↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/33

第15話 資格取得費用は経費


 現地歴10月24日。ここに来て約100日。常識と歴史と体育が基本だった兵役は先週終わった。非常に有益だった。そして、今はたぶん夏だ。暑い。とはいえ湿気は少なく過ごしやすい。だいぶ馴染んだけど、当面帰れないと解ってしまうと、今はお寿司食べたくてしょうがない。


 まぁ、それはいい。初陣、兵役、戦闘、全滅告知に王都出張と様々なイベントを完遂し、ついに自家用ロボに王手がかかった。


 まずは、昇鐘試験の突破だ。でないと想甲兵に乗れない。すでに十六級を構成できる送信動力の帯域は取得済だ。なんせ初日のネームド討伐の一部と訓練時のクオン討伐分がある。あとは二鐘(ふたつかね)の証書だけだ。まだ王都でもらった鎧装は届いてないけど。届いてないけど。


 今回の昇鐘試験はコスコットの中央区の会場で行われる。かなり遠いので、乗合バスにて前日乗り込み、宿で一泊した。


 師匠に送るぞと言われたが、ヨース、ラキ、エレーメ、兵役同期達と同伴することにした。もう完全に卒業旅行気分だ。宿は師匠のコネで会場近くで大部屋を取ってもらった。持つべきはお金持ちの師匠である。


 こちらの交通手段については、いわゆるバスだ。そしてバスというよりはトレーラー。トラックが客車を引いてるといった車両だ。運行的に特急扱いなのか停車場所は極端に少ない。そして普通に鎧馬2~4頭立ての馬車もある。こちらは各駅停車扱い。値段は安いが時間がかかる。


 そんなバス乗り場は、平日早朝から大混雑。土煙が惨い。3区の街中がえらく静かだったので、違いに驚いた。ただ民度は高い。割り込みしないし、子供には皆優しい。並んでたら後ろのおばちゃんからお菓子貰った。


 さて、今回の昇鐘試験。私とヨースは猟兵二鐘。ラキは猟兵一鐘(ひとつかね)、エレーメは近衛の一鐘狙い。同期七九名中で昇鐘受験資格証を貰えたのはこの4人だけだったが、これでも普段の倍だそうだ。そもそも、『鐘』の評価自体が、20名ほどいた適正者の内の戦(・)闘(・)に(・)向(・)い(・)た(・)者(・)の括りだ。他の者もそれなりに需要はあるので食いっぱぐれはない。


 とはいえ、想甲兵は花形だ。みんな気合が入ってる。そして、アンリも相当に気合入ってる。彼女、なんと五鐘(いつつかね)に挑戦するのだ。昇鐘試験の最高峰。超ベテランのさらに上を目指す。一般的に適性の一鐘、習熟の二鐘、努力の三鐘(みつかね)、経験の四鐘(よつかね)、才能の五鐘といわれている。五鐘は王国に100人程しかいないのでスーパーエリートだ。がんばれアンリ。給料増えるぞ! 


 ちなみに、さらに上は六鐘。別名『王鈴(おうりん)』が存在する。王が鈴をつけて管理するといわれる超戦力だ。才能とスーパー想甲兵が必要なのでコネとお金もいる。王国には5人しかいない。なお『鐘』のランクを採用してるのは王国だけだ。他の二国も含めた共通評価で認定されているのは『三国六将』という各国最上位の二名ずつの計六名。こっちは政治が絡むので、必ずしも最強というわけではないのがミソだ。



 翌日。参加受付の為、早朝から試験会場に向かう。ラキは短髪をワックスっぽい何かで中央分けにして、格好も少しフォーマルな感じだ。ヨースは黒髪をポニテに、運動着とまでは行かない動きやすい装い。エレーメも亜麻色の髪を短いポニテに、緩めの上着とデニムっぽい厚手のパンツ&ショートブーツ。


 アンリはいつもの仕事着だ。短いジャケットにシャツ、ミニスカにプロテクター付きのロングブーツ。ゲン担ぎかな。私はというと、これまた基本的にアンリのおさがりを着てるので、普段と変わり映えしない。女装と言えば女装だが、似合ってるならいいかと開き直ることにした。さすがにミニスカは履かないけど。暑いので髪をお下げにしたぐらい。


「なんだ、あの人だかりは?」


「なんだろうね?」


 目的地付近には、雑多な人たちの集まりがあった。ラキと私は何事かと訝しむ。というか、どう見ても試験会場だ。え? この人たち試験受けるの? 子供とか、かなり年配な方もいるけど。


「見物の人だよ」


「昇鐘試験は一般見学できるのよ」


「1回だけ来たことあるけど、そうだね。あれ見に来た人だね。待ち合わせかな?」


 まるでお祭りみたいな賑やかさだった。割と大々的に開催されると聞いていたのでサーカスのキャラバン隊みたいな感じかなと冗談めかして考えてたけど、ほんとにお祭りだった。というか、中央のステージを囲うようなU字型の青空天井の観覧席にはすでに数百人ほどの観客がいる。これ完全に中規模のライブ会場だ。2000人くらい入りそう。


