第139話 定期公演#11 その3~わたしもサツマイモラブ、おどれるんですよ
1曲目は『サツマイモラブ』だ。
サクにゃんとウーミーのダブルセンターの曲。
会場がピンクと緑の光で埋まる。今日はやや緑が優勢かな? ウーミーおかえりなさい。みんながそう言っている気がする。もし配信をしていてコメント欄があったら、きっと「ウーミー愛してる」で埋まっているんだろうなあ。
ひさしぶりの有観客ライブの最初の曲で、サクにゃんがガチガチにならなければ良いけれど……なんて心配はまったく必要なかったね。
今までで1番輝いているかも!
ここ1年で、サクにゃんは≪初夏≫の中で1番成長したんじゃないかな。いや、成長ではないか。もともと持っていた力を出せるようになったと言ったほうが正確かな。やっぱりメディア露出が増えたことで、人に見られることに慣れてきたよね。最近とくにメイメイのオーラはすごいし、今後のセンターはメイメイで決まりかな、なんて思っていたら、そんな簡単にはいきませんよってね。やっぱりサクにゃんはすごいな。ダンスの技術は≪初夏≫随一だし、身長も伸びてきてスタイルも大人っぽくなってきて……いよいよネコミミを外して不動のセンターへ転身を遂げるのか⁉
「かえでくん、早口でぼそぼそと……一言でまとめてください」
辛辣!
アイドルオタクが早口で推しのことを褒めて何が悪いのさ!
正しいでしょ!
これ以上ないまでに肯定されて良い場面でしょ!
「静かに曲を楽しみたいのでこのペンライトでも振っていてください」
「えー、レイが冷たい……って、なんで紫色にセットしてあるのさ!」
今はピンクか緑でしょ!
「かえでくんにはわたしのことを推してほしいです」
えっと……反応に困る……。
だってレイはアイドルじゃないし、今日は代理でも出演していないし……。
「サビですよ。コール行きましょう」
ああっ! ペンライトの準備が!
うおぉぉぉぉぉぉ! 右手にピンクと緑、左手に紫と青でバルログスタイルだ!
『カチカチ山のお嬢さん そんなに急いでどこ行くの 子ネコが落ち葉を待ってるの 石焼きぃ芋でアッチッチ ラブラブラブうみさくラブ サツマイモラブでうみさくラブ ぼくらのうみさく愛してる 春夏秋冬愛してる!』
どうだーーーーー!
「かえでくん、汗かいてますよ」
ボクの頬を伝う汗を指さしてレイが言う。
「はぁはぁはぁ、全力で……コールすると……疲れるね……」
ハンカチはどこかな。
さっき制服に着替えた時にテーブルに置いちゃったんだった。
「わたしが拭きます」
「ん、ありがとう」
レイがテーブルの上に置かれていたボクのハンカチを手に近づいてくる。
「動かないでください」
「ん、でももう曲が終わるから、モニターを――」
ウーミーのキスシーンを見逃しちゃう。
『サツマイモラブでうみさくラブ ぼくらのうみさく愛してる 春夏秋冬愛してる!』
チュッ。
えっ……ええ……レイさん……?
なんで今、ウーミーの動きに合わせてボクの頬っぺたにキスしてきたの……。
「わたしもサツマイモラブ、おどれるんですよ」
「知っていますけれども……」
レイさん、すごい顔が赤いんですけど。
照れ過ぎじゃないですかね。
ちょっと写真撮っておこう。カシャッ。
「今のは撮ってはダメです。消します」
レイがボクの端末を取り上げようと飛びかかってくる。
「良いじゃん。すっごいかわいかったし」
「スキャンダルになってしまいます」
「マネージャー同士でスキャンダルにはならないでしょ。流出もしないし」
これはボクだけで楽しみますからね。誰にも見せませーん。
「マネージャーとアイドルだったら、スキャンダルになってしまいますから」
「そりゃまあ、そうなったらそうなのかな?」
「今もかえでくんが望んでくれているのなら、真剣に考えようかと思っています」
え……それってもしかして……。
「レイがアイドルを目指してくれるってこと?」
端末の取り合いをやめて、レイがボクの正面に立った。
制服のスカートをぎゅっと握りしめ、ボクのことをじっと見つめてくる。
「かえでくんが望むなら、そうしてみるのも良いかなと思ってきたところです」
「お、おお……。レイがアイドルに……。絶対推すよ!」
「本当ですか?」
上目遣いに、今にも泣きそうな表情を見せる。
「だってレイはこんなにかわいいんだもん。ボクだけのアイドルってすごくうれしいんだけど、やっぱりもっとみんなにも見てほしいじゃない!」
もうすでにたくさんのファンもいるし。
「最推しに……してくれますか……?」
ボクの手を取り、念を押すように――。
最推し。
最推しかあ。
この場で「うん」って答えるのは簡単だ。
でもボクはメイメイのために生まれて、メイメイを最推しにして、メイメイをトップアイドルにするためだけに生きているわけで……。
レイを最推しに――。
なんて答えたら良いんだろう。




