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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

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親方、水のない町に水を届ける


 地震の復興が落ち着いた頃に、次の問題が出てきた。


 リルの精霊が報告してきた。王都から東に三十キロの町、ケルンの井戸が枯れたらしい。


「ノームたちが言ってます。地震で地下水脈がずれたって。ケルンの町の下を通ってた水脈が、北に五百メートルずれて、別の谷に流れていってるそうです」


 井戸が枯れたってのは、街が死ぬってことだ。水がなけりゃ飯も作れねえ、洗濯もできねえ、風呂も入れねえ。ケルンは人口千人の農業の町だ。水がなくなったら全員が移住するしかねえ。


「井戸を掘り直しても、水脈自体がずれてるなら出てこねえか」


「はい……。新しい水脈の位置にもう一本井戸を掘ることはできますけど、それだと町から五百メートルも離れちゃいます」


「五百メートル離れた井戸から、毎日水を桶で運ぶのか。千人分を」


「無理ですね……」


「無理だな。——じゃあ水の方を運ぶ」


「え?」


「水路を作る。水脈が出てる場所から町まで、水を流す道を作る。——水道橋(すいどうきょう)だ」



    * * *



 ケルンに行った。棟方組のフルメンバーに加えて、卒業したユーリとメルダを呼んだ。二人とも即座に合流してきた。首巻きを巻いて「ご安全に」と言ってきた。仕込んだ甲斐がある。


 もう一人、新しい顔がいる。セオ。元商人ギルドの事務官で、学院の運営を手伝いたいとフェルマンの紹介で来た男だ。三十代。痩せてて、眼鏡みてえな丸いレンズを首から下げてる。数字と段取りに強いが、手を動かしたことがない。


「棟方殿。ケルンの人口は千二百人。一日あたりの水の消費量は一人十リットルとして、一日一万二千リットル。水路の断面と勾配から流量を計算すると——」


「セオ。数字はあとでいい。まず現場を見ろ」


「は、はい」


 水脈がずれた先——北の谷に行った。岩場の割れ目から清水が湧いてる。リルの精霊が「この水、きれいです。飲めます」と確認してくれた。


 湧水の位置は町より十五メートル高い。五百メートルの距離で十五メートルの高低差。自然に流すには十分な勾配だ。


「エルノ。湧水から町まで、最短ルートの測量を頼む」


「はい。——ルートは二つあります。谷沿いに回ると六百メートル。尾根を越えると五百メートルですが、途中に谷があります」


「谷は深さどのくらいだ」


「八メートルです」


「八メートルの谷を跨ぐか。——水道橋だな」



    * * *



 水路の設計を地面に描いた。ケルンの住民が集まってきてる。井戸が枯れて三日目。顔に焦りが出てる。


「湧水からここまで五百メートルの水路を引く。途中の谷は水道橋で跨ぐ。水路は石積みの溝に蓋をして、ゴミが入らないようにする。——三日で完成させる」


「「三日!?」」


 住民が叫んだ。ユーリとメルダは驚いてねえ。こういうのは慣れたって顔だ。成長しやがって。


「ガルド、ユーリ。水路の溝を掘ってくれ。幅三十センチ、深さ二十センチ。湧水から町まで一直線だ」


「おう!」


「はい!」


「ルッカ。水道橋の石を切ってくれ。アーチ橋と同じ寸法でいい。幅八メートルなら石は二十個弱だ」


「はい。すぐ取りかかります」


「メルダ。資材の手配と工程管理を頼む。セオと組んで、何がいつ必要か整理してくれ」


「了解です。——セオさん、資材リストを作りましょう。まず砕石が——」


「は、はい。えーと、砕石の必要量は水路の長さと断面から計算すると——」


「計算は後。まず現場を見て、手で触って、目で量を見積もって。計算はそれからです」


 メルダがセオを引っ張っていった。こいつ、管理職としての貫禄が出てきたな。学院で「段取りの問題」って言ってた女が、今は新入りを仕切ってる。


 初日。溝掘りが始まった。


 ガルドが先頭で地面を掘り返していく。ユーリがその後ろを整形する。ガルドの掘りは速いが荒い。ユーリが丁寧に溝の形を揃えていく。速い奴と丁寧な奴の組み合わせ。いいコンビだ。


