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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

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親方、市場を建てる


 南区画の再開発が始まって二ヶ月。


 排水路は完成した。コンクリートの道路も、メインストリートの八割が敷き終わった。石工チームが加わったおかげで、当初の計画より二週間も早い。


 いよいよ建物に入る。


 市場の中心になる広場に、最初の建物を建てる。商人ギルドの取引所を兼ねた二階建ての集会棟だ。南区画の顔になる建物だから、手は抜けない。


 で、こいつをコンクリートで建てる。


 この世界で初めてのコンクリート建築だ。



    * * *



 まず基礎。これは慣れたもんだ。割栗石を敷いて突き固め、その上にコンクリートを流す。精霊に地盤を調べてもらって、弱い場所は深く掘って補強。


 問題は壁だ。


 道路は平面にコンクリートを流すだけだった。だが壁は立ってる。重力に逆らって、縦にコンクリートを積み上げなきゃならない。


 方法は一つ。型枠だ。


 壁の形に木の板を両面から組んで、その隙間にコンクリートを流し込む。固まったら型枠を外す。道路と同じ原理だが、立体になる分、型枠の精度が段違いに求められる。


「ガルド、板を立てろ。真っ直ぐだ。水糸で確認しながらやれ」


「おう!」


「石工チーム、コンクリートを練れ。今日は壁一面分を一気に流す。途中で切ると接合部が弱くなる」


「了解だ、棟方!」


 石工のリーダー格になったハインツって男が答えた。グリュンドの下で働いてた中堅の石工だが、コンクリートの扱いを覚えるのが一番早かった。腕のいい職人は新しい技術への適応も早い。


 型枠が組み上がった。高さ三メートル、長さ八メートルの壁一面分。板と板の間にコンクリートを流し込む。


「いくぞ、上から流せ! ——ゆっくりだ、一気にどばっとやるな。型枠が膨らむ」


 バケツリレーでコンクリートを型枠の上部から投入していく。灰色のどろどろが型枠の隙間を満たしていく。


 途中、型枠の下部から水分が染み出してきた。


「おい、漏れてるぞ!!」


「大丈夫だ。余分な水が抜けてるだけだ。むしろいい、水が多すぎると強度が落ちるからな」


 石工たちが怪訝な顔をしたが、俺が落ち着いてるのを見て作業を続けた。こういう時に慌てない親方がいると、現場は安心する。逆に親方が慌てたら、全員パニックだ。


 壁一面分のコンクリートを流し終わった。あとは固まるのを待つ。


「三日後に型枠を外す。それまで触るな」


 リルに養生を頼んだ。水の精霊がコンクリートの水分を管理して、急激な乾燥を防いでくれる。


 三日後。


「外すぞ」


 型枠の板を一枚ずつ剥がしていく。


 灰色の壁が現れた。


 滑らかな表面。三メートルの高さで真っ直ぐ立ってる。叩くと硬い音がする。石そのものだ。いや、自然の石より均質で、継ぎ目がない。一枚の巨大な石の板が地面から生えてるみてえな光景。


