表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

159/161

親方、弟子を送り出す


 メルダが帝国に発つ日が来た。


 朝。学院の講堂に全員が集まった。棟方組、一期の卒業生、二期生、三期生。ヴァルターが帝国から迎えに来てる。セオが荷物の最終確認をしてる。


 メルダは首巻きを巻いて、背筋を伸ばして、荷物を一つだけ持ってる。中身は——セオに訊いた。


「仕様書の写しが三部。運営マニュアルの原本が一冊。工程管理の帳簿のひな型が一冊。あと突き棒が一本」


「突き棒を持っていくのか」


「『これがないと始まらない』って言ってました」


 正しい。突き棒がなけりゃ基礎が打てねえ。基礎がなけりゃ何も建たねえ。


 朝の体操をした。全員で。メルダも。ガルドも。三期生も。ヴァルターが見よう見まねで腕を回してる。でかい体がぎこちなく動いてる。


「ヴァルター。体操下手くそだな」


「うるさいわ。儂は石工であって体操選手ではないぞ」


「帝国の学院でも毎朝やらせろ。メルダに任せりゃ回るから」


「分かっとる」


 体操が終わった。


「——ご安全に」


「「ご安全に!!」」


 五十人近い声が講堂に響いた。



    * * *



 メルダの前に立った。


 何を言うか。送別の言葉なんざ考えてねえ。そういうの苦手だ。千人の前でスピーチした時も「土方です」で済ませたくらいだ。


「メルダ」


「はい!」


「帝国に行ったら、まず学院の場所を決めろ。ヴァルターと相談して、地盤がいい場所を選べ。——建てる前に地面を見ろ」


「はい、分かりました」


「校舎は学生に建てさせろ。自分で建てるな。学生が建てることに意味がある」


「学生が建てることに意味が……」


「壁の種類は四つ全部やれ。ブロック、レンガ、版築、木造。——帝国は石が豊富だからレンガに偏りやすい。偏るな。全部教えろ」


「全部ですね」


「壊す授業を忘れるな。建てた壁を壊して弱点を見せろ。——ガルドが殴るのが一番効くが、帝国にガルドはいねえ。代わりに石のハンマーを使え」


「はい。——ガルドさんの代わりは難しいですが、やります」


「風呂を建てろ」


「それは絶対に!」


「差し入れが来たら断るな」


「はい!」


「手締めを忘れるな。建物が完成するたびに全員で打て」


「全員で打ちます!」


「困ったら連絡しろ。一人で抱えるな」


「……はい!」


「分からねえことがあったら仕様書を読め。仕様書に書いてなかったら訊け。訊くのは恥じゃねえ。訊かないで間違える方がよっぽど恥だ。あと——コーヒーの豆を持っていけ。帝国にはねえだろ」


