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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

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親方、居場所を一つ作る


 ある晩、棟方組の家に帰ったら、ミーナが中庭の水盤の横に座ってた。


 精霊たちがふわふわ浮いてる中庭だ。リルが「精霊が落ち着ける場所が欲しい」って言うから、家を建てた時に木と水盤と花壇を配置した。昼間はリルが精霊と遊んでるが、夜は誰もいねえ。


 誰もいねえはずの中庭に、ミーナが座ってる。


「何してる」


「座ってます」


「見りゃ分かる。なんでこんな時間にここにいるんだ」


「他に行く場所がないので」


 ——そうか。こいつ、寝る場所がねえのか。


 記録体だから寝る必要はねえんだろうが、夜の間どこにいるかなんて考えたことがなかった。昼は俺たちと一緒に動いてるが、夜は——どこにもいなかった。講堂の隅か、中庭か、校舎の柱の影か。


「お前、ずっとここで夜を過ごしてたのか」


「はい。問題ありますか」


「問題はねえが——いや、ある。冬になったらここは凍えるぞ」


「記録体なので凍えません」


「凍えなくても居場所がねえのは問題だ。——ちょっと待ってろ」



    * * *



 翌朝。カーラに相談した。


「ミーナの部屋を作りたい」


「あら。やっと気づいたの」


「気づいてたのか」


「あの子、毎晩中庭にいるわよ。雨の日も。——あたし、何度か声かけたけど『大丈夫です』って言うのよ。大丈夫じゃないわよどう見ても」


 カーラが先に気づいてた。俺は気づいてなかった。建物ばかり見てて、そこに住む奴のことを見落としてた。——恥ずかしい話だ。


「どこに建てる」


「中庭の横。あの子が座ってた場所の近くがいい。精霊のそばにいると落ち着くみたいだから」


「大きさは」


「小さくていい。二間四方。壁と屋根と窓があれば十分だろ。——あいつは荷物なんか持ってねえんだから」


「棚は付けてあげて。本を置くかもしれないでしょ」


「本を読むのかあいつ」


「読むわよ。エルノさんの仕様書をずっと読んでたわ」


 知らなかった、とは言えなかった。



    * * *



 ミーナには黙って建てることにした。完成してから見せる。


 場所は中庭の東側。精霊の水盤から三メートル。小さい離れだ。二間四方。壁は版築にする。土の壁がいい。ミーナは地下都市で生まれた存在だ。石やコンクリートより、土の方が馴染むだろう。


 基礎を掘った。四十センチ。普通より浅いが、二間四方の小さい建物ならこれで十分だ。過剰な基礎は無駄だ。必要十分。


 割栗石を突いた。五十回。小さい建物だから少なくていい。ドンドンドン。いつもの音。朝のコーヒーの後に突き棒を振る。日課みてえなもんだ。


 版築に入った。型枠を立てて、土を入れて、突く。一人でやった。小さい建物だから一人で十分だ。ガルドが「手伝うか」と訊いてきたが断った。


「これは俺の仕事だ」


「何でだ」


「あいつを拾ったのは俺だからだ」


「拾ったのか建ったのかどっちだ」


「……向こうがついてきたんだ」


「それ前にも聞いた」


 壁を突きながら考えた。ミーナの部屋には何がいるか。


 あいつの体格を思い出した。俺の胸くらいの背丈。腕は細い。力はねえ。重い扉は開けにくい。天井は低くていい。高い棚には手が届かねえ。


 建物ってのは住む人間に合わせて作るもんだ。でかい人間にはでかい部屋。小さい人間には——でかい部屋じゃなく、ちょうどいい部屋。広けりゃいいってもんじゃねえ。体に合った空間が一番落ち着く。


