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第19話 この実習に労災無し ②


『ストラっ! 打印! 一番軽いやつ!』


『三時方向投げます!』


 『銀閃』の腰に下げた籠からバスケットボールほど、想甲兵から見れば500円玉サイズのボールを指弾の要領で打ち込む。


 この『打印』は、派手な色と臭いと想甲兵用の索敵マーカーを付ける。標的のクオンは避ける様子もなく命中。と、同時に全てのクオンが弾けるように突っ込んできた。初見の相手の攻撃は受けるなという鉄則に従い全員が躱す。


 体当たりし損ねた五個の球体が周辺の建物に派手に衝突するが、質量に見合った音も、破壊も起きなかった。衝突場所には巨大なミミズみたいな物体がニョロニョロと蠢いていた。そして、ものの数秒で元の球体に戻っていく。


『うげぇぇ……、分離個体に個別に反応。制御核(モスト)移動無し』


『これ、殴っても効かないよね』


 『銀閃』の分析では、あのニョロニョロ一つ一つに反応がある。こういう敵って、合体すると中心に弱点を集めがちだけど、そうではないらしい。となると、クオンの狙いは想理質量による打撃ではない。張り付いて何する気だ。嫌な予感しかしない。


『見た通りだ。体で攻撃は受けるなよ。ストラ、打印した個体は他と混じったか』


『……いいえ。集合体の中身はそれぞれ固定みたいです』


『協調群体ではないと判断する。残りに打印。俺が2、後はお前らだ』


『『はい!』』


 腰の籠から打印を取り出して渡す。ストックは8個。色も臭いも全部違う。体勢を整えるのに手間取るクオンに次々とマーキングする。


 協調群体ではないということは「全体を制御する親玉が隠れている可能性が無く、他の場所に集合体がいる可能性も無い。目の前のクオンが全てなので、遠慮なく駆除して問題ない」という事だ。


『打印に無警戒か。学習の浅い個体だと楽でいいが……』


『師匠。削る?』


『そうだな。当たりは集中する。最初の打印個体だ』


 アンリは大楯を、私と師匠は棍を構成する。ワンパターンに突っ込んできたクオン球体をアンリが大楯で受けたと同時に大楯ごと投げ捨てた。楯は分解するが、衝撃でクオン球体が個体に分裂。その瞬間に私と師匠がニョロニョロの核を吹き飛ばす。一瞬で20近い反応が消えた。


 同じことを再度繰り返すと、さすがにクオンが行動を変えた。そう、全力で逃走を始めた。いままで、私の中の何某の索敵すら潜り抜けるチートな隠密性でぬくぬくしてきたであろう彼らは、とても焦っているだろう。知らんけど。


 最終的に、最初に見かけた恐らく最小単位のネズミみたいな姿で駆け回り、隠れる。しかし、打印済なので全くの無駄な抵抗だ。ラスト27体になって自棄になったのか、歪な形に合体して突っ込んでくる。師匠も、アンリも、もちろん私も、誰も油断してなかった。


『避けろストラっ!』


 『銀閃』が、中の私が気絶しそうな勢いで横に飛んだ。続いて師匠の想甲兵が、恐らく何かの仕掛けを使って、消えるように横っ飛びした。


 え? そんな全力で避けるほど?


 アンリも瞬時に合わせ地面に伏せた。その直後、クオンの集合体が空中で爆散した。


 自爆ではない。私と師匠がさっきまでいた直上を高速で通過した何かが、クオンを爆散させ、衝撃波と共に着地点に大穴を開けた。灼熱した土煙が噴き上がる。凄まじい量の土砂が周囲に降り注ぐ。


『……無事か』


『いたたた……なんですかこれ』


『ストラっ! 師匠っ!』


 少し離れた場所に伏せてる『剛鉄』に手を上げて答える。三機ともほぼ土に埋まってるような状態だ。とにかく炸裂するような物体でなくてよかった。想甲兵は無事でも、周辺を更地にされると隠れる場所がなくなる。


 砲撃はT字路の縦の道からだ。私と師匠は一緒に通りを飛び越えた建物の影にいる。アンリは街路手前の建物の影だ。


『ストラ。解ってる事教えてくれ』


『想理構成弾体、形状は槍型、質量不明。弾速はおよそ20ルケル/秒(1200メートル/秒)!? 狙撃? クオンが?』


『全部か?』


『あ、えー……発射場所は17ルケル(1キロ)以内、発射数1』


『まいったな、移動するってのは聞いてねぇな』


 正式名称『メギアの矢』。縄張り型のネームドクオンとしては最も手前にいる。非常に珍しいスナイパー型で、半径10キロほどの広大な縄張りを持つ。侵入すればクオンだろうと猟兵だろうと構わず狙ってくる。対策してないと、ほぼ一撃必殺なのは見ての通りだ。


