↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/33

第32話 経費にならない修繕費


45日目


 試験の方は合格したので、めでたく学徒証は入手できた。これで暫く共和国とは縁が切れる。ただ、もうすぐいなくなる身なので入学は辞退した。


 あとは、デニオール教授が上手く執り成してくれたので、再出勤《リスポーン》後、1カ月以上かかったが、なんとか王国との国境に到着した。


「教授。荷物ってこのまま運ぶんですか?」


「そのまま台車ごとでいいわよミレル。デグレフで返すから」


「ご主人様、私が運びます!」


「イルソスは護衛なんだから、しっかり守りなさい」


「ぶー。わかりましたぁ」


 ここの暦では18月18日。年末と例の警戒規制もあって国境は大混雑。新年を家族や親しい人と祝うのはこの星でも同じようだ。というのにこの教授。ルッキ・デニオール女史はフィールドワークに向かっている。


 旧領アケルドの解放によって数百年ぶりに先史の首都領域の業地に入れるようになったので、すぐ現地調査を申請してつい先日通ったらしい。私はさらにそれに便乗してる感じになる。


 この首都領域とは、先史首都の発力塔の送力範囲で、通常の発力塔の3倍ある。つまり先史首都の業地は半径600キロ相当。もし、先史首都を攻略するとなると600キロの凱旋路がいる。途中に高い山もあるし普通に舗装するだけでも大変だ。しかも昼夜関係なく終日サバイバルモードだぞ。どうすんだよ、これ。


 混雑する一般ゲートを尻目に、台車を押しながら貴人用のゲートに向かう。異様に畏まる入国審査官。手続きは形式的なもので1分かからなかった。大博士国の教授は、王国だと伯爵扱いだと聞いたときは驚いた。


 教授が車を要求すると、すぐスタッフが案内してくれた。レンタルした車両は車幅2メートルちょっと、車長7メートルのトラック寄りのキャンピングカーみたいな車だ。


 ここ王国領オルドバス区は地図上ではコスコット区の左下の区、南西方向に位置する。西に業地エリーケ、北西に先日解放されたアケルド、それぞれに隣接している。


 今回のフィールドワークはオルドバス区から最短距離で先史の首都領域の業地へ向かう。アンリや師匠、心配してるみんなに無事を報告したいのは山々だけど、現状まだ無事じゃないし、安全でもない。


 たいした量じゃない荷物を積み込んでキャビンに向かう。車内の割と豪華なソファーで資料を読んでいた教授が無言で運転席を指差した。


「私が運転するんですか?」


「よろしくね。あの子に運転させると自分基準だから荒いのよ」


 おー教授、先に言って。心の準備とかあるから。まぁいいか(普免持ち)。


 キャビンから運転席に向かう。丸いハンドルではなくバイクのハンドルが運転席の中央に据え付けてあった。運転操作もバイクというか、スクーターそのものだった。オート3輪かな。そうそう、普通過ぎてうっかりしてた。ここ左側通行なんだよ。日本は宇宙標準だぞ。


 さっそく何某が運転方法をサポートしてくれる。この体の何某さん介護が手厚い。マップが視覚内に表示されルート設定も終わっている。いや、違うか、こういう表示機能があるからそう感じるんだ。それで高機能すぎるとろくな目に合わないからストラの時は削除《ナーフ》されて、なんかこう微妙に面倒なコミュニケーションになったのか。悲しいな。


 昼間だというのに予想通り道はガラガラだった。通行中の道は、こっちでいう高速道路。高速走行車両のみ通行可な道だ。そんな車両ほとんどないんだから一般開放すればいいのにと思わなくはない。ちなみに運転は自分自身でやってる。むしろ運転したかったのでとても楽しい。横でイルソスが一生喋ってて面白かった。


 道中は半分砂漠みたいな景色が延々と続いて、ほんとうにこれと言って見る場所がなかった。これでも、安全面はちゃんとしていてゲートやチェックポイントの通過はきちんと管理されている。どこかで故障してもちゃんとロードサービスが来るそうだ。


 途中、2度ほど休憩をはさんで、四時間後に業地境界の町デグレフに到着。車を返却して宿を取り、教授はデグレフ探題へ向かった。近々いなくなる予定の私は、他人との接触を控えてお留守番だ。




