第26話 決算 ②
──経過時間 28:16 目標 25.73キロ
『師匠。さっき狙いは勇者隊そのものっていってましたよね』
ほぼ全速力で走る三機の想甲兵。『剛鉄』向きではないので、若干控え目の速度だ。それでも時速だと100キロくらい。発力塔まで最短で22分。
『この通信、どこまで聞こえる?』
『今は部隊内通話です。外には聞こえません』
『この作戦は武局の発言力強化の一環で、示威的な意味合いが強い。勇者隊にはシュラーク公に協力的な諸侯の子弟が数名含まれる。これが成功すると困るヤツがいる』
『師匠。邪魔してる人って共和国の人だよね?』
『そうだ、アンリ。間違ってねぇ。どっかで思惑が合致したんだろうな。ただ、襲撃者の潜伏先は密告で見つかった。思ってたより遥かに共和国が本気だったんで、ビビっちまったってとこだな』
『師匠。共和国って知ってますよね。先の事』
『まぁ、今んとこ……七分三分だな』
現世代が氷漬けになろうかって時にのんきなものだ。『雷光』の部隊を横目に通過。砲撃が止まっている。
──経過時間 32:07 目標 18.44キロ
「発。レボンド通信隊。雷光の砲撃が止まっていますが、何かありましたか? 終」
『了。本部発。ガーリアです。先ほど射撃停止の信号弾が上がったそうです。終』
『卿か。レボンドだ。欺瞞の可能性がある。最低でも牽制の射撃は続けてくれ』
『了。本部発。牽制射撃を継続します。徘徊型ミグルボ・ストバルが接近中。塔西側に向かっていますけど注意してください。終』
師匠がなんだそりゃって言うから、説明しておいた。ミグルボ・ストバルは徘徊型だが、3000体以上の同型個体が合体した集合思考の群体型でもある。資料の挿絵だと、どう見ても10メートルサイズの六角形フナムシの集合体だ。脅威度を雑に数と大きさで表現したようなネームドだ。
『ストラ、あれ!』
というか、ここから見えるのか。測距だと発力塔至近、だいぶ右手にいる。なんというでかさ。ほんとに地面がウニョウニョ動いてるよ。
「発。レボンド通信隊。二番隊は大丈夫ですか? 終」
『本部発。現在、塔から1.8ケール地点を12で移動中。周囲に敵影無し、『雷光』が支援継続中につき支障なし。終』
「発。レボンド通信隊。経路の通信域確保より通信線の保護を優先します。えー、……2.4ケール地点から予備経路5の1へ変更。終」
『了。本部発。予備経路5の……1? 地下ですか? 了解しました。終』
「師匠、線が危ないので経路変更します」
『どの道やばいな。そうしてくれ』
何某さんから急に提案があった。そんなルート知らんぞ私。大丈夫かそんな狭いとこ入って。
──経過時間 34:03 目標 14.67キロ
「師匠、アンリ。正面の断層の穴から地下に入ります。速度は三割落とします。狭いですけどがんばって付いてきてください。敵はなるべく無視。通信は開放してありますから、何かあったら声を上げてください」
『アンリ。了解!』
『おぅ、わかった』
「発。レボンド通信隊。これより予備経路5の1に侵入します。終」
『了。本部発。目標周辺の状況に変化なし。ご武運を。終』
瓦礫の穴に入ると、暗視に切り替わり、即座に3Dナビゲーションマップが表示された。入口こそかなり狭かったものの、中は想甲兵が走れる程度には広い。ただし、暗視でも若干暗いし色情報が飛んでる。ほとんど光源のない真っ暗闇のようだ。
幸い思ったより壁の吸音性が高く反響しない。3機の想甲兵の足音が鈍い衝突音として周辺に吸われていく。構造や標識、放置された運転席のない車両を見るに物資の自動運搬車両向けの専用路のようだ。計測では車道幅は約20メートル。高さ12メートルのトンネル構造。想甲兵でこの速度だと天井が近くてかなり怖い。
──経過時間 37:07 目標 10.56キロ
暗くて狭い通路をひたすら高速で駆け抜ける。たまに何かをひっかけるが、崩れた柱を飛び越え、落ちた天井から上に駆け上がり、抜けた床を滑り降りる。シューティングだと有りがちな高速スクロールステージだけど、ロボットFPSで視界妨害アスレチックは、できれば遠慮したい。
今の所、探知したクオン15体。その内、処理したのは追いかけてきた寝坊助の休眠型1体だけだ。他は設置罠型の部品みたいなヤツで近づかなければ問題ない。途中、だだっ広い地下巨大空間に出てしまい、ボス部屋かと焦ったが特に何もなかった。これは僥倖とばかりにペースを上げて遅れを取り戻す。
──経過時間 45:26 目標 1.29キロ
何某が急に速度を落とした。え? 止まる? 40秒?
