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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

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親方、授業中に呼び出される


 学院生活、十日目。


 校舎の東壁がブロック五段まで積み上がった。学生の腕が日に日に上がってる。目地の厚さが揃うようになってきたし、ブロックを置く前に表面を確認する癖がついてきた。壊す授業の効果だ。


 ユーリが水準器でブロックの水平を確認してる。真剣な顔だ。隣でメルダが目地のモルタルをコテで押し込んでる。「奥まで詰めないと空洞になる」。あの授業を一番吸収したのはこの二人だ。


 午前の実習が順調に進んでた時だった。


 ハインツが走ってきた。息が切れてる。


「棟方! 商人ギルドのフェルマンから伝言だ! 中央市場の倉庫が傾いてる! 壁にヒビが入って、今にも崩れそうだと!」


「倉庫? あそこは二年前にうちで建てた——いや、うちの仕様で石工チームが建てたやつか」


「そうだ! ダグの大工チームが応急で支えを入れてるが、原因が分からねえと!」


 壁にヒビ。傾き。——カイザと同じパターンか? いや、王都の地盤は安定してるはずだ。凍結深度の問題じゃねえ。


「行く。——全員ついてこい」


 二十人の学生が顔を上げた。


「授業は?」


「これが授業だ。現場を見ろ。教室じゃ教えられねえことがある」



    * * *



 中央市場の倉庫。二階建て。レンガ造りの壁に、斜めのヒビが走ってた。一階の窓枠が歪んでる。建物全体が北に向かって傾いてる。


 ダグの大工チームが木の支柱を三本外壁に立てて、倒壊を防いでた。


「棟方! 助かった! 朝から傾きが進んでる気がする。原因が分からねえんだ」


 フェルマンが倉庫の前で腕を組んでる。


「中に商品が三百万セント分入っておる。倉庫が潰れたら大損だ。——頼む、棟方殿」


「まず中の人間を出せ。商品より命が先だ」


「もう出した。入ってるのは荷物だけだ」


「よし。——学生全員、俺の後ろにつけ。手は出すな。目と耳を使え」


 壁に近づいた。


 まずヒビの走り方を見る。斜め四十五度。一階の窓の角から上に向かって走ってる。これは不同沈下のヒビだ。基礎の片側だけが沈んで、壁が歪んで、応力が集中した窓の角から裂けてる。


「全員、このヒビを見ろ。——斜め四十五度。窓の角から始まってる。何でここから裂けたか分かるか」


 学生が黙ってる。ユーリが手を挙げた。


「窓の角は、壁の中で一番形が変わる場所だから……力が集中する?」


「正解だ。穴の角は応力集中点になる。壁が歪んだ時、真っ先にひび割れるのはここだ。——覚えとけ」


 壁を叩いた。コン。コン。コ——ン。


 北側の壁だけ音が軽い。目地に空洞がある——じゃねえ。壁自体が基礎から浮きかけてる。北側の基礎が沈んでるんだ。


「音が違った。——分かったか」


「分かりました! 北側だけ軽い音です!」


 ユーリが反応した。百二十軒の壁を叩いた経験が生きてる。


「リル。北側の地下を診てくれ。基礎の下に何があるか」


「はい! ノーム、お願いします! ——あっ! 親方さん! 基礎の下に水が溜まってます! 北側だけ! 地下水じゃなくて、どこかから漏れてきた水です!」


「漏水か。——水道管のルートは」


 エルノが市の配管図を持ってきた。こいつはこういう時の準備が速え。


「倉庫の北側を水道管が通ってます。三ヶ月前に新設した支線です」


「三ヶ月前。——そいつが漏れてる」


 全部繋がった。新設の水道管が漏水して、倉庫の北側の基礎の下の土を洗い流した。土が流れて空洞ができて、基礎が沈んだ。基礎が沈んだから壁が傾いて、ヒビが入った。


「学生全員聞いてるか。——この倉庫が傾いた原因は基礎の沈下だ。沈下の原因は地下の空洞。空洞の原因は漏水。漏水の原因は水道管の不良。——建物の問題が、建物の外にあることもある。壁だけ見てても原因は分からねえ」


 二十人が黙って聞いてる。


「ユーリ。お前ならどう直す」


「え……僕ですか。——まず漏水を止めて、空洞にコンクリートを流し込んで、基礎を安定させてから、壁のヒビを補修……でしょうか」


「手順は合ってる。ただし一つ足りねえ。空洞にコンクリートを入れる前に、残ってる土を突き固めなきゃいけねえ。コンクリートを流しただけじゃ、下の土が締まってねえから、また沈む」


