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第21話 見積もり


 現地歴二ヶ月後。落下して200日経過。時期的にはここの秋の中盤だ。


 といっても、この惑星の地軸の傾きは7度しかないし、ここは赤道付近だ。年中半袖らしいので季節感は無いだろう。厳密にいえば、1~4月の春という初夏、5~10月の乾季の夏、11~14月の秋という晩夏、15~18月の冬を装った雨期の夏と、こんな感じだそうだ。


 私の本体が寝たのは秋口だった。こことは時間の流れに相当な差があると予想はしてるけど、ベッドで干からびたりしてないよね。


 そんな感じで、季節の移ろいにセンチな気分になってる私をロックオンしてるクオンは、徘徊型(テレート)7713と呼ばれる、亀の甲羅に数千の棘が付いた大型バスサイズのクオン。ネームドではなく単なる識別名だ。『銀閃』からみて4人掛けの食卓サイズ(突起部除く)のこれを、個人的にウニガメと呼んでいる。


 先ほど、5人隊の三、四鐘混合チームが離脱したので、正式に引き継いだ。業地内57キロともなると、適正レベルの想甲兵二機を一瞬で行動不能にするような個体が、ネームドでなくモブ扱いだ。


 打ち合わせに従いクオンを誘導する。こいつの棘は無数の槍として使用される。上面数百の棘は、数十メートル延びて標的至近で分裂する貫通力優先の槍。下面数十の棘は太く、頑丈な槍衾のように使用する。表皮はとても固く、移動を下面の棘で行うので移動は遅い。


 ズダンッ!


「うひゃっ?!」


 訂正。下の棘の射出を利用した跳躍はかなりの速度だ。


 跳躍中のウニガメから放たれた棘を避け、避けた先に分裂する針が次々飛来する。地面に差し込んだ棍棒を素早く伸ばして、『銀閃』を横っ飛びさせる。行動を重力に任せると、一瞬で刈られるので慣れるのが大変だった。屈(・)み(・)ですら自由落下速度より早く動けないので非推奨だ。本気で空中固定板みたいなのが欲しいと思った。


『ストラ。手伝おうか?』


「制御核(モスト)が見えない。ちょっと待って」


 アンリにはもうちょっと待機してもらう。厳密にいうと弱点部位は見えてはいるが、4ヶ所ぐらいあるし、介護の何某は全て偽(ダミー)と判定している。こりゃ、しょうがないか。


「全通達! 偽装確認。削ってください!」


『アンリ、了解!』


『リテム、了解~』


『ティミュ、了解』


『ブクララ、了解っ!』


 簡易の塹壕から二機の想甲兵が飛び出す。アンリの『剛鉄』とサンドカラーの想甲兵はブクララ氏。タンクタイプの量産型重量一六級、機体シリーズ名『勇護』。


 ちょっとした高台に待機してたのは、リテムの『辻風』、小豆色のアタッカータイプの想甲兵はチームリーダーのティミュ。こちらも既製品。中量一六級で、人気機体の『流星』。区別の為にティミュの機体は両肩が暗いグレーに彩色されている。


 新たに出現した四機に躊躇なく棘を伸ばして攻撃するウニガメ。貫通槍は『剛鉄』、『勇護』の盾には全く通じず、遅い槍衾は簡単に避けられてしまう。『辻風』、『流星』は貫通槍を次々破壊して、想理質量の喪失を狙う。


「全通達! 棘、中程! 下面三行二列」


『なんとっ!? 棘の中か!?』


『確かに! 微妙に伸びが! 少ないわね!』


 驚くブクララ。貫通槍を捌きながら同意するティミュ。


 ウニガメは、すでに質量の三割を失って攻撃に積極性がない。この蓄積質量の少なさもモブ扱いの理由だ。リーダーは大ジャンプで逃げると予想し、作戦を皆に伝える。


『アンリ、ブクララ、跳ねに合わせて裏返して、予備動作は見たわね』


『了解!』『見てた。了解!』


『リテム、下の棘を捌くわよ。ストラは制御核(モスト)に集中』


『了解~』「了解! え? 私!?」


『跳ぶわよっ!』


 ウニガメが一瞬縮む。下面の棘は地面を掴んでいるので、非常識な速度で予備動作を終える。そこを見逃さない。


 アンリとブクララは、盾から持ち替えた大槌で、甲羅の手前側面を思いっきりぶん殴る。バランスを崩したウニガメは自らの跳躍力でひっくり返り、勢い余って一回転する。アンリ、ブクララは即座に離脱。