 翌日、ここで問題発生。解放されたばかりの旧領アケルドでは、走行可能な一般車両がまだ一台も割当されてない。そうなると、レンタカーみたいな車両は全く無い。驚くことに当面、帯域配分の予定がないという話だ。おまけに復興用の作業車すら配備されていないらしく、完全放置の模様。リソースは東方遠征に集中するのだろう。なお、こういう時は鎧馬の荷馬車を使うと聞いて、ものすごく納得した。


 で、朝から隣接した業地エリーケにいる。二キロほど入った猟兵用の待機場で荷物の積み替え作業中だ。運搬車で運ばれてくる昨日買い込んだ水や食料を、巨大な布製のカゴにせっせと詰め込んでいた。四畳半の部屋くらいあるのでバンバン入る。


「別に困らないわよ。想甲兵で業地を走っていくし」


「デニオール様はとても早いですよ」


「ひょっとして、このカゴって想甲兵用ですか?」


「そうよ」


「私はたまに潜り込んでます。楽チンです」


「いつもでしょう。たまには先行しなさい」


 今日の教授は、いつもの生足僧服だ。上着はケープ着用で割とがっちり目に着ている。鎧装はとんでもなくコンパクトなタイプで、手首、足首はブレスレットみたいな細さ、応兜などチョーカーだ。最初、鎧装だと気が付かなかったくらいだ。これもしや完全なオリジナルでは。教授って稼ぎがいいんだな……。


 教授が想甲兵を構成した。『剛鉄』と比べるとすこし大きめだ。一八級くらいある黒い艶消しの機体。特に何の意匠も模様もない。体の末端ほど細くなるデザインは少しリテム嬢の『辻風』に似てるけど、こちらは全体が角っぽい。想甲は独特で薄い板が幾重にも重ねられていた。見た感じ、軽量級なのでメイン機ではないかもしれない。ちなみに、この待機場にいるのは私たちだけだ。こんなド年末にクオンと戯れたい猟兵はいないと配送のオジサンが苦笑いしていた。


 あれ? 胸殻背面は想甲があるけど前部分が構成されてない。いうなれば、オープンカーみたいな状態だ。下から見ると操縦装置内の生あ……教授が良く見える。


 操縦部は格子状の何かで守られてるんで、たぶん大丈夫なんだろう。少なくとも『銀閃』より格子の網目が細い。そんなところまでカスタマイズできるのか。


 彼女の機体は手慣れた感じで大きなリュックを背負って、手を差し出した。とりあえず、私は手のひらに乗り込んだ。


「ほんとに、このまま連れて行っていいのね?」


「はい、彼の潜伏場所は候補があるだけで確定してません。教授の目的地付近にも候補があるので、そこから東へ捜してみます」


「来月中ごろまでいるから、何かあったら来ればいいわ」


「ありがとうございます。ところで、前ないんですけど大丈夫ですか?」


「気持ちいいから、いつもこうよ」


 教授の機体がぎゅんっと加速した。慌てて機体の指を掴む。イルソスはさっそく巨大なリュックの上に居座っていた。


 教授の機体は、オルドバス区に隣接する業地エリーケの内側5キロほどを移動する。速度は時速50~60キロぐらい。舗装道を走るなら大した事ない速さだけど、これがそこそこ鬱葱とした森だと話が変わってくる。凄い勢いで枝やら太い幹やらが迫ってくる。道も地元の猟兵がたまに踏み固めたような、あってないようなものだ。師匠はよくもこんな状況でのんびり座ってられたものだと感心した。



「ほんとに見ないわね。ひどいと1ケール(5.6キロ)ごとにクオンの相手してたわよ」


「それは良かったです」


「これなら、昼過ぎには隣接領域に付きそうね」


 現在休憩中。黒髪の美少女ロボ(イルソス)は、今日も元気にスキンシップに勤しんでいる。お相手の私は頭がフワフワするし、ちょっと膝に来ているのでなすがままだ。


 しかし、他人が動かす人型の乗り物は、独特の怖さがある事を初めて知った。師匠を細々と煩い人だな、とか思って心底申し訳ないと反省した。まだあと120キロぐらいある。心と体が壊れそう。