『どうしたストラ!』
「師匠すいません。1分ください」
『銀閃』が通路の壁の何かの装置に向かう。初見の設備だ。のっぺりした2メートル角の板の裏側には複雑な装置が見えた。配電盤……じゃなくて中継端末か? 何某が肯定のイメージを発すると同時に、表面の板がロゴマークを表示した。
と、その瞬間、私の視覚内の情報が爆発的に増えた。発力塔の全容と全区画が詳細に立体表示され、一番欲しかった情報が一気に一覧表示された。
「良かった……勇者部隊健在。師匠。パラテリア様も無事です」
『どういう……な、なんだこりゃ。目の前に』
『うわっ、なんか目がチカチカする』
「あ、ごめん。アンリの表示切るね。師匠、塔の機能に接続できました」
『できましたって、お前な……まぁいい。無事なんだな』
「はい。全員塔内14階の最外層にいます。無傷とは思えませんが、死亡者はいないようです。組織だった行動が見られますし、指揮系統も無事かと考えられます」
『わかった。とりあえず、本部にも伝えてくれ。あと、俺のヤツも消してくれ、さすがに邪魔だ』
えー、評判悪いな。確かに、近辺の想甲兵のライフロガーが全員分、視界の足元までびっしり表示されてるから、邪魔と言えば邪魔だ。個人的にこういうの好きなので苦にならない。むしろたくさん並べたい派だ。
移動を再開しながら、本部に報告するとガーリア氏が脱力して変な声が出ていた。よほど安心したと思われる。情報ソースに関しては特に突っ込みは受けなかった。
──経過時間 52:07 目標 ──キロ
発力塔の地下搬入口到着した。時間的にギリギリだ。そろそろ塔の外壁が持たない。そして、この隊も排除対象になったようだ。レーダーマップに表示されてる西側に張り付いていたクオンの一部が、一斉にこちらへ向かってくる。
「隊が排除対象になりました。上は危険なので、このまま地下から侵入します」
『わかった、入れそうか』
「たぶん……大丈夫です」
搬入口の解錠を何某にせかしていたら扉が分解した。この扉、想理でできてんのか!? ということは、誰が構成してるんだ? とりあえず、外殻一層目に無事進入できた。その後、扉というか壁は勝手に再構成。通信線が心配だったが、何某が細工したようで断線していない。
「発。レボンド通信隊。塔内に侵入しました。四分後に勇者隊と合流予定。終」
『了。本部発。どうかよろしくお願いします。終』
「師匠。この発力塔の責任者ってクオンですか?」
『そうだ、クオンだ。区内最強の個体の場合もあるし、人力で潰せるような個体の時もある。ここのは不明だ』
──経過時間 56:28 目標 ──キロ
『お嬢っ!』
『! ヒズヤ! どうして、というかどうやって? え? ストラくんとアンリちゃんも?』
パラテリア様を隊の通話グループに入れて……OK。師匠に合図。この通信隊の部隊内通話は私の機能なので、どこにも漏れない。通話範囲も5キロとかなり広い。出発前に何某さんが拡張機能として追加していた。
師匠がかいつまんで事情を説明する。私はその間、勇者隊内の不穏な動きをチェックしていた。生死を共にした仲間なら疑うのは忍びないが、外部の私には関係ない。適任だろう。
『ストラ! 大丈夫か、無茶しおる』
『ほんと大丈夫? ケガしてない?』
「クイセさん、リーエさん。ご無事でしたか。あ、同籍のアンリです」
『うちの、ストラが、お世話に、なってます』
『おお、剛鉄の。お噂はかねがね』
『お初にお目にかかります。リーエです。これ旦那のクイセ』
アンリ。微妙にコミュ障出てるな。クイセ氏に部隊の状況を聞くと奇妙なことが分かった。死亡者というか、行方不明が6名いるというのだ。私の表示では勇者隊28名全員分のタグが表示されている。施設マップに変更して、タグと位置を照合する。5階下の離れた位置に想甲を解除した状態で生存している。とりあえず保留。
「進入路がない? んですか。パラテリア様」
『どう説明したらいいのかしら。あるべき場所に通路がないの』
『私から説明させてくれ』
『ベラム卿、どうぞ』
『すまない男爵。発力塔の設計は全て同じなのだ。なので、再起動の経路も手順も全て同一。これまで違ったことなど一度もなかった』
こんな状況なので想甲兵のままで会議をしている。今は有線回線の会話だ。令嬢と、技術士官のベラム卿、そして師匠と私。