 続いてティミュとリテムが伸びきった本命周辺の棘をへし折る。本命を防御させないためだ。が、思ったより遥かに固かったようだ。狙った部位の周辺に数本残り、すべてが弱点を防御する。相手は回転中なのでタイミング的にやり直しは効かない。


「インパクトーっ!」


 やはり、必殺技は叫んでこそだ。恥ずかしいので音声は切ってある。


 私の横殴りのウォーハンマーが防御の棘を砕き、本命の棘には到達したが、予想通りこれを砕く運動エネルギーはすでに無い。ここで『銀閃』の腕に仕込まれた大質量が瞬時に追加の運動エネルギーを発生させる。そして、頭の中の何某のおかげで、最良のタイミングで無駄なく攻撃力となる。


 かくして、制御核を70メートルほど吹っ飛ばされたウニガメは、私と一緒に転がりながら分解していった。


 だから縦回転はやめてって。



◇



 業地内59キロ。最前線から一つ手前、3つの基地でできた列、その左、西側の基地ニール47。廃墟の再利用とはいえ、しっかり補修された建物、整備された警戒線、概ね揃った衣食住関連設備など、長く使用されていることもあって、ナルギルと比べるとだいぶちゃんとした前線基地と言える。


 ここに来て……というか、師匠に放り込まれてから約二ヶ月、家に帰ったのは三回だけだ。アンリ張り切りすぎだよ。とんでもないブラックだよ。


 最初の10日はアンリと二人、少数連携の流れと、役割と得手不得手の確認、猟兵の現地ルールなんかを教えてもらって、その後はティミュの隊に合流。多人数での連携と分担を学ぶ。私はもとより、中の何某のアップグレードがものすごくて、クオンの探知能力が劇的に上がった。電磁砲クオン案件辺りの多数の検知漏れがかなり悔しかったらしい。(個人の感想です)


 さらに、『倒したクオンの制御核(モスト)から能力をダウンロード』するスキルもゲットしていた。確率的に六割程度だが、機能や新構造なんかを取得。『銀閃』に勝手に適用してた。怖くて誰にも言えない。なんか変なのが他の想甲兵に感染したりしないよねと心配したら、憤慨された。(個人の感想です)


 さて、メンバー情報の更新だ。このチーム、敬称禁止なので敬称は省く。


 ティミュ。チームリーダー。四鐘猟兵、アタッカー、乗機は一六級量産機『流星』。猟兵歴22年のベテラン。赤髪ショーカット、ナイスバディの人妻。子供は4人。役人の旦那にはもう一人奥さんがいて家事育児担当。総勢9人家族。実は地球年齢だと40近い。お世辞抜きで、前半とは言わないが20代にしか見えない。


 彼女からは、ここの一般家庭の事情をよく聞かされた。王国は男性が少ないとか、異性同籍の15%くらいは多妻とか、未亡人同士の大所帯がけっこう多いとか。そういえば、仕事でお世話になった上役は女性が多い。


 ブクララ。サブリーダー。四鐘猟兵、タンク、乗機は一六級量産機『勇護』。猟兵歴8年の中堅。イカツイ見た目で良識派、知識人。体格的にはマッチョというよりレスラーだ。既婚。奥さんにはもう一人お嫁さん貰って欲しいとお願いされてる。子供は2人。地球年齢だと31歳。老け顔。身長は190ぐらいある。ティミュが少し小さいくらいなので、彼女もかなり背が高い方だ。


 彼は、ここでの先生を買って出てくれた。感謝しかない。教えるのがとても上手で、特に死(・)な(・)な(・)い(・)た(・)め(・)の堅実な考え方が印象的な人だ。


 リテム。四鐘猟兵、斥候兼アタッカー、乗機は一六級専用機『辻風』。猟兵歴5年の若手。見た目は黒髪混じり銀髪ロングのお嬢様系だが、運動神経は体操選手並み。他の2人と違って、自分のことを何も話さない謎の人。地球年齢20代前半なのは間違いない模様。


 恰好は毎度コスプレ気味だ。今日は強いて言えば和風ゴスロリ。歩くとスカートからわしゃわしゃ音がする。ここでは派手な格好はさほど奇異に見られない。体の部品しか見つからないなんて日常なので、むしろ推奨気味だ。腰だけ見つかってパンツ赤かったら私~、とか笑っていた。笑えない。