「あ……突き固め……!」


「基礎の下は突き固める。入学初日に教えたろ。あれと同じだ」


 メルダが手を挙げた。


「親方。傾いた壁を元に戻すことはできるんですか」


「完全には無理だ。だが傾きの進行を止めることはできる。基礎を安定させれば、これ以上沈まねえ。壁のヒビはモルタルで埋める。——百点の修復じゃねえが、使える建物に戻せる」


「使えるなら十分だ! 頼む!」


 フェルマンが食いついてきた。



    * * *



 修繕に入った。学生を使う。


「ガルド、北側を掘れ。基礎が見えるまで」


「おう!」


「ユーリ、水道管の漏水箇所を見つけろ。リルの精霊に手伝ってもらえ」


「はい!」


「メルダ、ダグの大工チームと連携して支柱の配置を確認しろ。倒壊防止の支えが効いてるか計算してくれ。——エルノに聞きながらでいい」


「分かりました!」


「残りの学生は二手に分かれろ。半分は砂利と突き棒を取ってこい。半分はコンクリートを練れ。——やり方は校舎の基礎で覚えたろ」


「「はい!!」」


 二十人が散った。指示されたことだけじゃなく、自分で判断して動いてる奴が何人かいる。獣人の学生がガルドの掘削を手伝いに走ってる。ドワーフの学生がルッカの横で工具を準備してる。


 三十分で漏水箇所が見つかった。水道管の接合部のモルタルが割れてた。ユーリが見つけた。


「ここです! 管の繋ぎ目から水が噴いてます!」


「よし。リル、水を止めろ」


「ウンディーネ!」


 水が止まった。管の接合部を補修する。これはハインツの仕事だ。


 次。基礎の下の空洞。ガルドが掘り出した北側の基礎の下に、案の定、拳大の空洞が三つ開いてた。水に土が洗い流された跡だ。


「学生。突き棒を持って来い。——この穴の周りの土を突き固めてから、砂利を詰めて、コンクリートで蓋をする」


 学生が突き棒を振った。五日前より格段にましだ。ドン、ドン、ドンと石が締まる音が響く。


「親方! 音が変わりました! さっきより硬い音です!」


 獣人の学生が叫んだ。耳がいい。


「正解だ。硬い音がしたら土が締まった合図だ。次の穴に移れ」


「はい!!」


 三つ目の穴を突き固めてる時、ドワーフの学生が砂利の粒度を確認してた。


「親方。この砂利、ちょっと大きすぎませんか。穴が小さいから、もう少し細かい方が隙間なく詰まると思うんですが」


「……いい判断だ。砕いて使え」


 ドワーフが石を砕いて細かい砂利を作った。穴に詰めると、確かにぴっちり収まる。学生が自分で判断して、それが正しかった。こういう瞬間が一番嬉しい。


 市場の住民が集まってきてた。


「おい、あの学生たちが倉庫を直してるぞ!」


「学生だって!? まだ入学して十日だろ!?」


「親方が指揮してるから大丈夫だろ!!」


「いや見ろよ、あの突き棒の使い方! 素人の動きじゃねえ!」


「ドワーフの嬢ちゃんが砂利の粒度を見極めてるぞ!? 職人かあいつは!?」


 素人だよ十日前まで。だが十日間ぶっ通しで基礎を突き固めた手は、もう素人の手じゃねえ。


 二時間で修繕が終わった。漏水を止め、空洞を埋め、基礎を安定させ、壁のヒビをモルタルで補修した。ダグの支柱はしばらく残しておく。基礎が完全に安定するまでの保険だ。


「フェルマン。一ヶ月後にもう一回見に来る。それまで支柱は外すな」


「ありがとう棟方殿! ——商品が無事で助かった!! 礼をさせてくれ!!」


「礼はいらねえ。——だが、学生の飯代を出してくれるとありがたい」


「安いもんだ!! 今夜の夕飯は商人ギルドが持つ!!」


 学生が歓声を上げた。「肉だ!!」「酒は!?」「未成年は果汁な!」


 学院に帰る道すがら、ユーリが訊いてきた。


「親方さん。今日のは授業だったんですか。それとも仕事だったんですか」


「両方だ。現場で問題を見つけて、原因を突き止めて、手を動かして直す。——建築ってのはそれだけだ。教室でも現場でも、やることは変わらねえ」


「やることは変わらない……」


「ただし、一つだけ違うことがある」


「何ですか」


「現場は失敗が許されねえ。練習じゃねえからな。——だからこそ、練習で百回失敗しとけ。本番で一回も失敗しなくて済むように」


 ユーリがメモしてる。「練習で百回失敗する。本番で一回も失敗しない」と書いてる。



 学院に着いた。校舎の壁がブロック五段分立ち上がってる。まだ半分だが、形が見えてきた。


 明日も朝の体操から始める。ご安全に。


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