 数時間後、目的地まで11キロ地点で最初の観測を始めた。一応、教授の研究に便乗しているので、彼女のフィールドワークをお手伝いしている。


 教授の指示に従って、私とイルソスで観測機材を設置。送力値や力場干渉を記録していく。それを数百メートル毎に繰り返す。そして、あと数キロとなった所で奇妙な現象が観測された。


「……業地と業地の境目に干渉縞が出てます」


「予想はされてたけど、観測されたのは初めてね」


 通常、業地同士の送信動力は全く同じ性質なので干渉などしない。あと、妙に汽力域が狭い。観測の結果2キロもない事が判明した。住んでたサンザノあたりもそうだが、普通の汽力域は業地の内外5キロほどだ。


 そして目的地の汽力境界では最大減衰率は80%と、通常の50%から大きく低下していた。送信動力の実用的な運用はほぼ無理だろうと思われる弱さだった。干渉域も不安定で高さも低い。こんなにも違うものなのか。たった20%では、割当の多い五鐘のアンリでもフル構成は無理だ。


 ただ、そんな中でも教授の機体は想甲を欠けることなく構成していた。とんでもない割当量か、それとも少ない想甲でも強度を落とさない設計なのだろうか。


 とりあえず、教授は汽力域のど真ん中にベースキャンプを設営した。むしろ若干業地よりだ。あの想甲兵用の巨大リュックは、ほぼそのままテントになった。そういえば、イルソス発見前は一人で業地に出入りしてたと聞いた。いくら強くても業地に一人は精神的にもきつい。えらく豪胆な人だ。


「それでは、お世話になりました。デニオール教授。本当にありがとうございます」


「元気でねミレル……というのも変ね。まぁ、早く見つかるといいわね」


「イルソスは悲しいです。また野良に逆戻りです……」


「ごめんねイルソス。教授をよろしくね」


 夕焼けに陰る二人に大きく手を振って別れた。まさか本当の意味で自分探しする事になるとは、人生解らないものだ。


 さてと、最初の候補地は15キロほど東。裸眼に表示されたルート案内に沿って移動する。生身だというのにけっこうな速さだ。余裕で全速力の自転車くらい出てるんじゃないだろうか。しかもほとんど疲労してない。


「ここは違う……」


 元は中規模の街の……完全な残骸だ。ここも植物に埋没するような朽ち方ではないけど、破壊の限りが尽くされ機能しそうな施設など全く無かった。


 そこから数ヶ所候補地を巡るも手ごたえは無かった。以前この発力塔を目指した方向の向こう側に捜索範囲を広げる。時刻は深夜を回り辺りは真っ暗だが、要求すればすぐ暗視モードに入れた。人間やめてるけど鎧装無しでこれはすこぶる便利だ。


 空振りに終わった4番目の候補地だった小高い丘の上。そこから解放されたアケルドを眺めた。辺りはもちろん真っ暗だが、発力塔付近に明かりが見えた。さすがに反対側の凱旋路や駐屯地は見えない。


 ところで、そのどれでもない場所にも明かりがちらほら見えるのはなんだろう。漁り屋(サルベージャー)がいるとは聞いているがそれだろうか。ここでは落穂拾い(ホウブロ)と呼ばれている。やっぱ、こう、荒くれものだったりするのだろうか。


 翌日のお昼。夜通し移動したので、明るいうちに発力塔裏側(北側)の候補地に到着できた。塔が見慣れたサイズなので、概ね30キロくらい離れた場所だろう。さすが最有力だけあって、それなりの規模の都市がそのまま残っていた。荒れてはいるが、驚くほど状態は良い。幸い当時の高さ規制なのかそれほど高い建築物はない。捜索は楽そうだ。ただ、気になったのは辺りに散らばる見慣れた球体。


「道に制御核《モスト》が転がってる」


 こぶし大からメートルサイズまで、かなりの数の赤い球や青い球が路上、屋内問わずにばらまかれていた。というか、これみんなクオンだったのかと考えると寒気がした。ひょっとして、こんなのを拾ってるのか落穂拾いの人は。それとも建物の中の備品狙いだろうか。


 街の南側には、最近人が入った形跡が所々にあった。ここまでチェック済みみたいなロープが張ってある。私の目的地は北側の旧医療研究所だ。


「あー、こりゃだめかな」


 なぜピンポイントでここら付近だけ倒壊してるんだ。5階建程度の丈夫そうな建物群があちこちで破壊されていた。大穴が空いた建物に入ってみると、激戦の跡がそこかしこに残っていた。弾痕がけっこう残ってるので、人類がまだ銃でクオンと戦ってた当時の名残だ。


