第110話 マキカエレイ特別配信 その10~そこの物陰でシャッとおねがいします
どういうことだろう。
周りの音も配信コメントの読み上げも何も聞こえなくなったんだけど……。
音声トラブルかな?
(今回だけ特別です。時間を1分間止めました。わたしに止められるのは1分だけですから、この時間を有効に使ってください)
「あ、うん……ありがとう……?」
これってゲーム内だけの時間じゃなくて配信を見ている人の時間も止まっているんじゃ……? いや、さすがにそれはないか。一時的に配信を切ったってことなんだろうね。
「じゃあ、この1分の間に走って逃げれば良いのかな……?」
(今のうちにゾンビを倒してください)
「いや、でも……今のナギチには物理攻撃が効かないし……」
さっきから何度も『チィタマ・クロー・スラッシュ』を使っているけれど、ちょっとしたノックバックさせて足止めするくらいにしか効果がないからね……。
(今こそ聖属性攻撃を使う時です)
「でも魔法が使える仲間はどこにも……」
急いで仲間を探しに行ったほうが良くない? ほら、チィタマBダッシュ的なスキルとか、あるんじゃない⁉
(そんなものはありませんので、かえでくんにも使える聖属性攻撃をしましょう)
というと……?
「ボクにも魔法が使えようになるの? もしかして特例で今回だけ使わせてもらえるとか?」
(いいえ。魔法は使えません)
じゃあどういうこと……?
(かえでくんはもともと聖なる存在です。存在が聖属性ですから、かえでくんが放つものはすべて聖属性なのです)
「いや……意味がわからない」
もはや情報の後づけがひどい。
ボクの放つ攻撃がすべて聖属性攻撃なら、物理攻撃だってナギチに効くはずでは?
(武器にかえでくんの成分が付与されていれば効きますね)
そういうものなんだ……。
ボクの成分って何?
(わかりやすくいえばかえでくんの発する聖水ですね。そこのゾンビに聖水をかけてください)
「……聖水?」
(こちらに紙コップをご用意いたしました。ここに聖水をおねがいします)
うわ……すごく嫌な予感……。
(今なら時が止まっています。誰も見ていませんから大丈夫です)
いやいや、ぜんぜん大丈夫じゃないから……。
(時間がありません。そこの物陰でシャッとおねがいします)
やっぱり聖水ってそれなの……。
いや……さすがにそれは人としてどうかと思う……。
(全自動お助けモード(緊急)を作動しますか? 作動します)
不同意案件!
(さあ、こちらにきてください。できるだけ痛くはしませんから)
痛くって何⁉
いや、いやーーーーーーーー! 無理やりはやめてーーーーーーーーーー!
「え? みじん切りにした玉ねぎ……ちょっ⁉……うわーーーーーー目が目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
痛い痛い痛いっ!
みじん切りにした玉ねぎを目にこすりつけられて涙が止まらない! くしゃみも! 鼻水も! 痛いよぉ!
(時間、動き出します)
「カエデちゃん……助けてくれてありがとう……」
ええ……頭から聖水(涙)を被ったナギチが、光のエフェクトとともに昇天していっちゃった……。
【おっと~、カエデ~! いつの間にそんなアイテムを用意していたんだ~⁉ ゾンビがしあわせそうな顔で昇天していくぅぅぅぅぅ! さらば、水沼渚ちゃん。天に帰っても、元気にアイドルをしてくれ~い!】
いや、今のはナギチ本人ではないからね?
ただのゲーム内のキャラクターだから……。でもリアルなナギチだった……。まさかナギチが別の端末を使ってゲーム内に? でも今はレッスン中だからそれはないか……。じゃあ、やっぱりゲーム内のNPCだよね。ゴブリンの時には気づかなかったけれど、このゲームってすごいクオリティだわ……。
(次にゾンビが出た時のために、もう少し聖水をためておいたほうが良いかもしれません)
聖水ってボクの涙のことだったんだね……。てっきりあれのことかと……。想像してしまった自分が恥ずかしい。
(かえでくんが想像しているものも聖水になります。かえでくんから抽出された液体はすべて聖水です)
それって血とかも……?
(そうですね。それはこの後出てくる吸血鬼を倒す時に使いましょう)
出てくるの決定なんだ……。
もう誰がモデルなのか丸わかりですっごく憂鬱なんですけど……。
(もしかしたら吸血鬼はわたしがモデルのキャラクターかもしれません。その時までお楽しみにしていてください)
いやー、絶対あの人でしょ……。
【さあ、カエデ。今こそ山小屋に入ってセーブをするんだ!】
ああ、そうだった。
セーブするためにここにきて……って、さっき恥ずかしいセーブポーズを取らされたのは何だったの⁉ もうセーブポーズなんて絶対取らないからね!