 ラキが物珍し気に辺りを見渡している。サンザノの街だと、この規模のイベントは皆無だと思う。アンリは何度か試験は受けてるし、ヨースは良いとこの子で、エレーメは町の子だ。特にテンションが上がった様子は無い。


「ストラ、朝っぱらからすごいぞ。人だらけだ」


「落ち着いてラキ。田舎者丸出しだぞ」


「ちょ、ボケたんだよ、突っ込めよ」


 余りに雑なごまかしに、ちょっとウケてたヨースが何かを思い出した。


「そういえば、午後から区長がいらっしゃるそうよ」


「区長さんって……あ、こじんまりしたおじさん」


「アンリ。それ絶対ヨソで言わないでよ」


「ひやっ! ストラが怖い」


 なぜか自分より小さいエレーメの後ろに隠れる現役四鐘探題猟兵。


「アンリさんって区長さんに会ったことあるの?」


「うん。小さいおじさんだけどなんかこう……迫力あった」


「おおっ」「さすがだわ。アンリさん」「へぇー」


 感心するエレーメとヨース。関心のないラキ。この子たちと何回か飯も食ったし、遊びにも行ったけど、未だに敬称(さん)が抜けない。この歳にしては実績すごいもんなアンリ。私もアンリさんって呼ぼうかしら。


 さて、近衛の昇鐘試験は午前中だ。エレーメは会場入りで、私達は会場の待ち合わせ場所で待機だ。午前は二部に分かれている。受験予選と近衛の本選だ。


 実は当日受験がかなりいる。いわゆる、飛び込み受験だ。当日受付にはどう見ても200人くらいいる。こっちも兄ちゃん、姉ちゃん、おっちゃん、おばちゃん、太いの、細いの、イカツイの、体格も年齢もバラバラで何の集まりかぱっと見だと不明だ。一応、年齢の下限はあるらしく、六期(12歳)以上のようだ。


 会場では歓声が上がっている。朝っぱらから出来上がってる集団から、ヤジだの応援だのちょっとした騒ぎだ。アンリの案内で観客席に移動すると、すでに予選から公開が始まっていた。メインステージの周辺に、兵役初日でやらされた適性検査機がざっと六台。制限時間は三分ほどらしく、どんどん進む。二時間ぐらいで終わりそうな塩梅だ。


 普通、予選が面倒なので最寄りの探題や町の警備所で資格証を貰ってくる。アンリなんかはそうしている。要するに、何らかの事情で資格証を発行してもらえなかった人という事になる。事前手続きの時間がなくて直接来たか、地元の検定に納得できなかった人の再挑戦か、手続きを面倒臭がった人か。


 検査機は、思考を操作系に反映させる仕組みに対する適正を測定する。もちろん、動きだけではない。想理の制御にもやはりイメージの正確性や速さ、発想の柔軟さ等が必要で、そのまま操縦者の生存性に大きく影響する。ある種の感というか、コツというか、精神的な突破口が必要だと考えられる。適正に絞るなら、コツさえ掴めば体格も年齢も性別も関係ない。


 顔を真っ赤にしながら引っ張るも、ビクともしない事に悪態をつく人がいる一方で、一割程度の人は難なく通過して喝采を受ける。そんな悲喜交々を眺めていたら、観客から無音の何かがさざ波ように伝わってきた。


「すごい。なんか……色々すごい」


「かなり高位の方に見えるのだけど、なぜ予選から……」


「ストラすごいよ。おっぱいボーンだよ」


「アンリ。やめて差し上げなさい」


 ここの女性の服装では初めて見る胸の谷間丸出しの白い上着。下は普通に黒のパンツとブーツだ。下半身がスリムな分余計に胸が目立つ。金髪を結い上げた涼しげな首元が非常にセクシーだ。編み込みかと思ったら、よく見るとお団子タイプのポニテだ。三つ編みをまとめたヤツ。女性は軽く手を振って歓声に答えると、検査機に乗るや否や、2秒ほどで台を1メートルと最大まで持ち上げて、さっさと退場した。


 会場には大きなどよめきが起こった。なお、測定器を掴む時は屈むので、それはもうすごかった。主に女性陣の反応が。まぁ、見てる場所が違うけど。


「なぜ予選から……」


「あの速度で、あの制御はすごい!」


 なお、ラキの反応は「……ぶるんぶるん」だ。ここの人って性的な部位への関心低いのにこれだ。エレーメいたら喜んだろうな。目指したものがそこにあるし。



 そんなこんなで、午前の部は終了。


「ぶえー、緊張した」


「「おめでとう。エレーメ」」


 エレーメは合格。余裕というか、鐘1.7くらいあったように見えた。


 本選も予選と同じ、背筋測定っぽい機械を持ち上げる。基本的には同じだ。ただし、成績に応じた鐘が鳴る。こう、カラーンカラーンと鳴る(アンリ談)というのとちょっと違った。鐘のランクで鳴る鐘の種類が違う。一鐘が「カランカランカランカラン」、二鐘が「ゴゴン、ゴゴン」、三鐘が「カーン、カーン」。近衛の本選では四鐘以降は合格者がいなかったので不明だけど、四鐘が「カラーン、カラーン」なのだろう。


