表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/161

親方、全部確かめに行く


 西門を出た。街道を歩く。自分が敷いた道を。


 足の裏に砂利の感触がある。踏み固められて安定してる。かまぼこ断面の排水勾配も効いてて、路面に水は溜まってねえ。


 五キロ歩いたところで、最初の補修箇所を見つけた。


 路面の端、排水溝との境目に小さな亀裂が走ってる。幅一ミリ。まだ問題にはならねえが、放っておくと雨水が入って路盤を傷める。


「リル、モルタルくれ」


「はい!」


 亀裂にモルタルを詰めた。コテで押さえて平らにする。三分で終わる仕事だ。だが管理人は気づいてなかった。一ミリの亀裂は目視じゃ見つけにくい。足の裏で踏んで初めて分かる。


 この感覚は管理人に教えとかなきゃいけねえ。——第一宿場に着いたらメモを渡す。「路面の端を足の裏で確認しろ。靴を脱いで裸足で歩け。足の裏は目より正確だ」と。


「テツ、裸足で道を歩けって正気?」


 カーラが呆れてる。


「正気だ。足の裏は〇・一ミリの段差を感じ取れる。目じゃ見えねえ亀裂が足なら分かる」


「あんただけよそんなの」


「俺だけじゃねえ。慣れりゃ誰でもできる。——まあ、慣れるまでに千キロくらい歩く必要があるが」


「千キロ歩かせるの……」


 第一宿場に着いた。管理人が出迎えてくれた。首巻きを巻いてる。朝の体操をやってるらしく、腰を痛めた報告は来てねえ。


「棟方殿! 巡回ですか!?」


「定期点検だ。宿場の状態を見せてくれ」


 宿舎、馬小屋、井戸、風呂。全部確認した。壁を叩いた。音はいい。ヒビもねえ。排水も流れてる。風呂の竈も煤が溜まってねえ。


「よし。合格だ。——一個だけ。宿舎の入口の敷居が二ミリ浮いてる。踏むとカタカタ鳴る。下に砂を噛ませて固定しろ」


「二ミリ……! 分かりました!」


 二ミリだ。二ミリが転倒事故を起こす。夜中に暗い中で歩いて、敷居に足を取られて転ぶ。骨を折る。——安全ってのはそういうもんだ。



    * * *



 丘の切り通しに着いた。岩壁が両側にそびえてる。ルッカが層理面に沿って割ったきれいな断面がそのまま残ってる。


 壁面を叩いた。硬い音。岩は生きてる。


 だが排水溝に枯れ葉が溜まってた。掃除した。ここにも格子を付けるべきだな。帰ったらルッカに鍛造を頼む。


 切り通しの中を歩いてたら、旅人の一団とすれ違った。馬車二台。商人だ。


「おっ、あんた棟方の親方じゃねえか!! この切り通し、あんたが掘ったんだろ!?」


「掘った」


「毎週通ってるぜ!! 迂回しなくて済むようになって、帝国との取引が倍に増えたんだ!! ありがてえ!!」


「使ってくれ。道は使われてなんぼだ」


 商人が手を振って去っていった。馬車の車輪が砂利を噛んでゴロゴロ鳴る。いい音だ。路面が安定してる証拠。


 十二の橋を渡った。一本ずつ壁を叩いて、橋台の根元を確認して、洗掘がないか見た。


 七本目の橋。前回の巡回で捨て石を入れた箇所。石が効いてて追加の洗掘は起きてねえ。


 九本目の橋で新しい問題を見つけた。欄干(らんかん)(橋からの落下を防ぐ手すりとなるところ)の石が一個ゆるんでる。目地のモルタルが風化して崩れかけてた。


欄干(らんかん)は構造には関係ねえが、人が寄りかかって落ちたら死ぬ。——直すぞ」


 モルタルを詰め直した。十分の仕事。


 ミーナが橋の上を歩いてる。軽い、体重がねえのかこいつ。足音がしねえ。


「棟方。この橋は健全です。石が鳴ってます」


「分かるのか」


「建ノ民の長も壁を叩いてました。——わたしには音は分かりませんが、石の振動は感じます。体で」


 記録体だけあって、建物との親和性が高えのか。不思議な奴だ。



    * * *



 トンネルに入った。古代と現代が繋がった三百メートルの坑道。


 壁を叩きながら歩いた。コン、コン、コン。古い区間も新しい区間も、音はいい。ロックボルトが効いてて天井も安定してる。


 五層舗装の路面を足で確認した。靴を脱いで裸足で歩いた。カーラが「やっぱり脱ぐのね」と呆れてる。脱ぐんだよ。足の裏が一番正確なんだ。


 路面は安定してる。古代の防水層が生きてて、地下水の浸入を防いでる。このまま百年は持つだろう。


 トンネルの出口で靴を履き直した。足の裏が冷てえ。石の床を裸足で歩くもんじゃねえ。いや歩くんだが。


 大河の五連アーチ橋。ここが一番心配だった。五十メートルの大橋。水流にさらされてる。


 橋脚の根元を一本ずつ確認した。捨て石は安定してる。洗掘もねえ。コンクリートの劣化も見当たらねえ。


「……持ってるな」


 五連のアーチを渡りながら壁を叩いた。全部いい音だ。迫石が噛み合ってる。


 橋の上で立ち止まった。川が下を流れてる。でかい川だ。この上を馬車が行き来してる。商人が荷物を積んで帝国に向かってる。反対側から帝国の商人が来てる。すれ違う時に互いに手を挙げてる。人と物が動いてる。


