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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

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親方、帝国を動かす


 それは朝のコーヒーを飲んでる時に来た。


 井戸の水位が下がり続けて二十日。控え壁の設置は三十二軒中二十八軒まで終わった。あと四軒——今日中に終わらせるつもりだった。


 最初に気づいたのはリルだった。


「親方さん!! ノームたちが——全員、地面から出てきてます!!」


 土の精霊が地面から飛び出してくる。虫みてえに大量に。そんなの見たことがねえ。精霊が地面の中にいられないってことは——


 コーヒーの椀の中身が揺れた。波紋が立ってる。俺の手は震えてねえ。地面が震えてる。


「来るぞ!! 全員外に出ろ!! 建物から離れろ!!」


 叫んだ瞬間、地鳴りが来た。


 ドドドドドドドドッ!!


 腹の底から突き上げてくる振動。足が地面に立っていられねえ。ガルドが四つん這いになってる。トルテが柱にしがみついてる。カーラが転んで俺が引き起こした。


 揺れが来た。横揺れ。


 学院の校舎が——揺れてる。だが免震支承が効いてる。建物が地面の揺れを吸収して、壁に亀裂は入ってねえ。ドームも無事だ。石が互いを支え合って、揺れを分散させてる。


 ——だが、学院の外から音が聞こえた。


 バキバキバキッ!! ドシャアアッ!!


「下町の方だ!!」


 揺れが収まる前に走り出した。



    * * *



 下町。古い石造りの長屋が三軒崩壊してた。


 控え壁を付けた二十八軒は全部立ってる。——だが間に合わなかった四軒のうち三軒がやられた。壁が外に倒れて、屋根が落ちてる。


「誰かいるか!!」


「助けて!! 中に——うちの旦那が!!」


 女が叫んでる。崩れた長屋の前。瓦礫の隙間から声が聞こえる。生きてる。


「ガルド!! 瓦礫のここに隙間がある!! 丸太を突っ込んで支保工を組め!!」


「おう!!」


 ガルドが丸太を担いできた。崩れた壁と屋根の間に隙間がある。ここに丸太を斜めに突っ込んで、瓦礫が追加で落ちてこないよう支える。エルフの森のトンネル掘削で使った支保工(しほこう)と同じ原理だ。


