表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第四部 礎の親方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/161

親方、学校を建てる


 王都ローデンに帰ってきた。


 南門をくぐった途端、コーヒーと石畳と排水溝の匂いが鼻に入ってきた。自分が作ったインフラの匂いだ。帝国の泥道を歩いた後だと余計に分かる。


 下町を歩いてたら、マルタさんの長屋の前を通りかかった。


「あらムナカタさん! おかえり!」


「ただいま、マルタさん。——壁は」


「真っ直ぐだよ。いつも通り」


 三年前に直した壁がまだ真っ直ぐ立ってる。基礎を八十センチ掘って、割栗石を突き固めて、不同沈下の原因を根本から潰した。だから三年経っても傾かねえ。


 カイザの家は三十センチしか掘ってなかった。


 同じ工法。同じ仕様書。だが基礎を手抜きしたら壊れた。マルタさんの壁と、カイザの瓦礫。違いは——作った奴が「なぜそうするか」を分かってたかどうかだ。


 自分の家に着いた。ガルドが東の宿場から戻ってきていて、玄関先でコーヒーを淹れてた。こいつの淹れるコーヒーは俺より丁寧だ。豆を砕く粒度が揃ってる。


「おう、親方! 帰ってたのか!」


 尻尾が振れてる。嬉しいのは分かるがでかい図体で尻尾振るな、犬みてえだ。


「カイザの件、精霊の交信で聞いた。——ひでえ話だな」


「ああ。ひでえ話だ。——ガルド、一つ相談がある」


「何だ。深刻な顔してんな」


()()()()()()


「……は?」


「建築を教える学校だ」


 ガルドの耳がぴんと立った。



    * * *



 翌日。王宮の小広間に呼ばれた。


 アレクシス王子、ヴェルトール伯、フェルマン。いつもの面子だ。テーブルの上に帝国から持ち帰った報告書を広げて、カイザの崩壊事故の経緯を話した。


「仕様書は正しかった。工法も間違っちゃいねえ。だが建てた職人が、なぜそう建てるのかを理解しないまま手順だけ追った結果、基礎を間違えた。——仕様書を配るだけじゃ、同じことがまた起きる」


 アレクシス王子が腕を組んだ。


「つまり、仕様書だけでは技術は伝わらない、ということか」


「手順は伝わる。考え方は伝わらねえ。考え方ってのは、現場で手を動かして、失敗して、直して、初めて身体に入るもんだ。文字だけじゃ無理がある」


「で、どうする」


「建築を教える場所を作る。世界中から職人の卵を集めて、一緒に建てながら技術を叩き込む場所だ」


 ヴェルトール伯が身を乗り出した。


「教育施設ということか。棟方殿が教壇に立つと」


「教壇なんか立たねえ。現場に立つ。教室で講義するんじゃなく、実際に建物を建てる。その建設工程が丸ごと授業になる」


 フェルマンが指で顎を叩いてる。商人の顔だ。


「各国から学生を受け入れるなら、宿舎も食事も要りますな。受け入れ人数は」


「最初は二十人。多すぎると目が届かねえ」


「二十人。入学の条件は」


「一つだけ。手を動かす気がある奴」


 アレクシス王子が笑った。


「棟方殿らしい条件だな。——場所は」


「南区画の空き地がいい。地盤が安定してて、排水路にも近い。水道からの配管も引ける」


「分かった。私が手配しよう。費用は王家から出す。——棟方殿の技術が正しく広まることは、国防と同義だ」


 話が早え。この王子、いつもそうだが判断が速い。



    * * *



 小広間を出て、南区画の空き地に行った。


 ここはもともと俺が最初にヴェルトール伯から借りた作業場のすぐ近くだ。市場や浴場の建設で使い慣れた場所。地盤の状態も把握してる。


 地面に棒で図を描き始めた。ガルド、エルノ、ルッカ、リル、カーラが集まってきた。全員帰ってきてたらしい。俺の周りに半円を作って、地面を覗き込んでる。


「校舎はこの形だ。長方形。幅二十メートル、奥行き四十メートル。一階建てで、天井を高くする。——で、ここが肝だ」


 棒で壁を四面に分けた。


「東の壁はコンクリートブロック。西の壁はレンガ積み。南の壁は版築(はんちく)——土を突き固めた壁だ。北の壁は木造。四面全部、違う工法で建てる」


「全部違うんですか!?」


 リルが目を丸くしてる。


「ああ。基礎も三種類入れる。東は割栗石の突き固め。西は杭基礎。南は石灰パイル。北は通常の石積み。屋根も三種類——トラス、アーチ、木造小屋組み。全部一つの建物に入れる」