 橋の(たもと)に小さな茶屋ができてた。橋を渡る旅人に茶を売ってる婆さんがいる。


「あんた、この橋を建てた人かい?」


「そうだ」


「ありがとうよ。この橋ができてから、あたしゃここで商売始めたんだ。渡し舟の時は誰も立ち止まらなかったけど、橋なら歩いて渡るから、途中で茶を飲んでくれるんだよ」


「……橋の上で商売か。考えもしなかった」


「建物を建てると、その周りに人の暮らしができるもんさ。あんたが建てなきゃ、あたしはここにいなかった」


 婆さんの茶を一杯もらった。甘い。帝国の茶だ。俺はコーヒー派だが、まあ悪くねえ。


 ——道を敷いた時、「道を使ってくれることが一番の礼だ」って言った。使われてる。道が使われて、橋が使われて、その上で人が暮らしを始めてる。建物の周りに暮らしができる。当たり前のことだが、自分の目で見ると——なんつうか、腹の底がじんわりする。コーヒーの後味みてえな。


 ダムを確認した。アーチダムの壁面にヒビはねえ。水門も正常に動いてる。管理人が水位を毎日記録してくれてる。セオが作った記録用紙に、几帳面な字で数字が並んでた。


「棟方殿! ダムは毎日見てます! 異常なしです!」


「ご苦労さん。——水門のヒンジに油を差しとけ。動きがちょっと重くなってる」


「はい! すぐやります!」


「あと、ダムの下流の堆砂を確認しろ。雨の後は土砂が溜まりやすい。排砂ゲートを定期的に開けて流せ」


「排砂ゲート……! それはセオさんのマニュアルに——」


「書いてあるだろ。読め」


「はい!! 読みます!!」


 マニュアルを読んでねえのか。メルダが聞いたら怒るぞ。


 水道橋も確認した。アーチが谷を跨いでる。水が流れてる。ケルンの町に水を届け続けてる。防水モルタルに劣化はねえ。ルッカの仕事は丈夫だ。


 ケルンの広場の水槽に水が落ちてる。ぴちゃん、ぴちゃん。あの日と同じ音だ。子供が水槽で遊んでる。


 ——動いてる。全部動いてる。俺が建てたもんが、全部ちゃんと動いてる。


 コーヒーを淹れた。宿場で飲んだ。足が痛え。三日で六十キロ歩いた。膝が鳴る。腰も張ってる。四七歳の脚は三日連続の徒歩に悲鳴を上げてやがる。


 だが——悪くねえ気分だ。


「テツ。明日はエルフの森?」


「寄る。フィーアに挨拶してく。——カーラ、足は大丈夫か」


「あたしは平気。あんたの方が辛そうよ」


「うるせえ。四七歳を舐めるな」


「四七歳だから心配してるの」


 ……言い返せねえ。


 宿場の風呂に入った。自分が建てた五右衛門風呂。湯がちゃんと沸いてる。管理人がきちんと薪を足してる。排水も詰まってねえ。


 湯に浸かったら膝が楽になった。腰も伸びた。ありがてえ。風呂は偉大だ。


 カーラが仕切りの向こうで「はーーーっ」と声を出してる。どこの風呂でも同じ声を出すなこいつ。


 リルが風呂の外で精霊と話してる。「宿場のノームさんたちが『道がきれいに保たれてて嬉しい』って言ってます!」。精霊も道の状態を見てるのか。そりゃ地面に住んでるんだから分かるわな。


 ミーナは風呂に入らねえ。記録体だから温度を感じねえらしい。風呂の縁に座って足だけ湯につけてる。


「棟方。建ノ民の都市にも浴場がありました。でも、崩れた最初の施設が浴場でした」


「何でだ」


「水を使う建物は劣化が早いんです。防水が切れたら一気に崩れる」


「だろうな。——だからうちの風呂は防水を三重にしてある」


「三重……。建ノ民は一重でした。——足りなかったんですね」


「足りねえ。水は容赦ねえからな。——お前、足は感じるのか」


「少しだけ。——温かい気がします」


「気がするならいいじゃねえか」


 明日はエルフの森。明後日はドワーフの地下都市。来週には帝国まで足を伸ばす。全部確かめる。全部叩く。全部の壁の音を聴く。


 ——それが親方の仕事だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