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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

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親方、弟子同士を戦わせる


 ヴァルターが帝国から弟子を連れてきた。


 十人。全員石工。帝国の建築研修を受けた奴らで、ヴァルターが直接鍛えた精鋭だそうだ。精鋭ってほどでもねえだろうと思ったが、顔つきは悪くねえ。目が据わってる。手がごつい。


「親方。儂の弟子をお前の学院で修行させたい。——ついでに、腕試しをさせてくれんか」


「腕試し?」


「お前のところの学生と、儂の弟子。どっちが壁を上手く積めるか」


 じいさんの目がギラッとしてる。こいつ、勝負事が好きだ。見た目は温厚な老石工だが、中身は負けず嫌いの塊だ。


「……いいぜ。うちの二期生とやらせてみるか」


 ガルドが即座に食いついた。


「やるぞ!! うちの二期生が帝国に負けるわけねえ!!」


 トルテが「あたしも審判やりたい!」と叫んでる。お前は審判向きじゃねえ。贔屓するだろ。



    * * *



 学院の広場に二つの作業台を並べた。レグニカチーム十人と帝国チーム十人が向かい合う。


 ルールは単純だ。


「同じ材料で、一メートル四方の壁を一枚積め。制限時間は二時間。——終わったらガルドが殴る。壊れなかった方が勝ち。両方壊れなかったら、俺が壁を叩いて音で判定する」


「「はい!!」」


 二十人が同時に返事した。声のでかさは互角だ。


「——始め」


 レンガが積まれ始めた。


 帝国チームは速い。石工の本場だ。手が速くて、レンガの扱いが丁寧だ。一段積むのに学院の二期生より三割は速い。


 だが学院チームには別の強みがある。目地を詰める時に、一個ずつ指で押して空洞を確認してる。壊す授業で叩き込まれた癖だ。帝国の弟子はそれをやってねえ。速いが確認してねえ。


