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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

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親方、一日だけいなくなる


 第三宿場の管理人から精霊の交信が入った。排水溝が詰まって路面に水が溜まってるらしい。放っておくと路盤が傷む。


「日帰りで行ってくる。——ガルド、学院を頼む」


「え」


「今日の実習はお前が仕切れ。内容はレンガ積みの続きだ」


「いや待て親方。俺が? 俺が教えるのか?」


「お前は俺の下で三年やってる。レンガ積みくらい教えられるだろ」


「積めるけど、教えるのは——」


「じゃあいい練習だ。行ってくる」


 ガルドが何か言いかけたが、俺はもう歩き出してた。ルッカとリルを連れて西門を出る。エルノは学院に残した。何かあったらエルノが補助に入れる。


 カーラが横を歩いてる。


「ガルド、大丈夫かしらね」


「大丈夫だろ。あいつは腕がある」


「腕はあるけど、口がないのよね」


 ……否定できねえ。



    * * *



 ——以下、ガルドの一日。エルノの報告書と学生から聞いた話だ。



 朝の体操はできた。ガルドが前に立って腕を回す。学生が真似する。ここまでは問題ない。体操は口がいらねえ。


「ご安全に」


「「ご安全に!!」」


 ここまでは完璧だった。


 問題はその後だ。


「えー、今日は、レンガ積みの……続きだ」


「はい!」


「レンガを……積む。えー、目地はこう……」


 ガルドがレンガを手に取って、モルタルを塗って、積んだ。手つきは完璧だ。速くて正確。角度も目地の厚さも文句なし。


 だが——何も説明してねえ。


「ガルドさん、今なんでそっち向きに置いたんですか?」


「え? こっちの方がしっくりくるから……」


「しっくりって……」


「いや、なんつうか、手が覚えてるっていうか……」


「手が覚えてるって言われても、僕たちの手は覚えてないんですけど……」


 ユーリが困った顔で言った。ガルドの耳が垂れた。


 ガルドの教え方は「見ろ」と「やれ」だけだった。手は完璧に動く。だがなぜそうするかを言葉にできねえ。親方がいつもやってる「なぜそうするかを説明しながら手を動かす」がガルドにはできなかった。


 学生が困った顔をしてる。ガルドの手は速すぎて何をやってるか追えない。説明がないから真似しようがない。


「ガルドさん、もう一回やってもらえますか? ゆっくり」


「お、おう。——こう、こうやって……こう」


 ゆっくりやっても説明が「こう」しかねえ。エルノが見かねて補足に入ったが、エルノの説明は正確すぎて今度は理屈っぽくなる。数字と角度の話をされても学生の手は動かねえ。


 昼前。ガルドが学院の壁際に座り込んだ。トルテが横に来た。


「ガルドさん、落ち込んでる?」


「落ち込んでねえ」


「耳、ぺたんとしてるけど」


「……ちょっとだけだ」


「ガルドさんはさ、親方の真似しなくていいと思うよ」


「は?」


「親方は喋りながら手を動かすじゃん。あれ、親方の教え方でしょ。ガルドさんはガルドさんのやり方でいいんじゃない?」


「俺のやり方って何だよ」


「あたしは知らないよ。でもさ——あたしがガルドさんに教わった時、一番分かりやすかったのは、ガルドさんがあたしの石積みを手で直してくれた時だった。『ここが甘い』って言いながら、手で正しい位置に動かしてくれた。あれが一番よかった」


