第97話 カエデ、わたしが無事にロケから帰ってきたら……結婚しよう!
午前8時。
マキがボクのベッドでゴロゴロしている。
「ひ~ま~! カエデ~、なんか一発芸やって~」
「いや……ホント何しに来たの?」
わざわざこんな日にやってきて、ノープランなの?
ボクに何か用事があったんじゃないの……。
と言っても、台風がますます接近してきているし、すぐに帰れとも言えず。
メイメイの相談の続きを……と思ったけれど、さっきの話の中で結論が出ているような気もするか。
本人がやりたがらない仕事を無理やりやらせるべきではない。
自分がやりたい仕事につながっていると思える仕事をさせてあげよう。
でも気になっているのはここ。
『「誰かを超える」という目標は、とても危うい』
神格化されたはずの≪BiAG≫というグループが、AIプログラムという形で現代に甦ってしまった。
そのことで、メイメイは本来超えられないはずだった神のような存在に手がかかるところまで来ている。
それ自体は喜ばしいことなんだとは思うけど、もしホントに超えてしまったとしたら。超えてしまったと自覚してしまったとしたら。
その先は?
目標を達成した後に、次の目標をどう掲げていったら良い?
それが何も見えていないところに不安が残る……。
いわゆる燃え尽き症候群。
メイメイが燃え尽きてアイドルをやめてしまうようなことは絶対に避けなければいけない。
ボクはそれを阻止するために存在しているのだから。
それがボクの存在意義で、もしメイメイがアイドルをやめる日が来るとしたら、それはボクが活動を停止する日に他ならない。
「かえでくん、思いつめずにゆっくり考えていきましょう」
「うん……そうだね……」
まだ時間的猶予はあるはず。
少なくとも、次に≪初夏≫と≪BiAG≫がコラボするまでは、メイメイがお母さん――≪BiAG≫の絶対的エース・秋月美月を超えたと自覚することはないだろうし。
「今は目の前のことに集中すべきだと思います」
「目の前のこと?」
レイがにっこりと笑って何か細い棒状のものを手渡してくる。
なんですか、これ?
「それを使って一発芸をおねがいします」
「えっ……」
一発芸?
「やった~! カエデの100万円チャレンジの始まりだにゃ! モノボケ~!」
某テレビ番組の企画ですかい。
サイレントが鍵だからなあ。
「マキを笑わせたら100万円くれるの?」
なんてね。
「あげるよ~。あげちゃうよ~。でも、最終ステージはわたしとレイちゃんの2人を笑わせないとダメだよ」
「マジで……。ホントに100万円⁉ 円だよ円! ジンバブエドルとかじゃなくて!」
「かえでくん。ジンバブエドルは廃止されました」
「えっ、そうなの⁉」
インフレの象徴みたいな通貨ってなくなっていたんだ……。
「今はジンバブエゴールドです」
「なんか強そう……」
ジンバブエゴールドか。初めて聞いたわ。
「実際に使用できるかは不明です」
「ゴールドになってもやはり……。って、ジンバブエの話は良いんだよ! たぶん行くこともないし! ていうか、どこにあるの⁉ アフリカかな⁉」
「ジンバブエはアフリカだよ~。1回くらいはロケで行っておきたいよね~。価値観変わりそう」
アフリカはちょっと怖いなあ。
気軽に行って良い場所には思えない……。治安とか……。
「価値観が変わるって言ったらさ、マキはやっぱりしょっちゅう海外に行っているの? 仕事でもプライベートでも良いんだけど」
ボクはパスポートがないから海外に行くことはないと思うんだけど、そういう話だけでも聞いてみたいな。
「意外とそんなに多くないかな~。撮影でマレーシアは行ったよ。ほかはプライベートでハワイとグアム。フランスとイギリスくらいかな」
「いや、十分多いよ」
それで少ないって言われるとちょっと……。
「あ、それじゃあアメリカは今回のロケが初?」
「そうだよ~。アメリカはね、大きな役をもらって、経費で行くってずっと決めていたからね。ある意味、わたしの目標の1つってところかにゃ」
そう言って、満足そうに頷く。
「じゃあ明日、夢の1つが叶うんだね。それはホントにおめでとう!」
「ありがとありがと~。ハリウッド映画じゃないところがちょ~~~~っとだけ残念だけど~、わたしも売れちゃってことかな! カエデ、わたしが無事にロケから帰ってきたら……結婚しよう!」
「それなんて死亡フラグ?」
結婚はしないけれど、死ぬのはやめてよ?
「半年もあったら、法律も変わっているでしょ? 麻里ちゃんに期待する~」
「さすがにそんなに早くは……」
「師匠ならあるいは」
いやいや。
レイさん、変なフラグを立てようとするのはやめてくださいよ?




