親方、地下三千人分のシェルターを掘る
地上のシェルターと同時進行で、地下を掘る。
「地上が壊れても、地下にいれば生き延びられる。地上は建て直せる。人は建て直せねえ」
シェルターの地下に、大規模な避難空間を作る。グルンダールでやったことの応用だ。換気シャフト、光導管、地下水道——全部の技術がここに集まる。
「ナディア。この港町の地盤はどうなってる」
「砂地です。表面から三メートルは砂。その下に粘土層があります。粘土層の下は岩盤です」
「岩盤まで何メートルだ」
「五メートルほどです」
「五メートル掘れば岩盤に届く。岩盤を掘り広げてシェルターの地下空間を作る。——天井はトラス構造で支える。ドワーフの地下都市でやったロックボルトも併用する」
ガルドが消波ブロックの量産を指揮してる間に、俺は地下の掘削を始めた。アルヴェインの職人三十人を地下チームに回した。
「掘り方はグルンダールと同じだ。掘って、塗って、打つ。三手セットで進める。——ただし砂の層はコンクリートで壁を固めながら掘る。砂をそのまま掘ったら崩れるからな」
五メートル掘って岩盤に当たった。ここから横に広げる。
「リル。ノームにこの岩盤の状態を見てもらえ」
「はい! ——ノームが言ってます。この岩盤、硬くて安定してるって。亀裂も少ないって。掘りやすいですって」
「よし。——掘るぞ」
岩盤を横に掘り広げた。幅三十メートル、奥行き五十メートル、高さ三メートル。三千人が座れる空間。立つには低いが、避難中にずっと立ってる必要はねえ。座って嵐が過ぎるのを待てばいい。
「天井にロックボルトを打つ。間隔は五十センチ。グルンダールより密に打つ。大陸竜の衝撃波は地震より強い。念には念を入れる」
「ロックボルトの鍛造、ルッカちゃんのチームに追加発注しますか?」
エルノが訊いた。
「頼む。トラス部材と並行になるが——ルッカ、いけるか」
「いけます! 鍛冶チーム、もう自分たちで回せるようになってますから! わたしはロックボルトに専念します!」
ルッカが鍛冶チームの「親方」として育ってる。こいつが打った手本の部材を基準にして、量産してる。
地下空間に換気シャフトを二本通した。グルンダールでやったのと同じ構造。地表まで五メートルだから、あっちの五十メートルに比べりゃ楽なもんだ。ガルドが半日で貫通させた。
光導管も一本入れた。ルッカが磨いた銅の鏡を三枚。地上の光を地下に届ける。
「グルンダールでは五十メートルに三枚の鏡で届けた。五メートルなら鏡一枚で直接落とせる——が、シャフトが曲がってるから三枚使う」
光が地下に届いた。避難空間に薄い光が差し込む。真昼の明るさにはならねえが、真っ暗よりずっとマシだ。
地下水道。港町の井戸から水を引いた。勾配で自然に地下に流れるようにパイプを通す。蛇口を二箇所。飲料水と生活用水。
「備蓄庫も掘る。食料と水を二週間分保管できる空間を隣に作れ」
「二週間分……。大陸竜が去るまでどのくらいかかるんだ?」
「ナディア、過去の記録では」
「三日から一週間です。通り過ぎるだけの時もあれば、近くの山に巣を作って数日居座ることもあります」
「一週間を見込んで、余裕を持って二週間分。——食料と水があれば、地下で二週間は耐えられる」
* * *
地下シェルターの完成が近づいてきた。
カーラが地下に降りてきた。見回してる。
「ねえ親方。ここに三千人が避難するのよね」
「ああ、そうだな」
「何日も地下にいるんでしょ」
「最長で二週間」
「風呂は」
「……」
「風呂はないの」
「……地下の避難空間に風呂を作る余裕があると思うか」
「余裕がなくても作りなさいよ」
「お前な——」
「何日も地下にいて、三千人が汗かいて、風呂もなかったら衛生状態が最悪になるわよ。体を洗えないって、精神的にもきついのよ。——これは贅沢じゃなくて必需品よ」
……一理ある。というか、完全に一理ある。三千人が密閉空間に何日もいたら、衛生面は深刻な問題になる。体を洗う場所は必要だ。
「……分かった。作る」
「でしょう」
地下シェルターの端に浴室を作った。小さいが、十人ずつ交代で体を洗えるサイズ。
水は海水を使う。砂と砂利と炭の三層フィルターで濾過して、塩分と不純物を除く。完全に真水にはならねえが、体を洗うには十分だ。湯はサラマンダーに沸かしてもらう。
「海の水で風呂か。——風呂の系譜、九番目だな」
「九番目? 何の話?」
「俺が作った風呂を数えてるんだ。五右衛門風呂から始まって、公衆浴場、温泉、帝国の大浴場、エルフの樹上の湯、ドワーフの溶岩風呂……で、九番目が海水風呂だ」
「ふうん。——帰ったら十番目も作るのよね」
「……考えとく」
地下シェルターが完成した。
三千人分の避難空間。換気シャフト。光導管。地下水道。備蓄庫。浴室。
地上のシェルターが壊れても、地下で生き延びられる。最後の砦。
ナディアが地下シェルターを見回してる。
「……これだけの設備を地下に。換気も水も光もある。風呂まである。——避難所というより、もう一つの街ですね」
「街ってほどじゃねえが、人が生き延びるのに必要なもんは全部入れた。——空気、水、光、食料、衛生。この五つがあれば、人間は何日でも耐えられる」
「五つ……。棟方さんは、いつもそうやって必要なものを数えて、一つずつ潰していくんですね」
「当たり前だ。建築ってのは、必要なもんの積み上げだ。足りないもんがあったら足す。余計なもんは削る。それだけだ」
地上に出た。
港の方を見た。砂浜に消波ブロックの型が並んでる。ガルドの班が量産を続けてる。海にはもう三列目の途中まで消波ブロックが沈んでる。
山の方を見た。シェルターの骨組みが立ち上がってる。ルッカの鍛冶チームが作ったトラス部材が屋根を形作り始めてる。ナディアのアーチ壁が両側から上がっていってる。
空を見た。北の空が赤い。夕焼けじゃねえ。山の向こうで何かが光ってる。
「棟方さん。あの光は——」
「ワイバーンだ。群れで飛んでる。前触れが増えてる」
あと二ヶ月。六十日。
空に影が増えてきてる。大陸竜が近づいてるってことだ。
間に合わせる。間に合わせなきゃ三千人が死ぬ。
さて——仕事だ。寝る暇も惜しい。