 あと台。乗ってる台の上がり方が違う。最初に中央部分、次にその外周、さらにその外周。それぞれが50センチくらいずつせり上がる。恐らく最大五段まで上がると思われるので、2メートル以上伸びるのか。


 午後の試験はまず予選突破組から始められる。ついでラキ、ヨースと私、アンリは最後あたりだ。本来なら、試験が進めば盛り上がる流れだろうけど、今回は違った。


 ゴーン、カラーン、ゴーン、カラーン


 荘厳で、派手な鐘の音。湧き上がる歓声。予選組二人目で五鐘が鳴った。二メートル以上に伸びた試験台から手を振る女性は先ほどの金髪さんだ。ステージの袖にいたので結構近いというのに、油断してたので見逃してしまった。まさか、高ランクでも数分かかる昇降を数十秒ほどで終わらせたのか? 


 改めて見てみると、すごい美人だった。なんか、どっかで見たことあるような。あれ? どこで見たんだっけ。


 その後は、若干ピークを過ぎた感じで試験は続いた。ラキも見事合格。時間はかかったが、鐘1.4ぐらい行ったような気がする。普段なら大騒ぎしそうな感じのラキが大人しい。エレーメや私の方が騒がしいくらいだ。


「え? あー……なんというか。先は長いなって」


 と、しみじみと呟いた。大人になったんだねラキと親目線になった。逆に心配してなかったヨースが危なかった。五分の制限時間いっぱいギリギリで二鐘を鳴らした。みんな喜びより安堵が強かった。


 会場の歓声がまた大きくなった。今大会で最もちんまい美少女(♂)が試験台に乗ったのだ。遊びに来たのかとヤジが飛ぶ。もちろんそっちに向かってにっこり手を振る。個人事業主をなめてはいけない。煽り耐性は高いのだ。


 私は知ってるぞ。この試験台が想(・)甲(・)兵(・)だという事を。想甲兵の基礎動作をスムーズに熟すみたいな感覚が二鐘、それを素早く確実にした感じが三鐘、四鐘以降は応用と実戦的な運用ではないかと予想している。今までの受験者を見た限り、恐らく三鐘までは数十秒で終わらせるつもりでないと二鐘も危うい。ましてや以降の目が消える。


 試験機の取っ手を掴むと、想甲を呼び出すあの独特の感覚。素早く起動、構成して、自分の乗った台を構築していく。頭の中の何某のサポートもあって、あっという間に二段まで上がり、三段目も上がり始める。たぶん五秒もかかってない。


 急に想理構成の入力が低下したので、構造を変えて対応する。次いで、円筒構造なら外周だけあれば持つので、中央部の構成を回して質量を補填する。


 壊れたり、固まって動かなくなったりと様々な問題が起こる。まるで複数のクオン相手に戦っているみたいだ。このトラブルたぶんランダムだ。きついぞこれ。


 意地の悪い方向から襲い来る荷重に対し、想甲は多層で、かつ最小のリソースで凌ぐ。私の中の何某は強力だが、平常時は指示しないと動かない。問題の把握は私自身が行う必要がある。都度、なるべく素早く対応するが、とうとう対処できなくなり、やけくそで三段目の質量を抜(・)い(・)て(・)補填したところで、時間切れとなった。


 静まり返った会場からどよめきが起こる。


 鐘が鳴らない。


 試験監督官が慌てて舞台袖へ引っ込む。ここで落ち着いて試験台を見た。たぶん三段まではきちんと上がっている。さらに四段目が八割ほど上がっていて、驚いたことに五段目が二割ほど上がっていた。これは何というか。脆弱性を突いてしまったようだ。監督官の人、ごめんなさい。


 舞台袖のみんながハラハラしながら見てる。観客から「がんばったな」って声がかかって、みんなからパラパラと拍手が湧き始めたころ。


 カーン、カーン、カーン、……


 三鐘の鐘が鳴った。しかし観客からは大ブーイング。でも私的には大成功なので目いっぱい観客に手を振って、文句ないですアピール。大歓声を頂きながら袖に引っ込んだ。


「すごいすごいすごいすごいっ!」


「あ、ありがとう」


 アンリがすごいしか言わない。チートなのでとても申し訳なく思う。でも言わなくてはいけない。


「アンリ。がんばれ」


「うん! 負けてられないっ!」


 結果から言うと、アンリは合格した。私の番から二時間くらいあったのに、モチベーションが下がらなかった。まだ試験が続いていた事もあって、みんな無言で大はしゃぎだった。ヨースなんか涙ぐんでて、自分の時より喜んでた。


 彼女は「やっと追いついたから、次はストラに追いつかなくちゃ」と言った。どの辺りで私の株が爆上がりしたのかと困惑した。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。