第95話 いずれ師匠が政界に打って出たなら……
レイが作ってくれた朝食の匂いに誘われて、ボクとマキはリビングへ。
部屋に取り残されて淋しいのか、花子がのそのそとやってきて、ダイニングテーブルの下でうつ伏せになって寝始めた。
「このオムレツ最高~♡ 牛挽肉のぽろぽろ感がたまんね~♡」
マキ絶賛のレイ特製オムレツ。
マキはケチャップをかけ、ボクはソースをかけていただきます。
「卵がふわふわでおいしいね。ありがとう、レイ」
「どういたしまして。ゆでたまごやだし巻きたまごもありますので、どうぞお召し上がりください」
「うみゃいうみゃい♡ レイちゃんの手料理を毎日食べられる生活がうらやましいにゃ」
マキの手が止まらない。
お世辞ではなくてホントにおいしそうに食べるね。
「まあ、今日はマキが来たから特別だよね。さすがにレイだって毎日料理する時間はないよ。ボクたちマネージャーだってけっこう忙しいんだよ?」
そりゃね、演者さんに比べたら裏方だから、多少は時間の融通が利くかもしれないけれどさ。どれくらい忙しいかっていうと、実はボクたち、4月に大学に入学して今まで、1回も授業に出席してませんからね。なんだったら、何の授業を選択したのかも忘れちゃった。
「2人ともさ~、マキちゃんのところにお嫁に来なよ。ダブル専業主婦、させてあげるじぇ♡」
あらイケメン。じゃあよろしくーってなるかーい!
「ダブル専業主婦って何。初めて聞いた言葉だわ」
「ごめんなさい。すでに婚姻届は提出済みなので、まきさんとは結婚できません」
レイが深々と頭を下げる。
「えっ⁉ レイって結婚しているの⁉ 初耳なんだけど⁉」
まさかこんなに一緒にいて、ルームメイトの結婚を知らなかったなんてことある⁉
「まだ日本の法律では受理されないので、今は師匠に預けてあります。いずれ師匠が政界に打って出て、法改正をしてくださるでしょうから、その時に正式に提出を行う予定です。それまでは事実婚ということでこれからも末永くよろしくおねがいします」
レイが腰を折り、深々と頭を下げてきた。
なんていうか、ツッコミどころが多すぎてあれですが……ボクがあずかり知らないところで、ボクの名前が書かれた書類があるんだなということだけは察しました。
「法改正するんなら、ついでに重婚も認めておくれよ~」
「ダメもとで頼んでおきます」
「やった~! カエデ、それまではわたしたちも事実婚ってことで、先に子作りだけすませておこっか♡」
「まきさん、順番を守ってください」
「え~、ケチケチしないで一緒に楽しもうよ~」
「かえでくんは恥ずかしがり屋さんなので、一緒には難しいと思います」
「そっか~。じゃあ~、月水金はレイちゃんで、火木土はマキちゃんね。日曜日は流れで♡」
うむ。
黙っていたら、どんどん勝手に危なそうなスケジュールが組まれていきますね。
「どこからツッコめば良いんだろうなあ。とりあえず……麻里さんが政界に打って出るって何?」
この辺りからかな。
「そこまで遡るぅ~?」というマキの笑い声は無視するとして、レイさんは何で微笑んでいるだけなんでしょうかね? 麻里さんは研究畑の人間だし、政治なんて興味ないだろうから、さすがにあり得ないよねーって一緒に笑うところでは?
「もしかしたら、米大統領のほうが師匠には合っているのかもしれません」
「いや……国籍の問題とか、なんかこう……まあ良いや。この話を続けてもどこにも着地しそうにないし。とりあえず、ごちそうさまでした」
大変おいしい朝食をいただいたので、食器洗いは担当させていただきますよ。
「あ、レイちゃんごちそうさま! わたしも食器洗うよ~」
ボクが食器を持って席を立ったのを見て、マキがついてこようとする。
「お客さんはその辺でくつろいでいてよ。食器洗いって言っても、お皿が数枚と箸とフォークくらいしかないし」
流し台は狭いから1人でパパっとやっちゃいます。
「え~、その辺でって言われても……あっ♡」
何かを思いついたのか、マキがニヤニヤし始めた。
ロクでもないことだろうなとは思いつつも一旦忘れることにして、さっさとお皿を洗ってしまいますかね。制服を汚したら困るからー、エプロンエプロン、と。
「……それでマキはそんなところで何やってるのさ?」
お皿洗い中のボクのすぐ後ろにしゃがみ込んでいるマキに声をかける。
鼻息があまりにもうるさくてつい振り返って確認してしまったよ。
「新婚さんごっこ♡」
どういうこと……。
「新婚さんが何かはわからないけれど、とりあえずミニスカートでヤンキー座りはやめておいたほうが良いよ……」
セクシー開脚になっちゃっているからね。
しっかし、やっぱりマキは足キレイだなあ。
「おかまいなく~♡ はぁはぁ♡」
うるさくて集中できない……。こっちがかまうんだよねえ。
ん、お尻に違和感?
「って、ちょっと! スカートめくってくんな! こっちは手が泡で!」
払いのけることもできない!
「くんかくんか♡」
「コラー! スカートの中に頭を突っ込んでニオイを嗅ぐな!」
レイ、このエロ女優のいたずらをやめさせて!




