第92話 突き抜けたその先
「繰り返しになっちゃうけどね~、わたしは芸能のお仕事は、本人がやりたい仕事だけを受けるほうが良いと思うよ」
「それはすでに売れているマキだから言えることでしょ」って反論しようと思って仰ぎ見たマキの表情は、真剣そのものだった。
売れっ子女優の驕った意見などではなく、マキは心の底からそう思っているのだということが伝わってきた。
「でもやりたい仕事だけを待っているだけで良いのかな……。いつまで経ってもやりたい仕事が来なかったら?」
メイメイに仕事のオファーがたくさんあると言っても、比較的大きなものでもバラエティー番組のゲスト出演くらいで、だいたいのものは雑誌の取材やコラボ動画のオファー、セリフがひと言あるかないかのドラマ出演など数をこなさないといけないようなものばかりだ。
しかし、それは悲観すべきことではない。
≪初夏≫が、いくら赤丸急上昇中のアイドルグループとはいえ、まだデビュー2年目。芸能界で言えばひよっこもひよっこだ。
それくらいの芸歴であれば、事務所にかなり推してもらえていても、先輩タレントのバーターで地方局の番組に使ってもらえればかなり良い。それが、名指しで仕事が来ているだけでも十分すぎるほどに成果が出ていると言って良いと思う。
まあ、それでもメイメイは≪初夏≫の中では遅咲きの部類だ。
ハルルは人気芸人コンビのラジオのアシスタントに抜擢されてもう半年になるし、サクにゃんは教育番組にレギュラー出演して科学実験の1コーナーを持っていたりするし、ウーミーはすでに写真集を3冊発売していて少年誌のグラビアの仕事のオファーは途切れないし、ナギチはスイーツを作るネット番組の有料チャンネルの登録者数で表彰を受けたばかり。
メイメイは多才すぎることがアダになっていたのか、『メイメイと言えばこれ!』みたいな売り方ができずにいたのは事実。これはひとえにマネージャーであるボクの責任なわけだけど……。
それに、伝説のアイドル・秋月美月の娘であることをきっかけにした仕事は断っていたし……。
「自分がやりたい仕事につながっていると思える仕事をするものでしょ?」
言うまでもなく当たり前のこと。
マキの中ではそうなんだろう。
「やりたい仕事につながっている仕事か……」
「カエデはさ、メイメイちゃんのやりたい仕事のこと、ちゃんとわかっているの?」
根本的な質問だ。
「メイメイはお母さんのようになりたい。お母さんを超える存在になりたいという目標を持っているよ」
「お母さんね。それでこの間のライブのあれなんだ? 普段のメイメイちゃんを知っているからこその驚きなのかもしれないけれど、さすがにあれは別人かと思っちゃったよ。この子、本物だなって。わたしは素直に認めるよ。あれを見た誰もが認めたんじゃないかな」
マキが言っているのは、定期公演#9の≪BiAG≫とのコラボライブのことだろうね。マキにここまで言わせるということは、やはり芸能関係の人が見ても、あのライブは伝説に値するパフォーマンスだったんだなあ。
「わたし、AIのことはそこまで詳しくはわからないんだけど――」
マキの口から発せられた『AI』という単語に、無意識のうちに体が反応してしまう。マキはAIのことを――ボクたちのことをどう思っているのだろう。
「あれは当時の≪BiAG≫を再現……もしかしたらさらに洗練されている存在だったんだよね? そこに並ぶってことは、メイメイちゃんの力量はそこまで突き抜けているってことになるよね」
フラットな分析だ。
そこにマキの想いや意見はなく、事実だけを並べて確認している、そんな感じだった。
「あそこまで突き抜けたら、その先ってあるのかな?」
「その先?」
「その先だよ。何を持って最高峰と呼ぶかは、評価の軸について議論しないといけないとは思うけどさ、≪Believe in AstroloGy≫は日本アイドル界の歴史の中で頂点を極めたと評されるグループだよね。その象徴的な存在がメイメイちゃんのお母さんの秋月美月。そこに並んだその先って、ホントにあるのかなって。カエデはメイメイちゃんに、あれ以上のパフォーマンスを求めているの?」
シンプルな疑問で殴られた。
でもボクだって感じていた疑問だ。
頂点に立った時、それ以上先に、登るべき壁は存在するのだろうか。
≪BiAG≫のパワーによって底上げされた結果があのパフォーマンスだと考えれば、まだホントの頂には手が届いていないのかもしれない。
だけど、あとはあの状態を、自分たちだけの力で成し遂げるだけ。
成し遂げた後、その先は――。




