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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

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親方、地面の下に街を見つける


 ダムの帰り道、寄り道をした。


 王都の南、エルステの村。地震で地面に亀裂が走って、畑が使えなくなったって話だった。亀裂を埋めて地盤を安定させるだけの仕事だ。半日で終わると思ってた。


 亀裂に砕石を流し込んでたら、石が妙に深くまで落ちていった。


 ——底が抜けてる。


「リル。この下、空洞があるか」


「ノーム、お願いします。——あります! 大きいです! 地下五メートルくらいのところに、広い空間が……!」


「地下空間? 洞窟か?」


「いえ……ノームが言ってます。『作られた空間だ』って。壁がある。天井がある。——人が作った」


 ガルドと目が合った。


「掘るか」


「掘る」



    * * *



 亀裂を広げて、斜めに坑道を掘り下げた。地下三メートルで、石の壁に当たった。


 加工された石。表面が滑らかだ。ツルハシじゃなく、何か回転する道具で削った跡がある。


「……見覚えがあるぞ、この仕上げ」


 山のトンネルで見た古代の壁と同じだ――建ノ民。


「ルッカ、確認してくれ」


 ルッカが壁を舐めた。


「同じ石質です。トンネルの壁と同じ加工法。——建ノ民の構造物です」


 壁に穴を開けた。中は——広かった。


 松明を入れて覗き込んだ。高さ四メートル、幅六メートルの通路。両側に部屋が並んでる。石の扉。石の棚。天井にはアーチが走ってて、要所に換気口がある。


 街だ。地下の街。


「こりゃあ……!!」


 ガルドが声を上げた。


「でけえぞ、親方!! 向こうまでずっと続いてる!!」


「すごい……! 壁の精度が……! 千年前とは思えません……!」


 ユーリが壁を触ってる。松明を持って奥に進んだ。五十メートル先で通路が十字に分岐してる。四方向に延びてる。


「親方さん!! 十字路です!! 四方向に通路があります!!」


「……丸ごと一つの街が埋まってるのか」


 セオが呟いた。


「千年前の街……!? こんなものが地面の下に……!?」


 メルダが冷静に訊いた。


「安全ですか。崩落の危険は」


「天井のアーチは健全だ。石同士が噛み合ってる。——千年持ったんだ、あと数日は持つ」


「数日で調べきれる規模じゃなさそうですが……」


「調べられるだけ調べる」



    * * *



 三日かけて遺構を調査した。エルノが地図を作りながら慎重に進む。


 地下都市。通路の総延長は約五百メートル。部屋が六十以上。広場が二つ。上下水道の痕跡。換気シャフト。そして——鍛冶場。


 ルッカが鍛冶場跡で膝をついた。


「この炉の設計……グルンダールの古代炉に似てます。でも送風の仕組みが違う。歯車で風を送ってる……! 千年前に歯車式のふいごがあったのですね……!」


「千年前の技術が、今のドワーフと違う方向に進んでたってことだな」


 壁面を見て回った。建築の品質は一流だ。目地が均一で空洞がねえ。壁を叩くと、千年経っても硬くて重い音がする。


 だが——所々に修繕の跡がある。最初の建設時とは別の手で補修されてる。修繕の品質は明らかに落ちてる。目地が雑で、石のサイズも揃ってねえ。


「最初に建てた奴は一流だ。だが修繕した奴は三流だな」


 壁を叩いた。最初の建設部分はコン、と硬い音。修繕部分はコ——ン、と軽い音。中に空洞がある。


「聴け。この音の差が分かるか」


 ユーリが壁を叩いた。


「分かります……! 修繕の部分だけ音が軽い。目地にも空洞がありそうです」


「そうだ。——つまり、直した奴は壁の叩き方を知らなかった。自分が直した壁の品質を確認できなかった。品質を確認できなけりゃ、手抜きに気づけねえ」


「親方さん。修繕の回数が、奥に行くほど増えてます。最初の通路は修繕が一回。一番奥の広場は五回以上修繕されてる」


 ユーリが記録を取りながら報告してきた。


「壊れて直して、また壊れて直して、を繰り返してたんだ。だが直す腕が世代ごとに落ちてる。——最後の修繕はほとんど泥と石を押し込んだだけだ」


「技術が伝わらなかったんですね」


「……そういうことだ」


 最初の世代が建てた。二代目が修繕した。三代目は修繕の仕方を知らなかった。それでも形だけ真似して泥で埋めた。四代目は——たぶん諦めて出ていった。