 懐から布袋を出した。豆が二百グラムくらい入ってる。俺のストックの三分の一だ。痛いが、まあいい。


「……はい。——ありがとうございます」


 メルダの目が潤んでる。こいつが泣くのは初めて見た。


「泣くな。段取りが狂う」


「泣いてません。——目にゴミが入っただけです」


「嘘つきだな」


「親方に言われたくないです」


 ……言い返しやがった。こいつの気の強さは帝国で役に立つだろう。


 三期生が前に出てきた。入学したばかりの奴らだ。メルダと直接話したのは数日だが、運営マニュアルでさんざん世話になってる。


「メルダ先輩! マニュアルありがとうございました! あれがないと何も分かりませんでした!」


「ちゃんと読んでね。特に第三章の安全管理。——試験に出すから」


「試験あるんですか!?」


「冗談よ。——でも読んでね」


 冗談か本気か分からねえところがメルダだ。たぶん本気だ。



    * * *



 ユーリが前に出た。


「メルダさん。——僕から一つ渡したいものがあります」


 ユーリが紙の束を差し出した。メモ帳のコピーだ。


「僕のメモです。カイザで建てた時のメモ。卒業試験の時の判断と失敗を全部書いてます。——参考になるかは分かりませんが」


「ユーリ……ありがとう。——読むわ。全部」


 セオが横から封筒を差し出した。


「これは帝国学院の初年度の収支計算書です。想定される経費と収入を試算しました。——薪代が一番かかるので、版築の壁で蓄熱すると節約になります」


「セオさん。……ありがとう」


「頑張ってください。——精霊の交信で月次報告お願いしますね。数字を」


「数字ね。——了解」


 ガルドが前に出た。何か言おうとして——


「メルダ。——あのな」


「はい」


「……壁叩けよ。毎日」


「叩きます。——ガルドさんも、学生を殴りすぎないでくださいね」


「殴ってねえ! 叩いてるだけだ!」


「同じでしょ」


「違う!」


 トルテが「ガルドさん、それ同じですよ」と横から刺してる。ガルドの耳がぺたんとしてる。


 ルッカが前に出た。小さな包みを差し出した。


「メルダ殿。これ、予備の楔と金具の一式です。帝国の鍛冶屋に同じものを作らせる時の見本にしてください。——寸法と角度は全部刻んであります」


「ルッカさん。……ありがとうございます」


「困ったら精霊の交信で呼んでください。鍛造の相談ならいつでも」


 ルッカは口数が少ねえが、やることが的確だ。見本を持たせるって発想が鍛冶師だ。


 リルが駆け寄ってきた。


「メルダさん! 帝国にもノームはいますから、困ったらノームに話しかけてください! 地盤のことはノームが教えてくれます!」


「ノームに話しかけるって……あたし、精霊と話せないんだけど」


「大丈夫です! 話しかけてれば、そのうち聞こえるようになります! ——たぶん!」


「たぶんか!」


 カーラがメルダの肩に手を置いた。


「メルダちゃん。帝国に着いたら、まず風呂を建てなさい。何よりも先に」


「何よりも先に……」


「風呂ができれば人が集まるの。人が集まれば学院が始まる。——風呂が全ての始まりよ」


「……カーラさん。その理論、ちょっと偏ってません?」


「偏ってないわ。事実よ」


 偏ってる。だが実績はある。王都の学院も下町湯も、風呂ができてから人が集まった。悔しいが否定できねえ。


 ミーナが最後に近づいた。


「メルダ。——仕様書を、大事にしてください」


「もちろん」


「建ノ民は仕様書を作りませんでした。全部、個人の頭の中にあって、個人と一緒に消えました。——あなたが持っていく仕様書は、消えません。紙に書いてあるから」


「消しません。——増やします。帝国で新しい技術が生まれたら、追加します」


「……ありがとう」


 ミーナが小さく頭を下げた。



    * * *



「——全員、手を出せ」


 全員が手を上げた。五十人。


「よぉーーーっ!」


 パパパン! パパパン! パパパン! パン!


 手締めがドームに反響した。五十人の拍手が百人分になって講堂を満たした。


 メルダが拍手の余韻の中で立ってる。目が赤い。だが笑ってる。段取りの鬼が笑ってる。


「——行ってきます」


「ご安全に」


 メルダが歩き出した。ヴァルターが横に並んだ。西門に向かって歩いていく。


 首巻きを巻いてる。突き棒を担いでる。仕様書を抱えてる。コーヒーの豆を持ってる。


 街道を歩いていく。宿場に泊まって、橋を渡って、トンネルを抜けて、帝国に着く。三日の旅だ。


 背中が小さくなっていく。だがしっかりした足取りだ。迷いがねえ。段取りはもう頭の中にあるんだろう。あいつはそういう奴だ。計画を立ててから動く。立てた計画通りに動く。そして計画にない問題が起きたら、現場を見て判断する。——教えた通りだ。


 ガルドが鼻を鳴らしてる。トルテがガルドの腕にしがみついてる。「ガルドさん泣いてます?」「泣いてねえ!」。いつものやり取りだ。リルが精霊に「メルダさんがんばってー」と叫んでる。大陸中に聞こえるぞそれ。エルノの耳が赤い。ルッカが工具を磨いてる。ユーリがメモ帳を閉じてる。セオが帳簿を見直してる。ミーナが講堂の柱に寄りかかってる。


 カーラが俺の隣に立ってる。


「行ったわね」


「行った」


「次の学院ができるのね。帝国に」


「できる。——メルダなら回せる」


「回せるわね。——あの子は最初から回す側だったもの」


 一期生が入学してきた時、初日に隣の学生のマメに包帯を巻いてた女だ。「怪我人が出たら工程が遅れる。段取りの問題」って言ってた。あいつの根っこは何も変わってねえ。ただ段取りの範囲がでかくなっただけだ。


 コーヒーを飲んだ。メルダに渡した分、豆が減った。次の仕入れをセオに頼まなきゃいけねえ。


 ——帝国でもコーヒーが飲まれるようになるのか。悪くねえ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