「強度は大丈夫なんですか? 違う工法を繋ぎ合わせて……」


「繋ぎ目が一番弱い。だからこそ、繋ぎ目の処理を学べる。違う壁と違う壁をどう接合するか——これが実は現場で一番難しいところだ。教科書じゃ教えられねえ」


 棒で建物の中央に丸を描いた。


「ここが大講堂。天井はドームにする。半球の石積み天井だ。——俺もまだ実物大のドームは建てたことがねえ。学生と一緒に初めて挑戦する」


「棟方殿もやったことがないんですか!?」


「ああ、だから面白えんだ。教える側も初めてのことをやる。そうじゃなきゃ、手順を覚えさせるだけの退屈な場所になっちまう」


 エルノの鼻息が荒くなった。新しい構造に挑戦できることへの興奮だろう。


「カリキュラムを組みます。実技と座学の比率はどうしますか」


「九対一。座学は朝の一時間だけでいい。残りは全部現場だ」


「九対一……! ずいぶん思い切った比率ですね」


「現場の建築は手で覚えるもんだ。机に座って覚えることは一割もねえ」


 ガルドが腕を組んで聞いてた。尻尾が揺れてる。言いたいことがある顔だ。


「親方。——俺も教えていいか」


「教えるんじゃねえ。一緒に建てるんだ」


「一緒に建てる。——おう、それなら得意だ」


 耳が立ってる。嬉しいんだな。こいつは相変わらず分かりやすい。


 ルッカが図面を覗き込んだ。


「親方。鍛冶の実習棟も要りませんか。工具は現場の命ですから——学生に工具の手入れを教える場所が要ります」


「いるな。校舎の横に鍛冶場を併設する。ルッカ、設計はお前に任せる」


「はい!」


 ルッカの目が光ってる。自分の鍛冶場を設計できるってのは、こいつにとっちゃ夢みてえな話だろう。


 カーラが手を挙げた。


「はい、質問」


「何だ」


「風呂は」


「……作る」


「何人用」


「二十人の学生が使うんだから、それなりのやつを」


「よし。設計に口出ししていい?」


「脱衣所を広くしろとか腰掛けを付けろとか言うんだろ。分かってる」


「分かってるなら話が早いわ」


 勘弁してくれ。


 だが——風呂は要る。カイザで五右衛門風呂を作った時、被災者の顔が変わったのを見た。汗を流して、体を温めて、頭をほぐす。それができる場所があるかないかで、人間の動きは変わる。学院にも、絶対に要る。



    * * *



 夕方。自分の家でコーヒーを飲みながら、図面を整理してた。


 エルノが早速、校舎の構造計算の叩き台を持ってきた。四面全部違う工法で建てた場合の荷重計算。こいつは仕事が速え。


「棟方殿。一つ確認ですが、校舎は学生が建てるんですね」


「ああ、自分が学ぶ場所を自分で建てる。それが最初の授業だ」


「となると、工期は長めに見た方がいいですね。素人が混ざりますから」


「素人だから長くかかる。長くかかるから覚える。工期の短さより、手順を全員が踏むことの方が大事だ。——急がねえ」


 エルノが頷いて、ノートに「工期:未定。品質優先」と書いた。


 ガルドがコーヒーのお代わりを持ってきた。


「親方。学校の話、各国にも声をかけるのか」


「帝国にも、エルフの森にも、ドワーフにも、アルヴェインにも。全部に声をかける。——出し惜しみはしねえ」


「——ただよ、各国から学生が来るなら、まともな道がいるんじゃねえか。帝国から王都まで、今の道だと馬で五日かかる。雨が降りゃ一週間だ」


 ガルドが珍しくまともなことを言いやがった。


「……道か」


「道だ。学校に通えねえんじゃ話にならねえだろ」


 道。街道の整備。学院の前に、まず人と物が動ける道を作る。言われてみりゃ当然だ。建物を建てる前に、足元を固める。基礎と同じだ。


「よし。学院の前に、まず道を敷く。帝国までの街道を一本通す」


「おう。——俺も行くぞ」


「当たり前だ。お前の馬鹿力がなきゃ丘も切れねえ」


「馬鹿力って言うな。怪力って言え」


「同じだろ」


「全然違う!」


 カーラが横から「同じよ」と言ってガルドの耳がぺたんと垂れた。


 コーヒーがうまい。やることが山ほどある。街道、学院、仕様書の改訂。全部やる。


 ガルドが訊いてきた。


「なあ親方。カイザにいた時、弟子っぽいのができたって聞いたんだが」


「誰から聞いた」


「カーラ。精霊の交信でリルに話して、リルがエルノに話して、エルノが俺に——」


「伝言ゲームかよ。——弟子じゃねえ。壁の叩き方に興味を持ったガキがいただけだ」


「親方さん、そのガキに学院に来いって言ってませんでしたっけ?」


 リルが横から余計なことを言いやがる。


「言ったのは『ついてくるなら来い』だ。来るかどうかはあいつ次第だ」


「来るよ絶対」とカーラ。「あんたに声かけられて来ない奴、見たことないもの」


「……うるせえ」


 まあ、来るならそれでいい。来ないならそれもいい。手を動かす気がある奴だけ来りゃいい。


 各国への募集の知らせは、リルの精霊の交信で送る。帝国のヴァルターとイレーネ、エルフの森のフィーア、ドワーフのドルク、アルヴェインのナディア。全員に「職人の卵がいたら送ってくれ」と。


 ナディアからはたぶん、すぐ返事が来る。あいつは待てない性格だ。


 だがまずは——道からだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