「想理の擬態の可能性はありませんか。ベラム様」
『この下の階まではそれだったのだ。物理扉が想理の擬態壁になっていた。下の階も確認したが最外層から内側に入る通路も完全に埋められている。目的は16階の制御室だというのに、手詰まりになっている』
『ベラム卿、『焦雷』で穴を空けるのは』
ベラム氏のライトグレーの想甲兵は師匠の機体に黙って首を振った。固いな先史の壁。入ってきた搬入路からと考えたが、何某が通路の上が埋められている画像を見せてくれた。
もう一回、塔のマップを出して確認する。発力塔は楕円形の建物で東西の長辺2200メートル、南北の短辺1500メートル、高さ1200メートルの大きな建物だ。施設中央の50%が吹き抜けの構造になっており、4基の発力炉が鎮座する。発力塔施設としては、三重の外層が東西南北四区画に分かれた構造を持つ。私たちの現在地は、施設的に表現すると「西区画・第一層・14階」となる。
構造図面を見る限り確かにこの辺りには通路が存在する。制御室のある西区は構造以外アクセスできない。1階、2階……環境センサー応答なし。3、4、5……いや、25階より上は反応がある。
区画を変更して……南区の環境センサーは正常に動いてる。空気の流れを見るに……下の階から南区に移動できそうだけど、どういうことだ? 横も上も開いてるぞ。制御室の隔離が目的じゃないのか? ストップストップ。私はそんなに賢くはないんだから相談しよう。相談。
──経過時間 61:52 目標 ──キロ
技術士官ベラム氏と戦術長オルソン氏に情報提供。本部のガーリア氏も加えて考えるが意図が不明すぎると、いったん棚上げすることになった。とにかく、外壁が限界なので、急ぎ1階下がって南区へ移動。同区画から16階を調査し、ダメなら25階から改めて突入する運びとなった。誰も私の情報ソースに突っ込まない。怖い。
移動途中にベラム卿が、愚痴のように教えてくれた事がある。ここの防衛最終区域が妙に狭い事。計算上、塔内にはかなりの数のクオンがいるはずだったが、突入したらほとんどいなかった。それを見越した4機の『焦雷』があぶれ気味だ。これなら外からの援護に回した方が遥かに有用だったと後悔していた。どの程度の予測だったのか尋ねたら、約4000万トン。ピンとこない。
南区の西端から、西区16階中央へ斥候隊が出発した。他は南区の昇降口で待機中だ。同じく待機中のご令嬢の『斬空』から個人通話要求がくる。
「どうされました?」
『下の方たちは?』
「三階下を移動しています」
『元気な死体ね。でも、一人は人質かしらね』
人質ではないかという彼は、公爵の信派で新興の子爵家。すごいお人好しで、こういった事態には全く無縁らしいので、巻き込まれたと令嬢は判断しているようだ。
襲撃者の話は勇者隊でも主要なメンバーには通達済みだ。潜入者には在籍の長い隊員もいた事もあり、衝撃を持って伝わっている。ただ、注意が必要なのは、中身が当人なのかかなり疑わしい部分もあるということだ。
想甲兵と個人は紐付いてるので普段中身が本人かどうかまで意識しない。専用機ならまだしも、量産機改造だと偽装は難しくない。特に今回は部隊丸ごと(他1名)なので気がつかなかったようだ。ご令嬢も「なんと迂闊な」としきりに反省しておられたが、相当な金と技術と人材と命がいるので、普通そこまでしないと思うんだ。
他にも注意点がある。階下の動きを見るに内通者がまだいる。それとなく行われた本人確認に異常はない。誰かは判らないけど、こっちは入れ替わったのではなく、完全な裏切り者という事になる。
斥候から「進入不可」と有線通信が入り、勇者隊は25階に向けて移動する。幾度かクオンに襲われるが、ご令嬢のレールガンで一蹴されていた。壁が壊れないので安心して撃てると喜んでいたが、若干声が怖かった。
──経過時間 76:48 目標 ──キロ
発力塔、西区25階。先行した斥候の安全確認に問題は無かったが、要領を得ないとして報告は何度も確認された。最終的に一部を残して突入。
『……なぜ、こんな場所に』
『まさか、この下なのか』
『ストラ……こんなとこに池がある』
「川も流れてるねぇ……」
とんでもない量の水溜まりだった。




