第141話 定期公演#11 その5~みなさま、ただいま戻りました……
2曲目『The Beginning of Summer』が終わり、一発目のMCへ。
今日のMC担当のサクにゃんがみんなよりも一歩前へ進み出る。
この時ばかりはボクとレイも控室を飛び出し、会場の隅へと移動していた。この空気を生で感じたい。観客の反応を生で感じたい。ただその一心で。
「みなさん、こんにちは! おひさしぶりです! サクラたち~」
「「「「「≪The Beginning of Summer≫で~す」」」」」
一瞬の静寂。
そして――。
地鳴りのような雄たけび、拍手が沸き起こった。
「ありがとうございます! ありがとうございます! こうして生でみなさんの前に立てる日をずっと夢見てきました!」
赤、青、ピンク、緑、水、黄、紫。
色とりどりのペンライトがみだれ咲いている。
ああ、これが生の人間の反応か。
AIの観客たちがダメってわけじゃない。
だけどやっぱり生の人間は良い……。
うぉ、ヤバい!
隣の席で黄色いペンライトを振っている人がいる。
ちょっと横を向かれたら気づかれちゃうかも……。
「そしてそして~、みなさんお待ちかねの~~~」
サクにゃんが一歩後ろに下がりながら、ウーミーの背中をに手を掛ける。それに応えるように、ウーミーが一歩前へ。
何もしゃべらず、ただ深く腰を折って頭を下げ続けた。
さっきのアイサツの時よりも大きな拍手と歓声。
会場は緑一色で埋まっていた。
10秒か、20秒か。
ウーミーがゆっくりとした動作で起き上がり、ハンドマイクを口元へと持ってくる。
「みなさま、ただいま戻りました……」
それだけ呟くと、時計回りに体の向きを変えつつ、360度すべてのお客さんに向けて、頭を下げていく。
「みっちゃんみっちゃん。みんなしんみりしちゃうから~」
あまりにていねいなアイサツに、少しおどけた様子でサクにゃんが絡んでいく。
そうだ、別にウーミーは何かをしでかして謹慎処分明け、というわけではない。家族の看病のためにしばらく休んでいたにすぎないわけで、誰も謝罪並みに頭を下げてほしいわけではないはずだ。
「ですがみなさんに帰国のご挨拶をしなければなりませんわ」
帰国って言っちゃった。
いろいろぼやかしていたのに。
「きちんと事情をご説明できずにいて申し訳ございませんでした。わたくし、糸川海は、先日までフランスにおりましたの。わたくしの両親は今フランスに住んでいまして、母が体調を崩して入院をしてしまいまして……その看病のためにお休みをいただいていたのですわ。そうこうしているうちに父の持病も悪化してしまいまして、2人ともあまり良くない状況に――」
これ、全部説明する流れ?
まあ事後報告だから別に言っても良いのかな……。
「というわけで都さんにはずっとご迷惑をおかけしっぱなしだったのですが、なんとか母も退院し、父と2人でやっていけるという目途が立ちましたので、こうして日本に戻ってまいりました。みなさまには大変ご心配とご迷惑をおかけいたしましたわ」
ウーミーは再び、深く頭を下げた。
会場からは「お母さんがんばれ」とか「ウーミーえらい」などといった激励の言葉が飛び交っている。一方で、チラホラすすり泣く声も聞こえてきていた……。
ウーミーもちょっと痩せちゃったもんね……。
看病の苦労が目に見えている状態だし、みんな同情的……どころか、感情移入してしまっている人が多数いる状態だった。
「ウミ、おかえりなさい。お父さんもお母さんも元気になって本当に良かったわ。ウミも今日は会場のみんなからたくさん元気をもらって、パワー全開で歌わないとね! みんな~~~、ウミのために元気をちょうだい!」
しんみりムードを変えるべく、ハルルが会場を煽り始める。
呼応するように会場のあちこちから、野太い雄たけびが上がり始めた。
「ぜんぜん足りないぞ~! もっと! もっとだ~~!」
「宇宙のかなたに届くように、もっとギャラクシーパワーをちょうだい☆」
「惑星チテネティアに届くように~!」
メイメイ、それは忘れよう?
ゲームの中のお話だし。
(みなさん元気にやっていると良いですね)
ゲームの中のお話だからね。
(ウータさんと浮気をしないでくださいね)
だからゲームの中のお話だからね。
(そろそろKAEDE-SAGAをロードしますか?)
いや、もう当分あの世界には行きたくないです……。
気軽に帰れないのはつらい……。
「あれ、そういえば都は? 今日の定期公演欠席?」
あれだったらウーミーと一緒にアイサツをしたほうが良かったのでは?
(都さんはまだフランスから戻られていません)
えっ、まだカードゲーム大会の解説をしているの? ちょっと長くない?
(例のライバルの方と再会されたそうで――この話は長くなりそうなのであとにしましょうか)
ちょっと! めっちゃ気になる話! 今すぐに聞きたいんですけど⁉




