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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

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親方、薄いダムで川を止める


 ケルンの水路が完成した翌週、別の問題が飛び込んできた。


 王都の南東、ブラント渓谷。地震で山の斜面が崩れて谷川を堰き止めてた土砂ダムが決壊して、下流の農地が水浸しになった。田畑が泥で埋まって、今年の収穫は絶望的だ。


 同時に、その上流の村では、川が土砂で埋まったせいで水が来なくなってた。ケルンと同じだ。地震の二次被害。


「下流は水が多すぎて、上流は水が足りねえ。——ダムを作って水量を調整する」


 ブラント渓谷に行った。今回の面子はテツ、ガルド、ルッカ、エルノ、リル、ユーリ、メルダ、セオ。カーラは学院の留守番だ。「風呂の管理は任せなさい」と言ってた。管理者か。


 渓谷を見た。幅三十メートル。両岸は硬い岩盤の崖。谷底を川が流れてる。


 エルノが地形を測量した。


「棟方殿。ここにダムを建てるなら、谷が狭いのは有利です。壁の幅が短くて済みます」


「幅だけじゃねえ。この谷の形を使う」


「形?」


「今まで建てたダムは全部重力式(じゅうりょくしき)だった。ダム自身の重さで水圧に耐えるやつだ。でかくて重い壁を作って、力づくで水を止める。——だが、もう一つやり方がある」


 地面に描いた。上から見た図。


「ダムを真っ直ぐ作るんじゃなく、弧を描いて作る。上から見たら弓なりの曲線。この形にすると、水圧を両岸の岩盤に逃がせる。——弓型(アーチ)ダムだ」


弓型(アーチ)ダム……!?」


 ユーリが食いついてきた。


「アーチ橋と同じ原理ですか!?」


「横向きのアーチだ。橋は上からの荷重を両端に逃がす。ダムは水圧を両岸に逃がす。やってることは同じだ。——で、アーチの力で水圧を受けるから、壁を薄くできる。重力式の三分の一の厚さで同じ水圧に耐えられる」


「三分の一!? 材料が三分の一で済むってことですか!?」


 セオが反応した。数字に敏感な奴だ。


「三分の一。工期も短くなる。材料が少なけりゃ運搬も楽だし、打設も速い。——ただし条件がある」


「条件?」


「両岸の岩盤が硬くなきゃダメだ。水圧を岩盤に逃がすんだから、岩盤が軟けりゃ意味がねえ。——ルッカ」


 ルッカが両岸の崖に近づいて、岩を舐めた。


「硬い花崗岩です。ヒビもありません。——この岩盤なら、受けられます」


「よし。アーチダムでいく」



    * * *



 設計をエルノと詰めた。


 幅三十メートル。高さ十メートル。厚さは頂部で一メートル、底部で二メートル。重力式なら厚さ六メートルは必要な規模だが、アーチの形が力を逃がすから三分の一で足りる。


 曲率が鍵だ。弧が緩すぎると水圧を逃がしきれない。きつすぎるとダム自体に応力が集中する。


「エルノ。最適な曲率は」


「計算しました。半径二十メートルの円弧です。——ダムの中心線をこの曲率で描けば、水圧が均等に両岸に分散します」


「完璧だ。——型枠を作るぞ」


 アーチダムの型枠は、アーチ橋の型枠を横に倒したようなもんだ。弧を描いた曲面の板を作って、その両側にコンクリートを打つ。


 ガルドとユーリが型枠の骨を組んだ。ユーリがガルドに指示を出してる場面が増えてきた。「ガルドさん、ここの丸太をもう十センチ左に」「おう」。ガルドが素直に従ってる。ユーリの判断を信用してるんだ。


 コンクリートを練った。大量に。セオが計算した必要量は六十立方メートル。砂利と砕石と火山灰とルッカの松脂コーティング鉄筋。防水のために粘土も混ぜた。


「全員でコンクリートを打つ! 型枠の下から順に、一段ずつ! 振動をかけて空気を抜け! 空洞があったらダムが割れる!」


 学院で叩き込んだ基礎が、ここでも効く。全員が突き棒でコンクリートを振動させて空気を追い出してる。音を聴いて空洞がないか確認してる。壊す授業の経験だ。


 メルダが工程を管理してる。「次の練りは十五分後。砂利の追加が要ります。セオさん、裏山から運搬を」「了解、手配します」。こいつらのコンビは鉄壁だ。段取りが詰まらねえ。