 ガルドはしばらくして、立ち上がった。



    * * *



 午後。


「全員集まれ」


 ガルドの声が変わってた。学生が並んだ。


「午前中は悪かった。俺は口で教えるのが下手だ。——だからやり方を変える」


 レンガを一個、学生の前に置いた。


「お前ら、レンガ積みの壁を一枚作れ。一メートル四方。——積み終わったら、俺がぶん殴る」


「「またですか!?」」


 壊す授業の再来だ。だが今回は親方が弱点を予測するんじゃなく、ガルドが殴って壊す。


「ただし。——俺が壊せなかったら合格だ」


 空気が変わった。


「ガルドさんの拳に耐える壁……!?」


「親方の壁は耐えてたじゃないですか! 同じように積めば——」


「同じように積めるか試してみろ。壊された壁は、俺が手で直す。どこが悪かったか、手で教える。——口じゃなくて手でな」


 学生が一斉に動き始めた。今度は目の色が違う。目標がはっきりしてるからだ。「ガルドの拳に耐える壁」。分かりやすい。


 一枚目。獣人の学生。ガルドが五割の力で殴った。


 バキッ。壊れた。


 ガルドが瓦礫を手に取って、割れた場所を学生に見せた。


「ここの目地が薄い。——貸せ」


 レンガを拾って、正しい位置に手で合わせた。ガルドの太い指が、レンガの角度を微妙に調整する。


「この角度。この厚さ。——分かるか」


「……分かります! 手で触ると分かる!」


「そうだ。目で見るより手で触った方が分かる。——もう一回積め」


 二枚目。同じ学生。今度はガルドが指した場所を意識して積んだ。


 ガルドが殴った。五割。


 ——ヒビが入ったが、倒れなかった。


「おおおっ!! 倒れなかった!!」


「こっちの目地が浮いてる。手で押し込め。——そう、その力加減だ。覚えろ」


 ガルドの手が学生の手に重なって、モルタルを押し込む力加減を伝える。言葉じゃ伝わらねえ「ちょうどいい力」を、手から手へ直接渡してる。


 三枚目。四枚目。学生が何度も積んで、ガルドが何度も殴る。殴るたびに、壊れた場所を手で直す。言葉は少ない。だが手で触った修正が、学生の手に直接伝わっていく。


 他の学生も同時に挑戦してた。エルフの学生が自分の壁を積んでガルドに「殴ってください!」と頼んでる。ドワーフの学生が隣で「あたしの方が先だ!」と割り込んでる。順番待ちの列ができてた。


 メルダが横から全員の結果を記録してる。壊れた場所、原因、修正内容。この女は放っておいても管理職の仕事を始める。


「ガルドさん!! 次、あたしです!!」


「おう来い! ——おらっ!」


 バキッ。


「ああーーっ!! 壊れた!!」


「ここだ。ここのレンガが半個分ずれてる。——手で触れ。正しい位置はここだ」


「こう……?」


「もうちょい右。——そう。そこだ」


 ガルドが教えるたびに、学生の顔が変わっていく。口では説明できなくても、手で触れば伝わる。ガルドの太い指が、正確に弱点を示す。この男の手は、壁を壊す手であると同時に、壁を直す手だ。


 六枚目——獣人の学生が積んだ壁を、ガルドが五割で殴って、壊れなかった。ヒビもなし。


「っっっ!! 硬え!!」


 ガルドが手を振ってる。学生が跳びあがった。


「耐えた!! ガルドさんの五割に耐えた!!」


「やった!! やったぞ!!」


「すげえ!! 午前中に壊れてたのと同じ奴の壁だぞ!?」


「半日で別物じゃねえか!!」


 他の学生も次々に挑戦し始めた。壊される。手で直される。もう一回積む。壊される。直される。積む。——繰り返すうちに、壁の精度が上がっていく。


 夕方までに、五割に耐えた学生が四人。


「明日は六割だ」


「六割!?」


「耐えられる壁を積むまでやるぞ」


 ガルドの耳がぴんと立ってる。——自分の教え方を見つけた顔だ。



    * * *



 夕方。街道から帰ってきた。排水溝の詰まりは枯れ葉と土砂が原因で、掃除して終わりだった。管理人にマニュアルを補足して、ルッカが排水口に鉄製の格子を付けた。これで枯れ葉は入らねえ。


 学院に戻ると、空き地に瓦礫の山がいくつもできてた。レンガの破片だらけだ。


「……何があった」


 エルノが報告書を持ってきた。午後の実習内容。ガルドの教え方。


「ガルドが学生の壁を殴って、壊して、手で直して、もう一回積ませる。——その繰り返しだったそうです」


「……それで?」


「学生の壁の精度が、午前中の三倍になってます。数値で確認しました」


 三倍。半日で三倍。


「ちなみに、レンガの消費量が予定の四倍です」


「壊しすぎだろ」


「はい。ただ、壊れたレンガは砕いて砂利に転用してますので、無駄にはなってません」


「……誰のアイデアだ」


「メルダさんです。『どうせ壊すなら建材にしましょう』と」


 あの女、ほんとに管理職向きだな。


 ガルドが来た。


「親方。——教えるの、ちょっとだけ分かったかもしんねえ」


「聞いた。壁を殴って直したそうだな」


「口で言えねえもんは手で伝えるしかねえだろ。——俺のやり方でやった」


「お前のやり方か」


「まずかったか?」


「……いや。悪くねえ」


 ガルドの耳がぴんと立った。


 教え方は一つじゃねえ。俺は喋りながら手を動かす。ガルドは殴って直す。トルテが言ったらしい。「ガルドさんはガルドさんのやり方でいいんじゃない」と。


 ——あの猫、いいこと言うじゃねえか。内緒だけどな。


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