「ユーリ、溝の勾配は千分の三だ。エルノの水準器で確認しながら進め」


「はい! ——エルノさん、ここの高さは!」


「この地点で湧水から百二メートル。高低差三十一センチ。勾配は千分の三・〇四。——合格です」


「よし! 次!」


 ユーリの動きが速え。声が大きい、現場を仕切ってる。カイザで一人で建物を建てた経験が効いてる。


 住民がそわそわしながら見てる。


「あの溝を伝って水が来るのか……?」


「まだ信じられねえが……」


「あの兄ちゃんたち、すげえ速さで掘ってるぞ……!」



    * * *



 二日目。谷に差しかかった。


 幅八メートル、深さ八メートルの谷。ここを水道橋で跨ぐ。ルッカが石を切り終えてた。寸法通り。あの鍛冶師の精度は何度見ても化け物だ。


 谷の両岸にコンクリートの橋台を据えた。その上にアーチの型枠を組んで、石を積んでいく。


 街道の十二連アーチ橋で確立した手順が、ここでも使える。規格化の力だ。


「ガルド、型枠を据えろ。ユーリ、石を並べろ。——迫石は俺が嵌める」


 ユーリが石を一個ずつ丁寧に積んでいく。目地を均一に、空洞なく。壊す授業で叩き込んだ精度が、ここで活きてる。


「ユーリ、三段目の左、目地をもう一押し」


「はい! ——これでどうですか」


「合格だ」


 半日でアーチが組み上がった。型枠を抜いた。石だけの水道橋が、谷を跨いだ。


 アーチの上面に石の溝を載せた。ここを水が流れる。溝の内側にはルッカが塗った防水モルタル。古代トンネルの粘土防水層から学んだ技術の応用だ。水が一滴も漏れないように。


「おおおおっ!! 橋だ!! 谷に橋が架かった!!」


 ケルンの住民が駆け寄ってきた。


「あの上を水が通るって!? 嘘だろ!?」


「嘘じゃねえ。水は高いところから低いところに流れる。湧水が町より高い場所にあるから、溝を繋ぐだけで勝手に流れてくる。——谷があるなら橋を架けりゃいい」


「そんな簡単に言うけどよ!! 半日で橋を架ける方がおかしいだろ!!」


「半日で架かる橋を設計したんだ。おかしくねえ」


 ハインツが「こいつはいつもそうだ」と苦笑いしてた。



    * * *



 三日目。水路が完成した。


 湧水から五百メートル。石積みの水路が丘を這って、水道橋で谷を跨いで、ケルンの町まで一直線に繋がってる。


「開通するぞ。——リル、湧水の水門を開けてくれ」


「はい! ウンディーネ、お願いします!」


 湧水が水路に流れ込んだ。


 水が溝を走っていく。ゆっくりと、だが確実に。丘を下って、水道橋の上を渡って、谷を跨いで——


 ケルンの町の広場に据えた水槽に、水が落ちた。


 ぴちゃん。


 最初の一滴。それから、水が太くなっていく。ちょろちょろと、そしてじゃばじゃばと。五百メートルの水路を走ってきた水が、勢いを増して水槽に注ぎ込む。


「水だ……!!」


 住民が叫んだ。


「水が来た!! 水が来たぞ!!」


「五百メートル先から!! 水が勝手に流れてきた!!」


「あの橋の上を通って!? 水が空を渡ってきた!!」


「うわああああっ!! 水だーーーっ!!」


 子供が水槽に手を突っ込んで、水を浴びてる。女たちが桶を持って走ってくる。男が水を一口飲んで、天を仰いだ。


「……うめえ。——きれいな水だ。井戸の水より冷たくてうまい」


「三日だぞ!! 三日で水が来たんだぞ!!」


「もう引っ越さなくていいんだ……!! この町で暮らしていけるんだ……!!」


 じいさんが水槽の縁にしがみついて泣いてる。この町で生まれて何十年も暮らしてきたんだろう。水が枯れたら出て行くしかなかった。——その水が、三日で戻ってきた。同じ井戸からじゃねえが、同じ清水だ。


 セオが横で数字を書いてた。


「流量、毎分約十五リットル。一日で二万リットル以上。千二百人の需要を十分にカバーできます。——棟方殿、計算通りです」


「計算より、あの顔を見ろ」


 住民が泣いてる。笑ってる。水を浴びて、飲んで、抱き合ってる。


 セオが水槽の方を見て、黙った。しばらくして、小さく言った。


「……こういうことなんですね。建築って」


「そうだ。数字の先に、あの顔がある」


 セオのレンズが曇ってた。涙だろ。拭けよ。


 帰り道。ユーリが訊いてきた。


「親方さん。次はどこに水路を引くんですか」


「どこにも引かねえ。——お前が引け」


「え」


「お前はもう土方だ。水路の引き方は今日見ただろ。次に水が枯れた町があったら、お前が行け」


「……はい。——行きます」


 首巻きを締め直してやがる。いい顔だ。


 メルダが横から「私も行きますよ。段取りは任せてください」と言ってる。セオが「流量計算は僕が」と食い下がってる。こいつら、もう勝手にチームを組み始めてる。


 ——悪くねえ。


 帰ったらコーヒーだ。


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