表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/161

親方、生徒が建てた壁をぶっ壊す


 学院生活、五日目。


 校舎の基礎が全面完成して、壁の積み上げに入った。東の壁はコンクリートブロック、西の壁はレンガ。学生たちは交代で両方の壁を経験する。


 だがその前に、やることがある。


「今日は壁を積む前に、実験をする。——全員、練習用のブロックで一メートル四方の壁を一枚ずつ積め」


「一メートル四方? 校舎とは別にですか?」


「別にだ。自分の壁を一枚、好きなように積め。時間は二時間。目地の厚さも配置も自由。自分なりに一番丈夫だと思うやり方で積め」


 二十人が散って、それぞれの壁を積み始めた。


 二時間後。


 二十枚の壁が空き地に並んだ。出来はバラバラだ。目地が厚すぎる奴、ブロックが傾いてる奴、きれいに積めてるが目地に空洞がある奴。ユーリの壁は丁寧だが遅くて、一メートルに届いてない。トルテの壁はでかいが雑。帝国の段取り女——名前はメルダ——の壁は小さいが隙間がない。


「よし、全員自分の壁の前に立て」


 二十人が並んだ。


「今からこの壁を壊す」


「「壊す!?」」


「ガルド」


「おう!」


 ガルドが拳を握って前に出た。学生たちが一歩下がった。そりゃそうだ。


 STR:Sの獣人が壁を殴りにくるんだから。


「待ってください!! せっかく積んだのに!!」


「二時間もかけたんですよ!?」


「壊すために積んだんだ。——壊れ方を知らない奴に、壊れない壁は建てられねえ」


 しん、となった。


「いいか、今から一枚ずつ壊す。壊す前に、俺がどこから壊れるか予測する。お前らは自分の壁がどこから壊れるか考えろ。——じゃあ一番手」


 端の壁の前に立った。獣人の学生が積んだ壁。力任せにブロックを積んであるが、下から三段目の右端に目地が薄い箇所がある。


「ここから壊れる」


 チョークで印をつけた。


「ガルド、右からまっすぐ押せ。全力じゃなくていい。七割で」


「おう。——せいっ!」


 ガルドの掌底が壁に入った。


 バキッ!!


