の売り上げを合わせて、銀貨四十二枚です!!」



 銀貨四十二枚……一日で。日本円に換算すると、四十二万円。


 一日の売り上げとしちゃ大した額じゃないが、毎日続けば口コミでもっと集客が増え、月に銀貨千二百枚――金貨十二枚。建設費の金貨八十枚は、七ヶ月弱で回収できる計算だ。客が増えれば、もっと早い。



「上々だな」


「はい、商人ギルドの理事会でも『大成功だ』との評価です! そこで——棟方殿、理事会からの伝言が一つ」


「何だ?」


「次の依頼のご相談を、と。南区画の拡張案です」


「……もう次の話か」


「商人は欲張りなんです」


 フェルマンが涼しい顔で言った。はっ、こいつもなかなかくえねえ野郎だ。



    * * *



 夜。作業場に戻った。


 全員が飯を食い終わって、それぞれくつろいでいる。ガルドは食い過ぎて腹を抱えてる。リルは精霊に子守唄みてえなのを歌ってる。ルッカは蝶番の設計図を描いてる。カーラは寝てる。


 俺は窓辺に座って、外を見ていた。


 南区画の方角に、ぽつぽつと灯りが見える。市場の店舗で、夜遅くまで仕込みをしてる店主たちの灯りだ。


 四ヶ月前は真っ暗だった。ドラゴンに焼かれてから三年間、灯りの一つもなかった場所に、今は人が集まって、飯を食って、風呂に入って、商売をしてる。


 俺がやったのは、地面を整えて、水を流して、石を積んだことだ。人を集めたのは商人で、飯を作ったのは料理人で、店を開いたのは店主たちだ。


 建築ってのはそういうもんだ。舞台を作る仕事。舞台の上で踊るのは別の人間。だが、いい舞台がなけりゃ誰も踊れねえ。


 ……柄にもなく格好いいこと言っちまった。疲れてるんだな、きっと。



「おーい親方ー、風呂沸いてるぞー」


 ガルドの声が聞こえた。


 よし、風呂入って寝よう。明日も仕事だ。


 市場は完成した。だがやることはまだ山ほどある。南区画の拡張。上下水道。もしかしたら王宮からの依頼。


 そして、いつか——この街全体を、ドラゴンが来ても壊れない街にする。


 それが俺の仕事だ。棟方鉄、四三歳、異世界土方のな。



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