第133話 マキカエレイ特別配信 その33~人生で初めてナンパされた相手は亀でした(終)
ロッククリスタルトータスの飛行速度は想像の100倍くらいは速かった。
風を切るジェット機みたいな飛び方をして……でも、背中に乗っているボクとウータは一切空気抵抗を受けない感じで快適だったんだけどね。
『そこよ。その一本杉を左に曲がって最初の山の中腹で降ろしてちょうだい』
この亀さんはタクシーか何かですか。
でも亀は文句も言わず、蝙蝠の姫・ウータの指示に従って、ボクたちを山の中腹まで連れて行ってくれた。なんか申し訳ない気持ちに……。うん、ありがとうね。
ん、何? 甲羅の中から青いクリスタル? これもくれるの?
ありがとう。すっごいキレイ!
「何? 紙切れ? もしかして連絡先が書かれた紙とか? ナンパ?」
――人生で初めてナンパされた相手は亀でした。
何のキャッチコピーだろ……。
“亀にモテる猫”
“なんだよ。俺のほうが先にラブレター送っただろ”
“おまっw”
“楓ガチ勢?w”
“実在したのか”
“キモッ”
“あーあ言われてんぞw”
“レイちゃんが黙っていないだろうな”
“検閲に引っかかった”
“ご愁傷様w”
“亀のほうが上”
ラブレター……?
≪初夏≫のメンバー宛なら、各マネージャーがしっかり中身を確認したうえで渡すかどうか決めて良いことになっているけれど、ボク宛ての手紙が来たことはないな。
(かえでくん宛てにラブレターが来たことは一度もありません)
だよね。
マジで送ってくれるんなら、普通にうれしいけどね!
気持ちには応えられないとは思うけれど、人生で一度は告白されたりしてみたいって言うか……。いや、自分でするほうでも良いんだけど……。
(結婚してください。式場は押さえてあります)
レイはまたすぐにそういうことを言う……。
(と、まきさんなら言うでしょう)
すっごい言いそう。ていうか、すでに100万回くらい言われたわ。
でもマキはノーカンだなあ。
やっぱりもうちょっとちゃんとした感じで告白されてみたい……。
『楓、何をやっているの? 早くしなさい。置いていくわよ』
洞窟の入り口の前で、ウータが叫んでいる。
ああそうだった。
亀さんは一緒に行かないの? ボクたちを送ってきてくれただけで帰っちゃうの?
ん、ああ、手紙をね。はいはい、読みます。
【セーブポーズ】
紙切れに書かれていたのは、短い言葉でそれだけだった。
「これは……?」
ラブレターでも連絡先でもないね。
セーブポーズ……?
「ああ! 亀さんカムバーク!」
飛んで行っちゃった。
これが何なのか教えてほしかった……。
『か~え~で~!』
「はい! 今すぐに!」
ウータのところに走りながら、ボクの思考は亀に渡されたメモのほうに引っ張られていた。
セーブポーズ……何が言いたいんだろう。
この『KAEDE-SAGA』のゲームをセーブする方法があるってこと? いや、でもそれはレイが否定していたし、実際ゲームの序盤辺りの時、水車小屋の前であの恥ずかしいポーズを取らされたけれど何も起きなかった……。
うーん、でも『セーブポーズ』って言ったら、あれのことしか思い当たらないなあ。
レイ? この手紙に書かれている『セーブポーズ』って、やっぱり水車小屋でのあれのことなのかな?
(さあどうでしょう)
ん、なんかわかりやすくごまかされた。
なんだろう。
もしかして、この青いクリスタルがゲームをセーブするためのアイテムだったりする?
(さあどうでしょう。かえでくんがそう思うなら、試してみてはどうでしょうか)
なぜか歯切れが悪いなあ。
もしかしてこれって、セーブポーズを取りながら、青いクリスタルを使うとホントにセーブできたりするのかな?
『か~~え~~で~~~!』
ウータが怒っている……。
でも、もしゲームがセーブできて一度ログアウトできるなら、試してみる価値はあるんじゃないの⁉ ダメでも死ぬわけじゃないだろうし。
(死ぬかもしれません)
それは困る……。
でも、あの亀はすごく優しかったし、即死罠のようなアイテムを渡してくるとは思えないんだよね。
んー、やっぱり試してみる!
「みんな! ボクはこのゲームをセーブして地球に帰還するぞ!」
“お?なんか楓が急に盛り上がっているな”
“そろそろ配信終わりか?”
“すげぇ中途半端w”
“だがそれが楓っぽくていい”
“楓さん、やっと帰ってくるんですか”
“セーーーブ!”
“あれがまた見られるのかw”
“羞恥プレイw”
あの恥ずかしいセーブポーズを……。
もし何も起きなかったらホントに恥ずかしいだけなんだけど……。
いや、やるぞ!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ! セーーーーーーーーーーーブ!」
目を固くつぶり、両手を水平に広げて渾身のセーブポーズ。
どうだ⁉
セーブできたか⁉
左目を薄ーく開けて……あれ? 真っ暗……?
(現在セーブ中です。電源を抜かないでください)
レイの平板な声がボクの脳内に響き渡る。
他には何も。
ウータの声も、あれだけうるさかったコメント欄の読み上げも聞こえてこない。
まさかホントにセーブできたの、かな……?
(セーブが完了しました。ゲームを終了します。おつかれさまでした)
プツン。
スイッチを切るような音とともに、ボクの意識は途絶えた。
「というところまでは覚えているんだけど……」
起きたら普通にベッドの上に寝ていたんですよね。
「おかえりなさい。とても楽しい夢を見たようですね」
レイがベッド脇で微笑む。
夢かあ。
まあ夢だよね。
そんな何か月もVRゲームをやりながら配信をするわけないし。
でもなんだかけっこうリアルで不思議な夢だったなあ。
「うっ、なんかちょっと肌寒い……」
この部屋、クーラー効きすぎ?
リモコンリモコン……。
ベッドのヘッドボードの上を探る。
と、充電ケーブルに繋がれたボクの端末が落ちてきた。
画面に映っていたのは――。
9月18日(木)20:50
ん? 今ってもう9月なんだっけ……?
マキが来たのは7月……? 8月……? どっちだっけ?
あれ……?
マキはあの台風の日に、ホントに遊びに来たんだっけ?
どこまでが現実でどこからが夢なんだ……?