    * * *



 五日でダムが完成した。


 型枠を外した。弓なりに弧を描くコンクリートの壁が、渓谷を横切ってる。上から見ると、水を受ける側が凹面、下流側が凸面。


 ユーリがダムの上を歩いてる。壁を叩いてる。


「音が均一です。空洞はなさそうです」


「お前が打った区画はどこだ」


「真ん中の三メートルです」


「……叩いてみろ」


 コン。コン。コン。硬くて重い音。


「いい音だ。——合格だ」


 ユーリの顔がほころんだ。だがすぐ引き締めた。現場では緩まねえ。教えた通りだ。


「薄い……!! こんな薄い壁で川を止めるのか……!?」


 下流の農民が見に来てた。目を疑ってる。渓谷の上から覗き込んで、ダムの壁の薄さに口を開けてる。


「頂部の厚さは一メートルだ。だがこの形が水圧を両岸に逃がしてる。真っ直ぐな壁なら六メートル必要だが、曲げれば一メートルで足りる」


「形だけで!? 同じコンクリートなのに!?」


「形の力だ。——お前らも知ってるだろ。卵を握っても潰れねえ。あれは卵の曲面が力を分散するからだ。ダムも同じだ」


「確かに卵は握っても割れねえ!! それと同じか!!」


「すげえ……!! 形を変えるだけで三倍強くなるのか……!!」


「じゃあ何でも曲げりゃいいのか!? うちの家も曲げた方がいいのか!?」


「家は曲げなくていい。これはダムみてえに一方向からでかい力を受ける構造物に効く技術だ。——何にでも使えるわけじゃねえ。条件に合わせて選ぶのが職人の仕事だ」


「はーーー!! すげえなあ!! 職人ってのは!!」


 水門を閉じた。水がダムの上流に溜まり始める。水位がじわじわ上がっていく。一時間。二時間。水位が五メートルを超えた。


 ダムの壁が水圧を受けてる。——びくともしねえ。コンクリートの曲面が水圧を両岸に逃がしてる。岩盤がぴくりとも動かねえ。ルッカが「この岩盤なら受けられる」と言った通りだ。


「水門の調整弁を開けろ。下流に一定量ずつ流す」


 調整弁を開いた。ダムの底から水が放出されて、下流の農地に流れていく。多すぎず、少なすぎず。ダムが水量を調整してる。


「水だ!! 田んぼに水が来た!!」


「溢れてない!! ちょうどいい量で来てる!!」


「これなら田植えができる!! 今年の収穫は間に合う!!」


 農民たちが(あぜ)を走り回ってる。


 上流の村にも水路を引いた。ダムの上流側に取水口を設けて、村まで管で繋ぐ。村の井戸が枯れてても、ダムから水を引ける。


 上流の村長が水を一口飲んで、膝を折った。


「水が……戻ってきた……! 地震で枯れてもう終わりだと思ってたのに……!」


「終わりじゃねえ。水脈がずれたなら、ずれた先から引けばいい。——諦めんな」


「ありがとう親方!! ありがとう!!」


「礼は十年後にしてくれ。ダムが十年持ったらな」


「十年と言わず百年持たせますよ!!」


 持たせるのは俺じゃねえ、お前らだ。維持管理が命だ。——宿場の管理人と同じように、ダムの管理人を置く必要がある。セオに手配させよう。


「上流も下流も、一つのダムで解決したぞ!!」


「水が多すぎる問題と、水が足りない問題を、同時に!?」


「ダムってのはそういうもんだ。水を貯めて、必要な分だけ流す。蛇口と同じだ」


「蛇口って何ですか」と訊かれた。こっちの話だ——いや、こういう言い方はしねえ。


「管の先についてる栓のことだ」


「ああ、栓。——にしてもすげえ!!」


 セオが横でにこにこしてる。


「棟方殿。材料費が重力式の三割で済みました。工期も半分です。——これは他の場所でも使えますね」


「谷が狭くて岩盤が硬い場所ならな。どこでも使えるわけじゃねえ。条件が合う場所だけだ」


「条件の判定基準を仕様書に入れましょう。ルッカ殿の岩質判定と、エルノ殿の曲率計算を標準化すれば——」


「やれ。お前の仕事だ」


「はい!」


 セオが嬉しそうにメモってる。こいつは数字を仕組みにするのが好きなんだ。ユーリはメモを取る男だが、セオは仕組みを作る男だ。タイプが違う。両方いると強い。


「棟方殿。ダムの管理人も置きますか。街道の宿場のように」


「置く。水門の開閉と水位の確認。壁面のヒビの点検。——やることは街道と同じだ」


「管理人の募集と研修の手配、私がやります。マニュアルも作ります」


「頼む。——首巻きも忘れるな」


「もちろんです」


 セオが首巻きを直した。巻き方がまだぎこちねえが、外さなくなった。現場の人間になりつつある。


 帰り道。ユーリが渓谷を振り返ってた。


「親方さん。アーチ橋は石だけで空を支えて、アーチダムは——」


「曲面だけで水を止める。形の力だ。——覚えとけ」


「はい」


 コーヒーを飲みたい。帰ったら学院の風呂に入って、コーヒーを飲む。それが一番だ。


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