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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

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親方、土だけで壁を建てる


 地震の復興が一段落して、新しい依頼が増えてきた。


 今度はレグニカ西部の山村ラウフ。村の集会所が老朽化で倒壊寸前だって話だ。地震の被害じゃねえ、元々ボロかったのが限界に来たらしい。


 問題は——この村には石がねえ。


 平野部の真ん中にある農村で、周囲に採石場がない。コンクリートの材料になる砕石も砂利もない。レンガを焼く窯もねえ。あるのは畑と、土と、木だけ。


「石がない場合はどうするんですか?」


 ユーリが訊いてきた。ラウフに向かう馬車の中だ。


「石がなけりゃ、土で建てる」


「土で……壁を?」


版築(はんちく)って工法がある。型枠の中に土を入れて、突き棒で叩いて固める。層にして積み上げていくと、石みてえに硬い壁ができる」


「突き棒で土を……。基礎の突き固めと同じですか」


「同じだ。突いて固める。土方の基本中の基本だ。——ただし、土の配合が鍵だ。何でもいいわけじゃねえ」


 ミーナが馬車の隅に座ってた。小さい体で揺れに耐えてる。


「棟方。版築は建ノ民も使っていました。乾燥地帯の都市は全て版築でした」


「配合は?」


「砂七、粘土三。水はほんの少し。握って固まるけれど、指で押すと崩れる程度の湿り気だ」


 砂七、粘土三。日本の版築のセオリーとほぼ同じだ。千年前の連中も同じ答えにたどり着いてる。



    * * *



 ラウフ村。百五十人の農村。村長が出迎えてくれた。


「棟方殿! ようこそ! ——ただ、うちには石も煉瓦もございませんで……。建て直すと言っても材料が……」


「材料はそこにある」


 畑の横の土手を指した。


「あの土を使う。石はいらねえ」


「土で……家を!?」


「見てろ」


 まず土を調べた。掘って、握って、指で潰す。砂と粘土の混ざり具合。水の含み方。


「ルッカ、この土はどうだ」


 ルッカが土を舐めた。村人がぎょっとしてる。


「砂が六割。粘土が三割。残りは小石です。——砂をもう少し足せば、版築に使えます」


「川砂を混ぜる。川はどこだ」


「村の南に小川があります!」


「よし。——川砂を運んでこい」


 村人を動員した。川から砂を運ぶ。畑の土と混ぜて、配合を調整する。ミーナが言った砂七粘土三に近づける。


 型枠を組んだ。木の板を向かい合わせに立てて、間に土を入れる。幅が壁の厚さになる。三十センチ。


「全員見ろ。これから土を突く。一回に入れる土の量は十センチ。入れたら突き棒で五十回突く。突いたら次の十センチ。これを繰り返す」


 土を入れた。突いた。ドンドンドン。


 五十回突くと、十センチの土が七センチに縮む。三割も圧縮される。ふかふかだった土が、硬い層になる。


「触ってみろ」


 ユーリが突き固めた層を触った。


「……硬い!! 石みたいだ!!」


「これが版築だ。土を突いて石にする。——もう一層」


 十センチ入れる。突く。また七センチに縮む。前の層の上に新しい層が重なっていく。地層みてえな縞模様ができる。


「型枠を上に伸ばせ。壁の高さまで繰り返す」


 村人も手伝い始めた。突き棒は木の棒があれば作れる。特殊な道具はいらねえ。


「俺たちにもできるぞ!! 突くだけだ!!」


「力仕事なら任せろ!! 毎日畑を耕してるんだ!!」


 農民の突き棒さばきが意外とうまい。毎日土を耕してる腕だ。突き固めと耕作は動きが似てる。


 ガルドが農民に手本を見せてる。「腰で落とせ。腕で振るな」。学院と同じ台詞だ。トルテが型枠の板を支えてる。メルダが突く回数を数えてる。「四十八、四十九、五十! 次の層!」。