 壁が割れた。チョークの印をつけた場所——三段目の右端——から亀裂が走って、壁が二つに折れた。


「う、嘘だろ……!? 印のところから壊れた……!?」


「目地が薄い場所は力が集中する。力が集中した場所から壊れる。——お前の壁は、ここだけ目地が五ミリしかなかった。他は十ミリある。この差で壊れる場所が決まった」


 学生が瓦礫を拾って目地の断面を見てる。確かに、割れた場所だけ目地が極端に薄い。


「次!」


 二枚目。レンガを積んだエルフの学生の壁。見た目はきれいだが——


「ここだ。下から二段目の真ん中。目地に空洞がある」


「え……? ちゃんとモルタルを詰めたつもりなんですが……」


「つもり、だろうな。——ガルド」


 ドンッ。壁が割れた。俺が指した場所から。


 断面を見せた。目地の中に親指大の空洞がぽっかり空いてる。


「モルタルを詰める時に、奥まで押し込めてなかった。表面だけ塗って、中が空っぽだ。——これがカイザで崩れた家と同じ症状だ」


 空気が変わった。カイザの崩壊事故のことは、入学前の説明で全員に伝えてある。自分の壁に同じ欠陥があった。その事実が刺さってる。



    * * *



 三枚目。四枚目。五枚目。全部、俺が指した場所から壊れた。


 学生たちの目が変わってきた。最初は「壊すなんてひどい」って顔だったのが、今は自分の壁のどこが弱いか必死で探してる。


「親方さん! 僕の壁はどこから壊れますか!?」


 ユーリが訊いてきた。自分の壁の前に立って、じっと見てる。


 ユーリの壁を見た。丁寧だ。目地の厚さも均一で、空洞もなさそうだ。だが——高さが八十センチしかない。時間切れで上三段が足りてない。


「お前の壁は目地に問題はねえ。だが上が足りてない分、頂部の重しがない。上からの荷重がないと、横からの力に弱い。——ガルド、三割でいい」


「おう。——とりゃ」


 軽く押した。ユーリの壁は、割れずにそのまま横に倒れた。


「割れなかった!?」


「目地が均一だから、力が分散した。弱点がないから一箇所に集中しなかった。——だが倒れた。高さが足りないと自重が足りなくて、横力に負ける」


「じゃあ……ちゃんと一メートルまで積めてたら?」


「倒れなかったかもしれねえ。——丁寧さは正義だ。ただし、完成させなきゃ意味がねえ」


 ユーリがメモしてる。「丁寧×完成=強度」と書いてる。シンプルだがそういうことだ。


 十枚目。トルテの壁。でかい。一メートル二十くらいある。だが雑だ。ブロックの角が欠けてるし、目地がはみ出してる。


「ここ、上から四段目の左。ブロック自体にヒビが入ってる。積む前から割れてた石を使っただろ」


「……バレた」


「材料の選定からやり直せ。割れた石は使うな」


「はーい……」


「ガルド」


「悪いなトルテ。——おらっ」


 バキバキッ!! ヒビの入ったブロックから崩壊。瓦礫が飛び散った。トルテが「ああーーっ!! あたしの壁ーーっ!!」と叫んでる。


 十五枚目あたりで、学生たちが自分から弱点を申告し始めた。


「親方、自分のはここが怪しいと思います。六段目の左端、目地を塗り直した場所です」


「見てみろ。——ガルド」


 ドンッ。ぴったりそこから壊れた。


「当たった!! 自分で分かった!!」


「それが大事だ。自分の仕事の弱点を自分で見つけられるようになったら、手抜き工事は絶対にしなくなる」



    * * *



 二十枚全部壊した。空き地に瓦礫の山が二十個。


 メルダが手を挙げた。


「親方。一つ訊いていいですか」


「何だ?」


「親方が積んだ壁は、壊れるんですか」


 いい質問だ。


「見たいか」


「見たいです!!」


 二十人が声を揃えた。


「よし。——五分くれ」


 ブロックを取って、壁を積んだ。一メートル四方。五分。目地は均一に十ミリ。ブロックの角を揃えて、水平を目で確認しながら一段ずつ。二十人が息を殺して見てる。


「ガルド。本気で来い」


「マジか。本気でいいのか」


「本気だ」


 ガルドが構えた。学生が後ずさった。STR:Sの本気。丘の岩を砕いた拳だ。


「——おらぁっ!!」


 ドゴォンッ!!


 衝撃が空き地を揺らした。砂埃が舞う。


 ——壁は立ってた。


 ヒビすら入ってねえ。ガルドの拳の跡が表面に薄くついてるだけだ。


「「えぇぇぇぇっ!?」」


 二十人が同時に叫んだ。


「壊れてない!! ガルドさんの全力で壊れてない!!」


「同じブロックですよね!? 同じモルタルですよね!? 何が違うんですか!!」


「目地だ。目地が均一で、空洞がなくて、ブロック同士が完全に噛み合ってる。力がどこか一点に集中しないから、全体で受け止める。——お前たちの壁は、どこかに弱点があった。弱点に力が集中して、そこから壊れた。弱点がなけりゃ、こうなる」


 ガルドが手を振ってる。


「いってえ……! 親方の壁、硬すぎだろ……!」


「お前の拳が弱いんじゃねえ。壁が強いんだ。——お前らもこの壁を積めるようになれ。素材は同じだ。違いは丁寧さだけだ」


 二十人の目の色が変わった。同じブロック、同じモルタル。なのにテツの壁だけ壊れない。違いは技術。技術は学べる。



    * * *



「全部壊れた——いや、俺のは壊れなかったが。——大事なのは、壊れ方は全部違うってことだ。目地の空洞、ブロックのヒビ、高さ不足、材料の不良、配置の偏り。原因が違えば壊れ方も違う。壊れ方を見れば、原因が分かる」


 二十人が黙って聞いてる。


「カイザで集合住宅が崩壊した時、俺は瓦礫の前にしゃがんで崩れ方を読んだ。基礎が浅い。割栗石の突き固めが甘い。目地に空洞がある。——全部、壊れた壁が教えてくれた」


 帝国の学生——メルダが手を挙げた。


「親方。壊す前に弱点が分かるのは、経験ですか。それとも理屈ですか」


「両方だ。理屈で当たりをつけて、経験で確認する。お前らは今日、理屈を学んだ。——あとは経験を積め。百枚壊せば、壊さなくても弱点が見えるようになる」


「百枚……!」


「まずは今日壊した自分の壁を覚えとけ。自分の失敗が一番の教材だ。——さあ、瓦礫を片付けろ。午後から校舎の壁を積む。今度は壊されねえ壁を積め」


 二十人が瓦礫を拾い始めた。さっきまで自分の壁だったコンクリートの破片を、手で拾って運んでる。


 カーラが遠くから見てた。


「テツ、あんた結構いい先生じゃない」


「先生じゃねえ。親方だ」


「はいはい」


 午後。校舎の壁を積み始めた。午前中と手つきが違う。全員が目地を丁寧に詰めてる。ブロックを置く前に確認してる。空洞がないか、ヒビがないか。


 壊されたから分かる。壊されないと分からなかったことがある。


 ——教えるってのは、こういうことか。


 まだ下手くそだが、悪くねえ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