 コーヒーを飲みながら見てた。カーラが隣にいる。


「帝国の方が速いわね」


「速さで勝負が決まるなら建築じゃねえ。——見とけ」


 ヴァルターが俺の隣に来た。茶を飲んでる。帝国の茶は甘くて俺には合わねえ。


「ほう。儂の弟子の方が速いな、親方」


「速けりゃいいってもんじゃねえ」


「負け惜しみか」


「結果を見てから言え、じいさん」


 ユーリが横で両チームの手元を観察してた。


「棟方さん。帝国チームの三番目の人、レンガの角を合わせる時に左手で位置を微調整してます。あの技、うちの学生に見せたいです」


「目がいいな。——後で声かけてみろ」


 一時間経過。帝国チームは八割完成。学院チームは六割。速度差がある。帝国の弟子がニヤッとしてる。


 二時間。完成。


 二十枚の壁が並んだ。帝国チームの壁は見た目がきれいだ。レンガの配列が揃ってて、目地が真っ直ぐ通ってる。美しい。これは認める。石工の国の底力だ。


 学院チームの壁は見た目がちょっと荒い。配列は揃ってるが、帝国ほど美しくない。ただし——中身の話はこれからだ。


「ガルド。帝国チームの壁から殴れ。五割で」


「おう! ——悪いな帝国の兄ちゃんたち! 恨むなよ!」


「え、殴るんですか!? 壁を!?」


 帝国の弟子が目を丸くしてる。壊す授業を知らねえんだ。


 ガルドが帝国チームの一枚目に掌底を入れた。


 バキッ。


 壊れた。目地の真ん中から亀裂が走って、壁が二つに割れた。


「「え!? 嘘だろ!?」」


 帝国チームが声を上げた。ヴァルターの眉がぴくっと動いた。


 二枚目。バキッ。壊れた。三枚目。バキッ。壊れた。


 帝国の弟子が顔を青くしてる。自分たちの壁が次々に壊されていく。


 十枚中、五割で壊れなかったのは三枚。七枚が壊れた。


「な、七枚も……!?」


「次。学院チーム」


 ガルドが学院の壁を殴った。五割。


 コン。


 壊れねえ。ガルドが手を振った。「硬え!」


 二枚目。コン。壊れねえ。三枚目。コン。壊れねえ。


 帝国の弟子が唖然としてる。見た目は自分たちの壁の方がきれいなのに、壊れるのは自分たちの方だ。


 十枚中、壊れたのは一枚だけ。九枚が耐えた。


「九枚!! 十枚中九枚!!」


「うちの壁は三枚しか残らなかったのに……!?」


「何が違うんだ!? 同じレンガで同じモルタルだろ!?」


「……空洞がある。目地の奥に空気が残っておる」


「速く積んだからだ。速さに集中して、目地を奥まで押し込む手間を省いた。——表面はきれいだが、中はスカスカだ」


 帝国の弟子の一人が壊れた自分の壁を拾い上げてる。断面を見てる。確かに、目地に親指が入るほどの空洞がある。


「俺たち、こんなに空洞が……」


「速く積める腕はある。だが確認する癖がない。——うちの学生は一個積むたびに指で目地を押して空洞を潰してる。だから遅い。だが壊れねえ」


 ヴァルターが黙って壁を見てた。しばらくして、俺の方を向いた。


「……親方。儂の弟子に、その『確認する癖』を叩き込んでくれんか」


「叩き込む。——ガルドが殴って教える。うちのやり方でいいか」


「構わん」


 帝国の弟子たちが顔を見合わせた。「殴って教える」って何だって顔だ。まあ、やれば分かる。



    * * *



 午後。合同実習が始まった。


 レグニカの学生と帝国の弟子が混ざって壁を積んでる。帝国の弟子に学院式の確認作業を教えてる。


「一個積んだら、目地を指で押す。こうやって。奥まで押し込む」。


 帝国の弟子が最初は面倒くさそうにしてたが、ガルドに一枚壊されてからは真剣になった。壊されりゃ分かる。自分の壁の弱点が見えるからだ。


「五枚目! 押してみろ! ——まだ空洞がある! ここ!」


「ああっ、本当だ! 奥に指が入る!」


「もう一回詰め直せ! モルタルを奥まで——そうだ、そこだ」


 学院の学生が帝国の弟子の目地を直してる。


 逆に、帝国の弟子のレンガの配列技術を学院の学生が見て唸ってる。


「すげえ……! レンガの角が全部ぴったり揃ってる! どうやるんですか!?」


「目で見て揃える。石工はまず目を鍛える。——こうやって、一段下の角に合わせて置く」


「なるほど……! 目の使い方が違うんだ!」


 教え合ってる。うちの学生が帝国に確認の癖を教えて、帝国の弟子がうちの学生に配列の技を教えてる。勝ち負けじゃなくなってる。こういう空気が一番いい。


「親方。見てくださいこれ!」


 学院の学生が壁を一枚積んだ。配列が帝国式で、確認が学院式。速い。きれい。そして中も詰まってる。


「ガルドさん! 殴ってください! 六割で!!」


「おう! ——おらっ!」


 コン。壊れねえ。


「やった!! 六割耐えた!!」


「うおおっ!! すげえ!!」


 帝国の弟子も拍手してる。敵じゃなくて仲間になってやがる。


「……悪くねえ」


 ヴァルターが隣で見てた。


「親方。——お前の学院は、教え方を教える場所だな」


「どういう意味だ」


「儂は弟子に石の積み方を教えた。お前は学生に確認の仕方を教えた。——だが今、弟子と学生が互いに教え合っておる。お前が教えたのは技術じゃなく、教え合う空気だ」


「大げさだ。壁を積めって言っただけだぞ」


「大げさなもんか。——儂の弟子たち、ここに置いてっていいか。一ヶ月くらい」


「飯代は帝国持ちだ」


「当然だ。——あとコーヒーを出してくれ。あれはうまい」


 じいさんがコーヒーを褒めた。——まあ、分かる奴には分かるんだ。


 夕飯はでかい鍋で現場汁を作った。イノシシの肉と野菜を煮込んだもの、三十人分。帝国の弟子が一口飲んで「何だこれうめえ!!」と叫んだ。だろうな。


 風呂は順番待ちだ。三十人を学院の風呂に入れると二時間かかる。カーラが仕切ってるが、帝国の弟子が「こんなでかい風呂初めて見た!!」と騒いでて回転が悪い。浸かりすぎだ。出ろ。


 まあいい。風呂は長く入ってもいい。疲れが取れるなら。


 ガルドが帝国の弟子に囲まれてた。「ガルドさんの拳すげえ!!」「壁を壊す力ってどうやって鍛えるんだ!!」「腕相撲しようぜ!!」。ガルドの耳がぴんと立ってる。褒められて嬉しいんだろうが——お前の仕事は壁を壊すことじゃなくて建てることだぞ。


 トルテは横で「ガルドさんに勝てる人いないよ」と自慢してる。お前が自慢することじゃねえだろ。


 コーヒーを飲んだ。膝が痛え。今日は一日中立って見てただけなのに。見てるだけの方が疲れるのは何でだろうな。手を動かしてる方が楽だ。体質か年齢か——年齢のことは考えないことにした。



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