 セオが土の配合を管理してた。


「砂が足りません。川砂をもう二十杯追加してください」


「了解! おーい、川砂もう二十杯だ!!」


 村の男たちが桶を持って川に走っていく。全員が動いてる。建てる人間と資材を運ぶ人間と配合を管理する人間。小さな村が一つの現場になってる。


「棟方殿! この土は配合が違いませんか? 赤っぽいんですが!」


 村長が訊いてきた。目がいい。


「場所によって土の色が変わる。赤いのは鉄分が多い土だ。——混ぜていい。色の違いが壁の模様になる」


「模様!? 壁に模様が出るのか!?」


「出る。天然の縞模様だ。——世界に一つだけの壁になる」


「すげえ……!!」


 ミーナが横から口を出した。


「棟方。各層の間に石灰を薄く撒くと、層同士の接着が強くなります」


「石灰はあるか」


「この辺の土手に白い石が混じってる。あれは石灰岩」


 ルッカが確認した。「石灰岩です。焼けば生石灰になります」


「焼け。——ミーナ、千年前の知恵が役に立つな」


「役に立たなかったら千年待った意味がありません」


 石灰を各層に薄く撒きながら突き固めた。層と層が化学的に結合して、壁全体が一枚岩みてえになっていく。



    * * *



 三日で壁が立ち上がった。


 高さ三メートル。厚さ三十センチ。四面の壁が組み上がってる。最後に型枠を外す。


「外すぞ」


 板を一枚ずつ剥がした。


 ——縞模様が出た。


 土の層が一段ずつ色が違う。上の方は砂が多くて薄い茶色。下の方は粘土が多くて赤みがかってる。鉄分の多い土を混ぜた層が焦げ茶色の帯になってる。天然の縞模様が壁の表面に浮かんでる。


「きれい……!!」


 村の女が声を上げた。


「土の壁がこんなにきれいなの!?」


「うちの畑の土がこんな模様になるなんて……!!」


「しかも硬い!! 叩いても全然響かない!!」


「これが……土だけ……? 信じられねえ……!」


「石より頑丈じゃないか!?」


 ガルドが壁を殴った。五割。


 ——びくともしねえ。


「っっっ!! 硬え!! 石のブロック壁並みだぞこれ!!」


「ガルドさんの拳に耐えた!! 土なのに!!」


「土を突いて石にする。——石がない場所でも、足元の土で建物が建てられる。これが版築だ」


「すげえ!! うちの村でもできるのか!?」


「突き棒と型枠の板があればどこでもできる。特殊な材料はいらねえ。——土と腕だけだ」


「土と腕だけ!!」


 村長が壁を撫でてた。


「こんな立派な壁が……うちの畑の土から……」


「土は万能だ。足元にある。掘れば出てくる。金も要らねえ。——金がない村でも、腕があれば家が建つ」


 集会所を版築の壁+木造トラス屋根で仕上げた。柱も梁も地元の木。基礎だけは石灰パイルで地盤改良した。コンクリートは一切使ってねえ。


 村にあるもの——だけで、建物を一棟建てた。


「親方」


 カーラが来てた。いつの間に。


「あんた何してるの」


「見てれば分かるだろ。集会所を建てた」


「集会所に風呂は——」


「ねえよ」


「じゃあ作って」


「……集会所の裏に五右衛門風呂を一つ据えるか」


「やった」


 勘弁してくれ。——だが、版築の壁に囲まれた風呂ってのは悪くねえかもしれねえ。土の壁は蓄熱性が高い。冬でも壁がじんわり温かくなる。風呂との相性は——


「……意外と合うかもな」


「でしょ?」


 カーラ、お前の風呂に対する勘は何なんだ。


 ミーナが版築の壁を触ってた。


「この壁は千年持ちますか」


「持つかどうかは、直す奴がいるかどうかだ。——村長、この壁の手入れの仕方を教えとく。ヒビが入ったら同じ配合の土を詰めて突け。それだけでいい」


「それだけでいいんですか!?」


「それだけだ。土の壁は土で直す。——簡単だろ」


「簡単だ!! うちの村でもできる!!」


 ミーナが小さく笑った。


「直す方法を教えるんですね。——建ノ民は、直す方法を教えませんでした」


「教えなきゃ伝わらねえ。伝わらなきゃ廃れる。お前の先輩たちが証明しただろ」


「……はい。証明しました。——痛いほど」


 帰り道。ユーリがメモしてた。


「棟方さん。版築なら、どんな貧しい村でも建物が建てられるってことですよね」


「金も石もいらねえ。土と腕だけだ。——お前、学院の授業に版築を入れろ。二期生に教える。金のない場所でも使える技術を、全員に叩き込む」


「はい!」


 ユーリがメモ帳を閉じた。


「版築、コンクリート、レンガ、木造。全部使える場所が違う。石がある場所はコンクリート。粘土がある場所はレンガ。木がある場所は木造。土しかない場所は版築。——素材に合わせて工法を選ぶ。選べるようになるには、全部知ってなきゃいけねえ」


「だから学院で全部教えるんですね」


「そういうことだ」


 メルダが横から「仕様書に版築の配合比率を追加します。セオさん、データを」と言ってる。セオが「砂七粘土三、石灰層は五ミリごと、突き回数は十センチあたり五十回」と数字を読み上げてる。仕組みが回り始めてる。


 土方の仕事は、でかいダムや長い街道だけじゃねえ。足元の土を突いて、目の前の一軒を建てる。——それが原点だ。


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