 申し訳ないけど、ご遺骨は勘弁してなどと祈りながら捜索を続けると、何某さんは建物を分析しながら可能性の高い区域へと案内する。


 たどり着いたのは、もとが何階なのかも不明なくらい完全に倒壊した建物だ。


「ここは……さすがにないんじゃない?」


 なぜか地下方向にも抉られてるので、相当にクオンがご執心だったようだ。続く案内に従って瓦礫を避けながら地下道に入った。ここは人間用というより物資用の道だ。ホコリが動いた形跡があると報告してくる何某。という事は。


「もしもーし! 誰かいますかー?」


 しばらく移動してみる。ついさっき空気が動いた形跡を表示する何某。


「ロイデさーん!。ひょっとして、いま……」


 ──……初めまして、新しい市民の方。なぜ私の名前を?


 多分に困惑の意味を含んだ聞き覚えのある声。姿はまだ見えない。


「ストラの修復を手伝いに来ました。案内してください」


 ──同系列の支援知性ですね。要請認証を確認。追加要請を受理しました。


 レールガンの彼は私の斜め後ろから現れた。小型ダンプサイズの4つ足のクモ。砲身が動いて狙いを外していた。たぶん私に向けられていたと思われる。そういえば、戦闘体だったなこの体。余計な警戒をさせてしまったようだ。


 ロイデ氏の案内で地下道を移動する。いつもの触手緊縛の座席がしばらく続いた。地下道は途中で閉鎖されていたので地表に上がると、到着した先はのっぺりとした、背の低い比較的綺麗な建物だった。外観からは何の建物かは解らない。


 入館は堂々と玄関から入った。というか、普通に客として入れてもらえた。何某さんが手続きを終えると、施設が処置室まで案内をしてくれた。


 処置室は比較的広いホールのような場所だ。部屋の一部に機材が密集して設置してあり、ケース状のベッドに収容された懐かしの我がボディを確認。印象としては特定の用途専用の部屋というより、状況に応じて必要な機材をセットして使うカスタムルームのように見える。


 ストラは収容されている装置の中で、目に見えない柔らかい何かに固定されていた。設備自体は完全に動作していると何某さんから教えてもらった。再生治療の機材が用意されていて、肉体の治療自体はちゃんと行われてる。


 現状、ストラが復帰しないのは重要な装置の損傷だ。こればかりは、交換しないとどうしようもないそうだ。


 その後、何某さんの指示で必要な装置を治療室に運び入れ、薬剤を準備。処置の手順を施術装置に入力。最後に自分を消毒してストラの治療装置の隣に置いた処置装置に入った。



◇



「……私の手だ」


 2日後、若干調整に手間取ったが、無事にストラとして復活《リスポーン》した。ミレルの非生体部品は重複部分を除き全てストラへと移植、破損したものは交換された。復活した体はちゃんとした肉付きで、やせ細った様な感じはない。


 心配させたくなかったので鏡で念入りにチェックした。見ると髪の毛はだいぶ伸びてた、そしてまた少し成長したようだ。


「……4ヶ月か」



 着替えを済ませて処置室に戻ると、まず遺体として安置されたミレルにお礼を言った。施設の方はきちんとストラの治療前の状態へ原状回復して閉鎖処理。旧市民でなくても利用できるよう施設規約を改定しておいた。


 ミレルの遺体はロイデ氏に手伝ってもらって、地上の景色の良い場所に埋葬した。彼の中にいた何某は、私の何某と統合されてるし、私はこちらの体に移動している。本当の意味で抜け殻なのだけど、施設での分解処理には納得がいかなかった。


 彼の出会った幾人かの記憶にある彼の魂は、ミレルの体に宿っていると思う。その人達にとって彼は死んでしまった知人だ。ぞんざいには扱えない。ただ、機密保持の処理に関しては受け入れるしかなかった。どの道2週間もかからず全て土に還る。単純に私のわがままだ。


 墓標のない墓に手を合わせた。ロイデ氏は不思議そうに見ている。


 さて、帰るか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。