「丸太入った!! 瓦礫が安定した!!」


「トルテ! 上に乗ってる梁を持ち上げろ! ガルドの丸太と合わせて空間を作る!」


「うりゃあああ!!」


 トルテが梁を片手で持ち上げた。獣人の腕力が全開だ。梁が浮いた瞬間にガルドがもう一本丸太を差し込んだ。


 空間ができた。中に人影が見えた。男が一人、テーブルの下に潜り込んでる。賢い判断だ。テーブルが瓦礫の重みを受け止めて、生存空間を作ってた。


「動けるか!!」


「足が……石で挟まって……!」


「リル! ノームに石をどかしてもらえ!」


「ノーム! お願いします!!」


 土の精霊が瓦礫の間に潜り込んで、挟まってた石をずらした。男の足が抜けた。


「手を伸ばせ!!」


 男の手を掴んで引きずり出した。足に傷があるが骨は折れてねえ。命に別状はなし。


 外で待ってた女が男に抱きついた。泣いてる。


「あんた!! あんた!! 生きてた!!」


「マルタさんの長屋は!?」


「大丈夫だ!! あそこは俺が三年前に基礎からやり直した!! びくともしてねえ!!」


 マルタさんが隣の通りから走ってきた。


「ムナカタさん!! うちは無事だよ!! 壁も真っ直ぐだ!!——それよりこっち手伝って! 二軒目にまだ人がいる!!」


 二軒目に走った。こっちは壁が内側に倒れてる。瓦礫の配置が一軒目と違う。崩れ方が違えば支保工の組み方も変わる。


「ガルド! こっちは壁が内倒れだ! 丸太を縦に入れて天井を支える! 横に入れるな、押し返すぞ!」


「縦だな!! 了解!!」


 丸太を三本、崩れた壁と床の間に縦に突っ込んで、つっかえ棒にした。空間が確保できた。中に老夫婦が蹲ってた。二人とも打撲はあるが意識ははっきりしてる。


「掴まれ!! 引っ張り出すぞ!!」


 トルテが老人を一人ずつ抱えて外に出した。軽々と。こういう時の獣人の腕力はありがてえ。


 三軒目も同じ要領で救出した。怪我人は七人。全員生存。死者はゼロだ。


 ——控え壁が間に合ってれば、崩壊自体がなかった。四軒。残り四軒が間に合わなかった。その悔しさは胸にしまっておく。今は目の前の人間を助ける方が先だ。



    * * *



 揺れが収まった。だが安心はできねえ。


「リル。地面の下はどうなってる」


「……ノームたちが言ってます。『まだ終わりじゃない。もっと大きいのが来る』って……!」


 前震だ。今のは前触れで、本震はまだ来てねえ。


 王都全域の被害状況を確認した。エルノが走り回って報告を集めてくる。


「棟方殿。免震支承の入った建物は全て無事です。城壁、王宮、市場、浴場——全部立ってます。被害が出たのは古い石造りの建物だけです」


「控え壁の二十八軒は」


「全て耐えました。控え壁がなかった四軒のうち三軒が崩壊——ですが、先ほど棟方殿が全員救出しました」


「死者は」


「ゼロです。怪我人は下町で七人。他の地区からの報告はまだ集まってません」


 ゼロ。今のところゼロ。だが本震が来たらどうなるか分からねえ。


「残り四軒の控え壁を今すぐ付ける。あと、崩壊した三軒の周囲にロープを張れ。近づくな。余震で追加崩壊する可能性がある」


「はい!」


 ガルドとトルテが走った。控え壁を建てる。もう時間との戦いだ。


 アレクシス王子が馬で駆けつけてきた。


「棟方殿! 被害状況は!」


「下町の古い建物三軒が崩壊。怪我人七名、死者ゼロ。それ以外の建物は全て無事です」


「死者がゼロ……! この規模の地震で……!?」


「免震と控え壁が効いた。——だが王子、これは前震です。本震がまだ来る。市民に建物から離れるよう指示を出してくれ。広場に集めた方がいい」


「分かった! すぐに手配する!」


 王子が馬を飛ばして去った。


 各国に精霊の交信を飛ばした。


「リル! 帝国、エルフの森、ドワーフ、アルヴェイン——全部に連絡しろ! 地震が来た、状況を報告しろと!」


「はい!! 全力で飛ばします!!」


 返事が来始めた。


 帝国のイレーネ。『帝国首都は軽い揺れのみ。被害なし。ヴァルターが公共施設の点検を開始しました』


 エルフのフィーア。『森は揺れましたが樹上の建物に被害なし。吊り橋の接合部を確認中です』


 ドワーフのドルク。『ロックボルトが二本外れた。増し打ちした分が効いて、大広間は無事だ。自力で対処する』


 アルヴェインのナディア。『揺れは感じていません。ただ、潮位が下がっています。——津波の可能性があります。住民を高台に移動させます』


 ナディアは勘がいい。潮位低下は津波の前兆だ。方舟の免震構造が活きる時が来るかもしれねえ。


 ——そして、学生からの報告が来始めた。


 帝国のメルダ。『ヴァルゲンは軽微な被害のみ。兵舎の壁にヒビが入った箇所を応急補修しました。ヴァルターさんの指示で公共施設の点検を手伝ってます。指示をください』


 指示はいらねえ。もう自分で判断して動いてる。


 ドワーフの学生。『グルンダール、ロックボルトの増し打ちを手伝ってます! ドルク長老の指示で動いてます! 地下都市は崩落なし!』


 エルフの学生。『吊り橋の接合金具三箇所にゆるみを確認。自分で増し締めしました。フィーア長老に報告済みです』


 自分で見つけて、自分で直して、上に報告してる。教えた通りだ。


 レグニカ東部の獣人の学生。『村の井戸が壊れました! 井戸の壁が崩れて水が濁ってます! 応急で別の場所に浅井戸を掘って水を確保しました! 本格的な修復は揺れが収まってからやります!』


 応急処置で水を確保してから本格修復に入る。判断が正しい。


 レグニカ南部の学生。『農家の石壁が三軒倒壊しました。怪我人なし。住民を外に避難させてから控え壁を付けて残りの建物を補強してます。——親方に教わった通りにやってます!』


 教わった通り。——その一言が、何よりでかい。


 十九人目まで報告が来た。全員無事。全員が自分の持ち場で動いてる。


 ——ユーリからの報告だけが、来ねえ。


「リル、カイザに繋いでくれ。ユーリに」


「繋いでます……。——まだ返事がありません……」


「……もう一回」


「繋いでます……! ……ダメです。ノームが向こうに届いてるのに、返事が来ないんです……!」


 返事が来ない理由は二つ。精霊の交信を受け取れる状態にないか——忙しすぎて応答する暇がないか。


 あのガキが応答を忘れるはずがねえ。メモ魔だ。報告しないわけがねえ。


 ってことは——手が離せない状況にいるってことだ。


 カイザは帝国南部。前回の崩壊事故が起きた町。あの粘土質の地盤は、地震で液状化する可能性がある。


「……勘弁してくれ」


 コーヒーが冷めてた。飲み干した。冷えたコーヒーは苦い。


 本震はまだ来てねえ。学生はまだ全員の安否が取れてねえ。控え壁はあと四軒。やることが多すぎる。


 だが——手は止めねえ。


 土方は、手を止めた瞬間に終わる。


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