 窓。光が入る方がいい。記録体でも暗い場所より明るい場所の方がいいだろう。東向きに一つ。高さはミーナの目線に合わせる。座った時に外が見える高さ。


 棚。カーラが言ってた通り、本を置く棚。エルノの仕様書は分厚い。五冊は入る棚がいる。高さはミーナの手が届く位置。


 椅子と机。仕様書を読むなら座る場所がいる。木の椅子を一脚、ルッカに頼んで脚を短くしてもらった。ミーナの体に合わせた高さ。机も低め。


 寝床は——いるのか。記録体は寝ねえ。だが「座る場所」はいるだろう。長椅子を一つ。座っても横になってもいいように。


 扉。石の扉は重すぎる。木の扉にする。蝶番を軽くして、ミーナの力でも片手で開くようにする。


 壁の厚さは二十センチ。普通の版築より薄いが、二間四方なら十分だ。蓄熱性は落ちるが、中庭に面してるから風は当たらねえ。


 防水層は粘土を一層。雨漏りだけ防げればいい。建ノ民の都市は防水が一重で壊れた。——一重でも定期的に確認すりゃ持つ。確認する人間がいれば。


 二日で完成した。


 小さい離れ。版築の壁に縞模様が出てる。赤と茶の帯。窓が一つ。木の扉が一つ。中に棚と机と椅子と長椅子。


 壁を叩いた。コン。いい音だ。空洞なし。


 ——よし。



    * * *



 ミーナを呼んだ。


「ついてこい」


「どこに行くんですか」


「いいから来い」


 中庭を通って、離れの前に立った。ミーナが建物を見た。小さい版築の建物。金色の目がぱちぱちしてる。


「これは?」


「お前の部屋だ」


「……わたしの?」


「お前の。——中を見ろ」


 木の扉を開けた。ミーナが中に入った。棚を見た。机を見た。椅子を見た。長椅子を見た。窓を見た。


 壁を——触った。


 版築の壁。手のひらで触ってる。指先で縞模様をなぞってる。ゆっくりと、全面を。


「……土の壁」


「版築だ。お前が地下にいた都市の壁と同じ素材だ。石じゃなく土。——馴染むだろ」


「……馴染みます。手が覚えてる温度です」


 記録体の手にも温度の記憶があるのか。千年前の都市の壁を触った時と同じ感触なんだろう。土の壁は土の壁だ。どこで突いても、誰が突いても、触った時の温かさは同じ。


「棚にはエルノの仕様書を入れとけ。読んでたんだろ」


「……知ってたんですか」


「カーラが教えてくれた。——仕様書、どうだった」


「分かりやすいです。建ノ民の技術記録より整理されてます。——図面が特にいい。エルノさんの図面は寸法が正確で読みやすい」


「エルノに言ってやれ。喜ぶぞ。耳が赤くなるぞ」


「言います」


 ミーナが机の前に座った。椅子の高さがぴったりだ。足がちゃんと床に着いてる。


「……椅子が低いですね」


「お前の背に合わせた。高い椅子に座って足がぶらぶらしてたら落ち着かねえだろ」


「……合わせてくれたんですか。わたしに」


「当たり前だ。建物は住む人間に合わせて作るもんだ。——お前が住むんだから、お前に合わせた」


 ミーナが長椅子に移った。小さい体が長椅子にすっぽり収まる。


「棟方。一つ訊いていいですか」


「何だ?」


「わたしは記録体です。寝る必要がない。食べる必要がない。——部屋がなくても困りません。なのに、なぜ作ったんですか」


「困らなくても、居場所はいるだろ」


「居場所……」


「お前が座ってた中庭は居場所じゃねえ。通り道だ。——居場所ってのは、壁があって、屋根があって、扉を閉めたら自分だけの空間になる場所だ。そこに帰ってくる場所だ」


「……帰ってくる場所」


「お前の先輩たちは、都市を建てたが、居場所を作らなかった。でかい建物をたくさん建てて、自分が安心できる場所を一つも作らなかった。——だから出ていった。帰る場所がなかったから」


 ミーナが黙った。長椅子の上で膝を抱えてる。小さい。


「ここがお前の居場所だ。好きに使え。——壁にヒビが入ったら言え。直してやる」


「……ありがとうございます」


「礼はいらねえ。部屋を一つ建てただけだ」


「部屋を一つ。——でも、わたしにとっては初めてです。自分の部屋」


「初めてか」


「はい。建ノ民の記録体に、個室はありませんでした。記録を保管する部屋はありましたが、あれはわたしの部屋ではなく、記録の部屋でした」


「じゃあここは、記録の部屋じゃなくミーナの部屋だ。——好きにしろ」


 ミーナの金色の目が潤んでる。泣くのか。……記録体は泣くのか?


「泣くなよ。壁が湿る」


「……泣いてません」


 嘘つけ。


 外に出た。カーラが中庭の入口で待ってた。


「喜んでた?」


「泣いてた」


「でしょうね。——あんた、時々すごくいいことするわよね」


「部屋を建てただけだ」


「それが一番いいことなのよ。——コーヒー淹れるわ」


 コーヒーを飲んだ。中庭のベンチで。ミーナの部屋の窓から明かりが漏れてる。仕様書でも読んでるんだろう。


 ——居場所を作るのが、俺の仕事だ。建物じゃなく、居場所を。


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― 新着の感想 ―
こんにちは。 どんな存在で有ろうが等しく扱うし、良いことは凄いと認めて素直に受け入れて自身の糧にしていくし、間違いやうっかり忘れてたことに気付いたらすぐ修正にかかる……地球人だからというよりは棟方さ…
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