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第11話 王国のCOO


「女子なら引く手数多であったろうに」


 そうでございますか。女子じゃなくて良かったです。何が嬉しいのか金髪のイケメン皇太子ジキレクス殿下は大層ご機嫌である。


 その辺の二十歳半ばくらいの好青年がランニング途中で寄りましたみたいな恰好で来たのも混乱ポイントが高い。お付きの近衛らしき人は何事もない感じだけど、側仕えと思しき大きな鞄持った人、息も絶え絶えでHP1だよ。そよ風で死にそうだよ。


 師匠(レボンド男爵家)の事はよくご存じらしく、衣類の着心地を絶賛しておられた。さすがの師匠も皇太子相手では恐悦至極だ。聞いた感じ、他にも同じ系列の家があって、互いに切磋琢磨(なぐりあい)していると思われる。


 そんな小粋なアクシデントの後、殿下と私と師匠が案内されたのは計測室のような10メートル四方の使い込まれた殺風景な部屋。そこには急遽運び込まれたであろう雑多で様々な機材が設置されていて、それを青年が一人で調整していた。なお、アンリは別室でお茶してもらっている。


「あれ、殿下。御出でになるんでしたら、もっと奇麗な場所を用意しましたのに」


「気にするなコスナー。私のわがままだ。情報は鮮度と解像度なのでな」


 ちょっとお疲れ気味なお兄さんはコスナー・レバーク特技官。ここ王立技巧院で、主に先史技術の研究、復元を担当しているそうだ。ふんわり黒髪の天パで中々のイケメンだ。この部屋イケメン濃度が高い。師匠見て落ち着こう。


「痛っ、何するんですか師匠」


「なんかちょうどいい場所に頭が」


 こんな美少女(♂)にゲンコツとか後で罰が当たりますように。


 その後、師匠の勧めで椅子が運び込まれ、皇太子殿下のお付きはすべて追い出された。なにが驚いたって殿下の来訪に慌てて駆け込んで来た、たぶんここの偉い人も一緒に追い出されたことだ。物凄い恨めし気な顔してた、ああいうの根に持つぞ殿下。というかたぶん被害にあうのはこの特技官さんのような気がするけど。


 そして、第3回目の上映会が始まる。……始まるのだが。モニターは?


「あの、コスナーさん。受像機はどちらに?」


「あ、これだよ。知らない?」


 指差されたのは鏡餅みたいな白い樹脂製の台座に短いアンテナが二本の物体。実物は見たことないというかSFの世界だけど、たぶん立体表示器《ホログラフ・ディスプレイ》ではなかろうか。


「立体表示に対応してるかは不明ですが、よろしいですか?」


「うん、やっぱり知ってるんだね。とりあえず始めてみてストラ君」


 皆から、短い感嘆の声が上がった。空間にこの星が立体投影されたのだ。初回はTVサイズ、2回目はインタラクティブな大画面劇場版、3回目は3D上映か、次は椅子が動くかな。


 再生を開始する。360度どこからでも見れる以外は内容自体に変化はないようだ。取説が頭に浮かぶ。座標で指示すればピンポイントで情報が表示される点も同じだ。ただ、やっぱ手が届かないので手元にスイカぐらいの大きさに縮小した操作用の立体表示を作った。ふふ、便利だこれ。


「そそそっそそそそれ、ぼぼぼぼおぼくにも、ッそい、操作でできるのかいっ!!」


「うひゅぇ、だ、大丈夫だと思います」


 び、びっくりした。イケメンでもその勢いは怖い。というかオタクか? オタクだな貴様。さては、こういうの大好きオタクだな。


 操作方法を教えるとすぐに馴染んだ。若いっていいな。ただ、彼には場所が低いし、ボタンのUIが小さいので調整できるよう追加改造した。複合現実(MR)の仕事受けといてよかったよ。その改造中、特技官からは解剖されそうな勢いで凝視された。


 結局、2周ほど再生して早くもシンキングタイムに突入した。


 殿下は椅子で項垂れたまま眉間を揉み解す。でもさすがというか、恰好がジョギングウェアでも王族のオーラのようなものが感じられる。ふんわり天パ氏はというと、主にこれから先の予測に関して特殊再生と詳細表示を駆使して丹念にデータを検証していた。よく見ると襟足の毛が長い。伸ばしてるのかな。


「私の記憶違いかレボンド男爵。あと40期は問題ないと聞いたぞ」


「恐らく大博士国の予測は機器寿命以外を考慮しておりません皇太子殿下」


「男爵の見解で問題ないかと」


 作業中だったコスナー特技官が追認する。


「確かに先史の文明遺産は故障せんが200期(400年)だぞ。考慮するだろう普通」


 なんか私の中の大博士国の株が大暴落してるんだが。


「そちらは……どうだ、疑念はないのか」


 皇太子殿下の問いかけに大好きなおもちゃを貰った三歳児みたいになってたコスナー氏はさっと表情をイケメンに戻す。


「非常に正確に再現されております。喪失した衛星の落下軌道もこちらで観測したものと相違はなく、異常な気象変動の傾向も一致いたします。つまり……」


「つまり?」


「何もしなければ、確実にこの仮想予測通りの結果になるかと」


「しかし、……六期。六期は余りに短い」


「殿下。時期に関しては行き違いがあるのかと考えます」


 金髪イケメンは訝しげな表情でコスナーを見た。そして顎で先を促す。


「少なくとも7期前から今回も含めて三度、定期的な落子として使者は送られています。最初と今回は我が王国トロラへ。4期前2回目はタナメース共和国へ」


 特技官は慣れた手つきで該当する地表投入データを表示した。すでに使いこなしておられる。データは気象制御衛星だけだと思ってたので、これは盲点だった。自分の初出勤も表示されてるよ。すごい変な軌道だけど。