 そして、アンリ。五鐘猟兵、アタッカー兼タンク。乗機は一六級専用機『剛鉄』。五鐘になって、タンクが兼任できるようになった。猟兵歴4年の若手。銀髪ボブは少しだけ伸びた。背も少し伸びてまた差が広がった。ミニスカ、膝パッド付ロングブーツは相変わらずだ。最近は髪型に気を遣うようになり、上着はちゃんと着るようになった。この件に関してのコメントは控える。


 『剛鉄』の乗り手としては三代目となる。亡くなった母親のミーリャさんの師匠からの継承で、機齢は30年近い。5年前に改修済。


 最後に私ことストラ。正式名称ストラ・マトス・ガシーダン。四鐘猟兵、斥候兼アタッカー、乗機は一六級専用機『銀閃』。猟兵歴三ヶ月のド新人。美少女(♂)。見た目にはずいぶん助けられている。現在は構成質量全開放を目指して狩りに勤しむ。なお、私の中の何某の勝手なアップグレードで、鎧装さえしてればクオンと想甲兵の簡易的な検知が可能になった。得体の知れない体になりつつある。


 あと、大っぴらな秘匿兵器「大質量インパクトアタック」は、四鐘の構成質量増量と何某の良サポートもあって、現在は1構成で3回使用可能になった。以前は1構成で1回、1日2回程度しか使えなかったので、かなりの使い勝手が良くなった。


◇


「凱旋路の使用禁止? いつからなの?」


「明後日から四日間だ。軍の大部隊が移動してるらしい。アンリ、ストラ、帰宅するなら今日中にしとけ。下手すると途中で足止めくらいかねん」


 翌日、ブクララが朝の討伐区分会合から宿に戻るとすぐそんな話になった。凱旋路とは、業地内で人類が占拠している楔形の奪還地域の中央を走る補給路だ。謎の固い土で舗装されており道幅は40メートル以上ある。延伸工事は専門職が想甲兵でやるそうだけど、ぜひ見てみたい。


「どうするアンリ?」


「そろそろマツ引き取らないとだし、いったん帰ろうか」


「ティミュ、ブクララ、リテム。私たちいったん引き上げます」


「ちと予定より早いが……俺も引き上げるか」


「私も~。アンリとストラのお陰で充分稼げてるし~」


「それは同意するわ。今回の稼ぎも悪くないし、一緒に引き上げますか」


 結局、全員引き上げることになったので、一緒に撤収することになった。帰ると決まると早いもので、整備済みの道など60キロあっても、想甲兵なら1時間ちょいだ。まして、熟練の5人隊(1名除く)ともなると何があってもたいがい何とかなる。途中の検問がちょっと渋滞気味で大変だったくらいだ。


 サンザノに到着して、探題で帰投の手続きしてたらエボナー副教導官──今日は総務主任だった──から、呼び止められた。


「ああ、ちょうどよかった。これ、貴方たちに。今読みなさい。今よ」


「は、はい」


 すごい圧と一緒に渡されたのは、右側に貴族紋章が施された尋常でない封筒。意匠化された一本の枝に椿に似た花三輪。


「あれ、これパラテリア様の肩章と同じだ」


 アンリが覗き込む。


「あ、あのいい匂いの人?」


「そうそう、いい匂いの人」


「あの方の認識としてはどうかと思うけど、まぁ、すぐに読みなさい」


 今日も美人なショートボブのお姉さまの突っ込みと圧に急かされて封を切る。内容的には、大規模討伐の参加要請だ。招集は1ヶ月ほど後から。最長72日間。契約は週更新、休日もあるようだ。可能なら5人隊を組んで参加してほしい。そんな内容だった。


「おー、すごい条件良いよアンリ。ほぼ手ぶらで行けそう」


「ほんとだ。どうしよう、みんな誘ってみる? ストラはどう?」


「んじゃ、声かけてみようか。まだいるよね」


 見回すと、ティミュ、ブクララ、リテムはまだ帰投手続き中だ。書面を確認して、支障ない事だけ伝えて誘ってみた。


「「「行くっ!(~)」」」


 即答だった。そりゃそうだ。拘束時間は長いけど相場の3倍だもんね。



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