 現在地は駐屯地ナルギルから東に12キロ地点から北西方向へ5キロほど進んだ旧市街ベルベアの北端になる。北側とはいえ、ネームドの縄張りである北部の進入禁止区域からは10キロ以上離れている。


 そんな話を師匠から聞きながら、射線を避けつつ大回りでアンリと合流。撤収の算段をする。先に倒した共有種クオンの核は、回収しないと稀に面倒なことになるので極力回収しながら帰途についた。少なくとも7キロ程度は、この狙撃手から離れる必要がある。


『師匠。付いてくるよ』


『訳が分からん。どういうことだ?』


『ぴったり20ルケル(約1キロ)維持してます。着弾1秒範囲内ですかね、師匠』


『お前、肝が据わってるな』


 『メギアの矢』は七門の電磁加速砲で構成された幅、高さ、ともに30メートルを超える大型クオンだ。発見されてから27期(54年)来、固定砲台と見られていたのにはそれだけの理由がある。


 で、ここにいるストーカーは、想甲兵から見て中型犬サイズ。人から見たら、だいたい小型ダンプサイズ。四つ足のクモに砲塔つけたみたいな形状だ。砲身は一門だが、本体より長い。見た目はちょっと可愛いまである。


 ネームドとは別個体ではないかと疑い出したころ、ふぃっと姿を消した。師匠がちょいちょい誘ってたが、初撃以降一度も発砲することはなかった。


『北方向へ移動してます。引き上げてると言っていいんでしょうか』


『これ、お家に帰ってる?』


『家族かよ。ほんとに訳が分からん』


 最悪を想定し、駐屯地を悟らせないように移動していたルートをもとに戻す。帰り着いたのは日が暮れた後だった。


 指揮所に報告に行くとすぐに招集がかかって全体会議となった。到着時にお茶した中央テントに駐屯地の猟兵、総勢一七名が集まった。全員、お爺さんだった。


 会議では新種の討伐に安堵し、メギアの移動に紛糾した。


「今回のメギア子機は探査体じゃないのか?」


「砲を積んどるとなれば八門以上ある可能性が出てきたぞ」


「あのデカ物。囮かもしれんな」


「仮定に仮定を重ねるな。もはや妄言じゃぞ」


「妄言こそ人の証じゃ。あらぬことを恐れてこその人生ぞ。ひゃっ、ひゃっ」


「あー、悪いが爺さんたちは暫く休んでくれ」


「こういう時に使わんでどうするヒズヤ。惜しむようなもんでも無かろう」


「違う違う、指揮官殿の方針だ」


 腕を組んで成り行きを伺っていた女将さんが口を開く。


「相手がメギアってことだと、残念ながらここは手が出せない。そういう決まりだからね。どっちみち私たちの手に余る」


「どっちかちゅーと、邪魔じゃろ」


「「「ははははははっ!」」」「違いない」


 女将さんは、「はいはい」と言いながら手をひらひらさせて騒ぎを治める。


「さっき、ポウェンに中央に走ってもらった。で、間違いなく確認と監視になるから、レボンド男爵の隊に斥候をお願いしたわ。装備も鐘も申し分ないし、男爵はメギアを何度も見てるからね」


「大丈夫か男爵殿。新人研修と聞いたぞ」


「そっちは心配ない。索敵の腕は俺が保証する。想甲も俺の『雨月』以上だ。なにせあの『銀閃』だぞ。しかも王立技巧院の全面改修品だ。ほれ」


「す、ストラ・マトスです。縁あってガシーダン家の家名と『銀閃』を王家より賜りました。鐘は鳴れど若輩故、皆様のご指導ご鞭撻を切に願う次第です」


 急に振られて、噛みそうになりながら全力で虎の威を借る。アンリ、なんで君はドヤ顔なんだ。お爺さんたちが一斉に起立する。皆に促されナッチさんが代表で返答するようだ。


「おお、新しき鐘よ良き鐘よ。我ら先達っ! 恥をさらして生き永らえしは悪辣か」


「「「否! 否!」」」 ドンッ! ドンッ!


 老兵全員が腕を振り上げ足を鳴らす。


「我ら識る者っ! 結びし者っ! 我らを糧にっ!」


「「「我らを糧にっ!」」」


 ちょっとびっくりしたけど、とても古い、正式な「新人歓迎の儀」だそうだ。どうも、私がした挨拶が入植時代の古い言葉だったらしく、負けてられないという事になったらしい。入植時代って三〇〇〇年くらい前って聞いたけど、現役なのか。