 ジキレクス殿下は意を決したように立ち上がると、こちらへ向き直った。私と特技官が膝をつく。なぜだろう、殿下の足さばきに若干の威圧を感じる。


「コスナー。こやつが何者か説明してくれ」


 お、そうきたか。流れ的に疑われてないと思い込んでた。そりゃそうだ。でも急な圧迫面接はやめてほしい。コスナー特技官が伏せたまま私を見てにっこり笑う。


「はい殿下。技術技量から見て思考核(ミルディオン)から特別な権限を付与された士官級と考えます。ストラ君の姿は、我々にそれを分かりやすく伝えるため、禁忌を犯してでもアブレニ種を復元する必要があったのではないでしょうか」


「では、紛い物の類ではないのだな」


「はい。我々の原初『勇ましき探検家』の復元体です殿下。『人』であります」


 いきなり査定が始まって自分に心臓があることを思い出したよ。そうか、この体とても大切なご先祖さまなんだな。今まで以上に失礼のないように扱おう。ゲンコツした師匠に災いあれ。


「ストラ。お前を正式にラーラの名代と認めよう。動きやすいよう爵位をくれてやる。特技官と協力して先の映像をこちらの規格に合わせろ。3日だ。完全でなくともよい。お前を見せるのは最後の手段にしたい」


「……御意のままに」


「コスナーには今一つ、こやつの権限を確定させろ。馬鹿にもわかるようなやつだ。いけるか?」


「了解です殿下。確実に用意できるかと」


「男爵には当面の……もう一人おったな。二人の面倒を頼む。いいか、誰も近づけるな。私の名を出してもよい」


「は、お任せください」


 皇太子殿下は、技巧院の車両を借り受けて帰っていった。ちなみに本当に朝のランニング中にここに来たそうだ。という事は自宅が近い? この辺って官庁街みたいだったけどな。


 さて、それはいいんだ。今回は王族がいるにも関わらず旧首都の制御システム再起動の件は表示されなかった。相手の地位に関係するかと考えたが、こうなると単純に見せるつもりがないのか。


 いや、まさか、ちょっとやめてよ。あれ公開してくれないと旧首都攻略に戦力がつかないよ。私に何とかしろって言わないよね。公開のタイミングの問題なんだよね。だよね!


 1時間後、映像データの変換方法を特技官と相談していると会計官と名乗る人物が、限度額無制限(うちでのこづち)みたいなカードを持ってきた。コスナー氏はとても喜んでいた。


 次いで、階級院紋章官と名乗るおば様がやってきて、書類一式書かされて、にぃぃって鳴る機械にまた手をのせた。書類を作ってる間、ずっと「初代の血が色濃く出ておいでで」とか、「ほんと、お奇麗でいらっしゃって」とか、キラキラした視線を向けてくる紋章官のおば様。


 手続きを終えると渡されたのは、額装された紋章官証書と水色の紋章入りのカード、爵位登録内容の確認書類。これで爵位が授与されたらしい。王様が剣でポンポンするわけじゃないのか。クレカ並みの気安さだ。


 さて内容は……券面に記載はないんだな。渡された書面を確認するとアンリと同籍な事に変更はない。ただ、それ以前の続柄が追加された。記載によると大昔に廃嫡された伯爵の遠縁ということになっている。先祖帰り的な権限復活は稀にあるらしい。お、納税種別が『乙』になった。で、準子爵ってなんだ。


「行使設備のない権限持ちだな。準子爵だと爵位はあるが扱いは平民だ」


「いわゆる予備の一人って感じですか? 師匠」


「まぁ、大概の中型設備と機材は申請なしで扱える。実務的にはちょうどいいな」


「僕は準侯爵だし、機材はほとんど扱えるから支障はないと思うよ」


 ぎょっとした顔になる師匠。慌てて普通に接して欲しいと言ってくるコスナー特技官。準が付いてても侯爵はとても偉いそうです。むしろなんでこんなとこで技官なんかやってるんだってレベルらしいです。


 昼食後に本格的にデータの変換作業を始めた。


 まずデータを非圧縮で展開して型式の解析を試みるも院の記憶装置では全く容量が足らず、特技官がデータ分割用のアプリを組んで対応。急遽購入した計測室めいっぱいの巨大記憶装置で分割、展開、解析、再圧縮の流れで解析を進めるも、ここの演算装置ではシミュレーション部分での能力不足が判明。


 2Dで計算済みのものを表示するだけ、要するに逐次計算(ライブ)じゃなくて計算済み(ムービー)ならいけるのではと提案した。コスナー特技官としては、この立体表示器を使うことに意味があるという。この装置、すでに失われた地上の思考核の専用端末で失陥後は数百年保管されていた遺物なのだそうだ。


「これが動いているのなら疑う者はだいぶ減らせると思うんだよね」


 とにかく、疑う余地のない現実をがつんと一発ぶち込みたいと彼は言う。差し当たり、装置自体のセキュリティレベルは下げた。記憶に付属してたホログラム用の出像形式、通信プロトコルは提供可能だったので渡してある。


 特技官はものすごい勢いでデータ伝送プログラムを組み上げ、翌日には現用機器から立体表示器への送信を確立した。ただ、やはり処理能力が足らず、止む無くデータの解像度を落とす方向でデータ変換を行った。最終的に観測密度が500メートル立方から5キロ立方にダウングレードされた。特技官は悔しがっていたけど、惑星地表と大気圏全体のシミュレーションデータ6期分(4644日)、1時間単位のデータだ。個人的にはそれでもオーバースペックだと思った。


 そして3日目、最終日の午後。解像度は下がりはしたが、現用機材から思考核の専用端末に立体映像を表示することに成功した。150期(300年)ぶりの快挙だそうだ。



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