第98話 絶対に壊れない傘と、水着とレインコート
午前11時。
相変わらずマキは、ボクのベッドでゴロゴロしている。
「カエデ~。ひ~ま~ま~ひ~! なんか一発芸やって!」
「さっき散々やったじゃん。もう疲れたよ……」
「クッソつまんないモノボケは良いから、次はショートコントやってよ~」
クッソつまらなくてすみませんでしたね……。
これでも精いっぱいやったんですよ。でも良いじゃん。レイと花子のコンビ芸に爆笑していたじゃん。もう十分楽しんだでしょ。
「かえでくんはもう少しお笑いを勉強したほうが良いと思います」
「がぅがぅが~ぅ!」
花子まで……。
たしかに2人のモノボケは意外性があっておもしろかった。ボクのは考え過ぎて伝わらなかった感があるよね。
「見てくれる人の心の隙間に差し込むんです。1回はまれば、同じことを繰り返してもおもしろいものですからね」
「テンドンってやつにゃ~。あひゃっひゃっひゃっひゃ」
急にマキが大声を上げて笑いだす。
振り返ると、花子がお盆で胸を隠して――だから、どうしてそれがボクのマネになるんだよ……。1回もそんなのやったことがないのに。マキの笑いのツボがわからない……。
「カエデ、あれやってくれ~」
マキが目尻に溜まった涙を拭きながらベッドから体を起こす。
「あれ、とは?」
「あれだよあれ。台風の日の一発ギャグと言えば、あれしかないでしょ!」
台風の日?
なんだろう。ぜんぜんわからないけれど。
「まきさん、わたしは2つ思い当たるのですが、壊れるほうと壊れないほう、どちらでしょうか?」
壊れるほうと壊れないほう?
謎の単語が出てきた。
「あ~、壊れるほうもあったにゃ。でも今見たいのは壊れないほうかにゃ~?」
壊れないほう。
まあ、壊れるよりはマシな気はする。なんのこっちゃわからないけれど、壊れるっていう単語を聞くと、身の危険を感じますね……。
「では絶対に壊れないものを用意します。かえでくんは着替えをすませておいてください」
「着替えですか……? この制服じゃダメなの?」
何をさせられるんだ……。
「わたしはそのままでも良いと思うけれど~、大事な衣装だろうし、着替えておいたほうが無難じゃないかにゃ?」
「マジで何……」
この制服に何かが起きるような一発ギャグ……?
「わたしのおすすめは、水着を着て~、その上にレインコートかな。透明なレインコートのほうが見栄えは良いよね!」
「水着にレインコート……? ちょっとエッチな番組でしか見たことない組み合わせなんですが……」
「もう~そんな番組見て~、カエデのエッチ♡」
それをボクに着させようとしているマキのほうがエッチなんじゃないんですかね?
「かえでくん、絶対に壊れない傘の準備ができました。着替えは終わりましたか?」
絶対に壊れない傘……?
「いや、まだだけど……」
絶対に壊れない傘と、水着とレインコート。
台風の日にしかできない一発ギャグ。
嫌な予感しかしない。
「危ないから外に出るのはなしだからね……?」
牽制しておこう。
「レイちゃん、たぶんさ、手で傘を持っておくのは無理だと思うにゃ」
無視か……。
「何か固定するものが必要だと思うにゃ」
「そうですね。傘と手をしばっておくのはどうでしょうか?」
「でも秒速50mらしいから、突風で腕が脱臼するんじゃないかにゃ?」
「肩も固定しておきましょう」
「バンザイした状態で両手で傘を持たせてグルグル巻きに? でもそれだとセクシーじゃないにゃ~。濡れたレインコートの下の水着とおへそが見たいにゃ~」
「傘は手で持たずに背骨に固定するのはどうでしょうか。金属の外骨格に固定し、それを背負う形であれば、腕や肩も抜けませんし、正面から見た場合には、かえでくんのセクシーなおへそも見放題です」
「なるほどにゃ……。背中側はセクシーじゃないけれど、この際それは目をつぶるにゃ。安全面も大事にしないとBPOに怒られるからにゃ~」
「一撃で100万再生をねらいたいですね」
「下からの固定カメラで一瞬にして飛び退るカエデの映像を押さえるのと、表情の絵もほしいから、ヘルメットにGoProも用意するにゃ」
「カメラに映らない透明なヘルメットを用意します。少し引きの映像もほしいので、台風の中でも飛べる特別仕様のドローンも使います」
「やっぱりおたくの会社の技術は最高にゃ!」
「まかせてください」
マキとレイがガッチリと握手。
そして握手をしたまま、2人がボクのほうに視線を向けてくる。
「ではかえでくん」
「さっそく行くにゃ!」
「行くかーーーーーー!」
さすがにわかるわ!
台風の中、ボクに傘を差させて外を飛ばそうとしているでしょ!
絶対お断りだわっ!