「また孫が増えた」「お前、同籍おらんじゃろ」


「しかし銀閃とは、ガキの頃見た以来だぞ」「30期ぶりか」


「あのエリオラの二代目がおなごとは、時代かのぅ」


 あと、性別の訂正はあきらめた。ふわもこだった髪も落ち着いてきて、長さも肩甲骨を超えた。最近、少し幼さが抜けてきたように思うが、可愛いのは相変わらずだ。やはりサイドテールか、サイドテールがあかんかったんか。素材がいいから凝っちゃうんだ。しょうがないだろ。


「師匠。この後どうされます?」


「今のうちに休む。奥部中央は想甲兵の足だと30分もかからん。夜には暫定の指示が出るだろう。バシュにテントの場所聞いて寝てこい。アンリ、お前もだ」


「はい。ストラ行こ」



 夜半になって中央基地からの通達が来た。内容は、縄張りの外から確認、監視、そして手出し無用と女将さんの予想通りだった。


 ナッチさんの野戦隊が最初の遭遇地点から北上しながらメギアの縄張り南端へ。ついでに取りこぼした球体クオンの核を回収してくれるそうだ。私たち3人は先発直行して縄張り南西側の高台から、まず本体を確認する。


 非常事態の為、ほぼ深夜帯にも拘らず昼間より賑やかになった。ここには猟兵以外にも世話人や事務職員なんかも数名いる。そんな非戦闘員は一時避難を開始した。ただ、そちらも高齢者なので全般的に緊迫感がなく、のんびりムードだ。


 私たちも、ほどなくして出発する。距離は7キロ程だが、目的地の高台というのが獣道しかないような岩山で、途中から人力だった。


 想甲纏装時なら夜でも問題ない。この世界の暗視機構は非常に優秀だ。大変だったのは、標高170メートルの岩山の途中から人力登山だった事だ。この惑星に月はないけど、星明かりがとても明るい。とはいっても、道が狭いうえに電灯も使用禁止なのでクオンより滑落が怖かった。


 結局、2時間と少しかかって、地平線が白み始めたころ監視地点に到着。付近には小屋もあり、所謂、定点観測所のようだ。


「いいか、よく聞け。ここは射程外だが、それは昨日までの話だ。子機が見つかった以上、安全な場所は無くなった。そして、ここはメギアに割れてる」


「師匠。場所変えないのはなぜでしょうか?」


「アンリ、説明してやれ」


「確認が仕事だから。子機の役目も」


「既知の場所に対する反応の違いから、子機の役割を推定するのか。アンリすごい」


「そう、きちのなんとか」


「まぁ、無視されたんなら、それも反応だ」


 小屋のある場所から緩やかに上っているので、ここからメギアを見ることはできない。師匠が双眼鏡をもって岩棚の淵へと向かう。流石の想甲兵も、10キロ以上先が観測可能な高倍率のズーム機能は無い。ここから生身での観測となる。


 ちなみに、師匠が言っていたメギア対策ってのは磁気センサーのようだ。電磁加速器の磁気を感知する現物の機械装置なので、鎧装した段階で使用可能だ。


 師匠が1人来いとハンドサイン。アンリに促されて向かう。双眼鏡を渡されて、覗いた先には、薄く白ばむ地平線に唯一そびえる細身の高層建造物。その最上階にそれは寄生していた。


 焼けて溶けた金属みたいな歪な塊から、上に向かって延びる七本の角。恐らくあれがレールガン。暗いのもあってほぼシルエットしか見えないのが、恐ろしくもあり、幻想的でもある。


「大きいですね。とても分離するようには見えないんですけど……」


「八門以上は確定か。面倒だな」


「ところで師匠。なぜ手出し無用なんですか? 私は出しませんけど」


「あれの弾。憶えてるか?」


「ええ、途方もなく長い槍と理解してます。でないと想理として存在できません」


「弾は普通に砲弾形状だ。それが髪の毛より細い糸で繋がってる」


「……すごいですね。あの速度で切れないんですか」


「軍はそれの想理構造が欲しくて欲しくてしょうがない」


「たしか、普通に倒してしまうと想理の構造解析はできないんでしたっけ」


「よく勉強してるな。そういうこった」


 アンリと交代して小屋の前で待機する。今でも生身なのはメギアに余計な警戒をさせない為らしい。一応、不用意に近付かなければ、想甲兵ではない生身の人間には反応しない事が分かっている。ただし、そんな状態だと他のクオンに襲われる。要するに、メギアが見逃す程度の小型クオンでも、生身の人間には十分危険という事だ。


「警戒っ! 50ルケル(約3キロ)っ! 近いぞっ!」


 え!? 近っ!!


 3回の鈍い地響きと、数秒後には破裂音。三人とも想甲を構成して待機。間違いなくメギア子機による攻撃だ。直下の斜面に着弾したようだが、ここは岩棚と言っても迫り出してるわけではない。今のところ地盤は安定している。


 しかし、小屋のあった場所。つまり私がいた場所はそうではなかったようだ。小屋ごとすとんっと地滑りした。



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