 遺構の一番奥に、封印された部屋があった。


 石の扉が閉じてる。周囲に碑文が刻まれてる。エルノが読んだ。


『建ノ技を継ぐ者、ここを開けよ。建てることを忘れた者、ここに触れるな』


「……開けるぞ」


 いいんですか! と、全員が訊いた。


「俺は建てることを忘れてねえ」


 石の扉を押した。ガルドと二人で押して、重い石がずれた。


 中は——小さな部屋だった。三メートル四方。壁面に碑文がびっしり刻まれてる。文字と図面と数式。千年分の技術記録だ。


 そして部屋の中央に、石の台座がある。台座の上に——


 少女が座ってた。


 目を閉じてる。肌が白い。普通の人間じゃねえ。体の表面がかすかに光ってる。精霊に似てるが違う。リルの精霊たちが台座の周りにふわふわ集まってきてる。


「親方さん……この人、生きてます。でも人間じゃない。精霊でもない。——何か、すごく古い存在です……」


 少女の目が開いた。


 金色の瞳。俺を見た。


「……大地を整える者の手を感じました」


 声が部屋に響いた。碑文の文字と同じ言語だが、エルノの共通語に混ざってる。


「あなたは——建てる者ですか」


「建てる者だ。——お前は何だ」


「わたしはミーナ。建ノ民の記録(きろく)です。この街が生きていた頃の記憶を預かっています」


 千年前の文明の生き残り——文明の記録装置だ。


「お前の仲間はどうした」


「いなくなりました。建てることを、やめたからです」


「やめた?」


「建ノ民は大陸中にインフラを築きました。道路、水道、橋、港。全部が繋がっていました。——でも、建てることに夢中になって、直すことを忘れました。建てた者が去り、維持する者がいなくなり、全部が少しずつ朽ちていった」


 さっき見た修繕の劣化と一致する。一流の建設。二流の修繕。三流の泥埋め。そして——放棄。


「技術は一代で広まりましたが、二代で薄まり、三代で消えました」


 ユーリが隣で息を呑んでる。学院を作った理由がそのまま語られてるんだ。


「ミーナ。お前、ここで千年待ってたのか」


「はい。建てる者が来るのを待っていました。——あなたの手は、建ノ民の長と同じ手をしています。道具を握った手。石を積んだ手。コンクリートを練った手」


「コンクリートを知ってるのか」


「わたしたちはそれを『石の泥』と呼んでいました。——あなたの方が、上手に使っています」


「……千年前の先輩に褒められるとは思わなかった」


 ミーナが立ち上がった。小さい。俺の胸くらいの背丈だ。


「ついていっていいですか。あなたの建てるものを見たい。——千年前と同じ間違いをしないか、見届けたい」


「見届けるって。偉そうだな嬢ちゃん」


「千年待ったので。——少しくらい偉そうでもいいと思います」


 ……言い返せねえ。


「好きにしろ。——ただし、現場では邪魔するな」


「しません。見ているだけです」


 ガルドが横で口をぽかんと開けてた。


「親方……千年前の生き物を拾ったぞ……」


「拾ったんじゃねえ。向こうがついてきたんだ」


「同じだろ」


「全然違う」


 地上に戻った。エルステの村人が待ってた。


「棟方さん!! 地面の下に何があったんだ!?」


「千年前の街が丸ごと埋まってた。——あと、住民が一人、まだいた」


「「一人!?」」


「千年前の住民がまだ生きてるのか!?」


「生きてるっていうか……記録体だな。精霊に近い存在だ」


「何だそれ!?」


 ミーナが坑道から出てきた。村人が後ずさった。光る肌の少女。どう見ても普通じゃねえ。


「うわっ!! 光ってる!!」


「き、綺麗だけど怖え……!」


「ミーナです。よろしくお願いします」


 ぺこりとお辞儀した。千年待った割には礼儀正しい。村人がぎょっとしてたが、お辞儀の丁寧さに毒気を抜かれた顔をしてる。


「……悪い奴じゃなさそうだな」


「千年前の嬢ちゃんか。——まあ、親方の知り合いなら大丈夫だろ」


 知り合いってほどでもねえんだが、まあいいか。


 コーヒーを淹れた。ミーナに差し出してみた。


「これは?」


「コーヒーだ。飲んでみろ」


 一口飲んだ。金色の目が丸くなった。


「……苦い。でも——悪くない」


「悪くないって言ったぞ!! 千年前の嬢ちゃんが親方と同じ感想だ!!」


 ガルドが騒いでる。うるせえ。


「ガルド。コーヒーを褒める奴は全員仲間だ」


「それ親方の基準だろ!!」


 ミーナが小さく笑った。千年ぶりの笑みかもしれねえ。


 ——こいつ、馴染むの速えな。


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