「…………」


 作業員たちが声も出ない。


 ハインツが壁に手を当てて、上から下まで撫でた。


「継ぎ目がない。石を積んだら必ず目地が入る。だが、これには一つもない。一枚の石だ」


「そうだ。型枠の形がそのまま壁になる。石を切って積む必要がねえ」


「こいつを作るのに、石工は三日間コンクリートを練っただけだ。同じ壁を石で積んだら——」


「二週間はかかるな」


 ハインツが腕を組んで黙り込んだ。それから、へっと笑った。


「棟方、こいつは確かにとんでもねえ材料だ。俺たちの仕事が変わるわけだ」


「変わるが、なくなりはしない。型枠の精度は腕が要る。コンクリートの配合も勘が要る。職人の技術は、形を変えて生き残るんだ」


 壁が一面できた。同じ手順で残りの三面も作っていく。一面三日。四面で十二日。柱はほぞ組みの木造で、壁はコンクリート。屋根は木の骨組みに瓦。


 木とコンクリートの混構造。この世界にはない建築様式だ。



    * * *



 一階部分が完成した頃、フェルマンが見学に来た。


「素晴らしい。予想以上の出来です。この建物一つで、南区画の価値がまた跳ね上がりますよ」


「まだ一階だけ、二階はこれからだ」


「二階。——棟方殿、実は一つ相談が」


 フェルマンが図面を広げた。市場の全体配置図。広場を中心に、取引所、倉庫、店舗が並んでいる。その東端に空白の区画がある。


「ここに、公衆浴場を作りたいのです!」


「浴場?」


「棟方殿の作業場の浴場が大変な評判でして。商人ギルドの理事たちも入りに行っているのですが、小さすぎて行列が絶えない。市場の集客施設として、大きな浴場を併設したい……と」


 公衆浴場、か。


 あの五右衛門風呂の延長で、でかいのを作るわけだ。コンクリートなら浴場に最適だ。防水性が高くて自由な形に成型できる。湯船もコンクリートで作れば、レンガを積む手間が省ける。


 頭の中に設計図が浮かんだ。


 ローマ式の公衆浴場。でかい湯船が二つ。熱い湯と温い湯。脱衣所と休憩所。床は勾配(こうばい)をつけて排水路に繋ぐ。壁と床はコンクリート。湯の加熱は——床下暖房(ハイポコースト)だ。床の下に空間を作って、そこに熱い空気を通す。古代ローマ人がやってた方法。火の精霊がいりゃ、熱効率は段違いに良くなる。


「やる」


「えっ!?」


「やるよ、浴場。市場の目玉にしようぜ」


 フェルマンの顔がぱっと明るくなった。


「本当ですか!? 予算は——」


「浴場は入浴料で回収できるだろ。初期投資は市場の予算から出して、運営は商人ギルドに任せる。そのかわり、設計と施工は全部俺がやる。口は出すな」


「もちろんです、お任せしますとも!!」


 フェルマンは鼻歌を鳴らして、嬉しそうに帰っていった。


 浴場、か。風呂を作るのは好きだ。何せ自分が入りたいからな。



    * * *



 夕方、作業場で図面を描いていると、カーラが覗き込んできた。


「何描いてんの」


「浴場の設計だ」


「浴場! でかいの!?」


「ああ、市場に併設する公衆浴場だ。今の風呂の十倍はでかい」


 カーラの目が輝いた。この姐さん、風呂の話になると急にテンションが上がるな。


「あたしも意見言っていい?」


「何だ?」


「脱衣所を広くして。あとね、湯船の縁に座れるところが欲しい。長風呂する時に腰掛けたいの」


「……お前、注文が細かいな」


「毎日入る客の意見を聞きなさいよ」


 まあ、ユーザーの声ってのは大事だ。毎日入ってる奴の意見は参考になる。悔しいが。


 ルッカが横から図面を見て言った。


「旦那、浴場に使う金具、わたしに作らせてください。排水の栓とか、湯を止める弁とか。鉄で作れば。レンガより長持ちします」


「頼む。寸法はこれから出す」


 ガルドが筋トレしながら聞いていた。こいつは風呂の話には興味がないのか、聞いてるんだか聞いてないんだか。


「ガルド、浴場を作る時、でかい湯船の型枠を組む。お前の力が要る」


「おう。任せろ。——で、その浴場、俺も入れるのか」


「当たり前だ。弟子の特権だって言っただろ」


「へへっ……合点承知!」


 嬉しそうだ。「自分も入れるのか」が気になってただけっぽいな、こりゃあ。


 リルが精霊と何か話していた。


「親方さん、水の精霊が張り切ってます。大きいお風呂って聞いて、嬉しいみたいです」


「ほう、精霊も風呂好きなのか」


「水の精霊は水がたくさんある場所が好きなんです。お風呂は水の精霊にとっては天国みたいなものだって」


 天国ねえ。精霊の天国が風呂ってのは、なんかいいな。


 図面に向き直った。炭の線が板の上を走る。湯船の形、排水の経路、床下暖房の空気の道筋。


 でかい仕事だ。市場の建物と浴場を同時に進める。工期は厳しいが、人手はある。材料もある。


 ……やっぱり、この仕事が好きだ。


 さて、明日は二階に取りかかるか!



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