第91話 タイミングを逃さないためにどう指導したら良いか
「ホラーの話はまた今度教えて……」
今はメイメイの話を相談しておかないと、この後困るんだよ……。
「そうだったそうだった。カエデが無償の愛を与え続けたいほど、だ~い好きなメイメイちゃんの話を聴こうじゃないか~」
マキは胡坐から姿勢を直し、ベッドの上に正座をしてからポンと膝を叩いた。
なーんか言い方に含みがあるなあ。
そりゃね、大好きですよ?
マキはさ、たびたびボクの愛を『無償の愛』――アガペーだって言うけれど、最近はちゃんとメイメイが何かしてくれた時にはお礼を言うようにしていますよ? ボクだって成長しているんです。ボクが「ありがとう」って言った時に、メイメイがほんのりはにかむ姿がボクの宝物で――。
「わたしは朝食を用意してきます」
そう言ってレイがボクの部屋から出ていこうとする。
「今日は卵料理の気分だにゃ~。ご飯もトーストもいらな~い。卵料理のフルコースで頼むにゃ」
突然押しかけてきておいて朝食のオーダーとは……。
自宅で食べてきなさいよ。
「かしこまりました。かえでくんはどうしますか? いつも通りわたしのミルクで良いでしょうか?」
「わたしのミルクって何……。マキと同じものでお願いします」
そういう冗談はマキの大好物だからやめておこう?「やっぱりミルクがあるにゃ」って謎のつぶやきを……。
「かしこまりました。しばらくご歓談ください」
「うぃ~。よろしく頼ま~!」
「レイ、いつもありがとうね」
食堂のシェフの料理もナギチのスイーツもおいしいけれど、レイが部屋で用意してくれる朝食や軽食も好きだよ。
「というわけで、メイメイのことなんだけど」
大女優様、相談させてください!
「大きな役がほしいから近道を教えてほしいっていう相談には乗れないよ? わたしだって大きな役はほしいし! でもこればっかりはね……」
「いや……そりゃもちろんメイメイに大きな役が来たらうれしいけれどねえ」
積み重ねとタイミング次第だってことくらいはわかりますよ。
ボクやハルルみたいに、たまたまあの場にいたってだけで、今でも『朝西』のシリーズに呼んでもらえるっていうこともあるからね。積み重ねがあったのかって言われると微妙ではあるけれど、あの場でのエチュードが認められた結果だとは思っている。
『今』っていうタイミングで全力を――全力を超えた出力でぶつかれたらと良いなって思……そうだよ、それ!
「タイミングの話!」
「タイミング? カエデは古い曲が好きなんだね~」
「今は真面目な話で……」
茶化さず聴いてほしいんですよ。
「ほい、真面目な話ね! りょ~かい! よし、聴こう!」
なんで真面目な話って言うと眉間にしわを寄せるんだろう。何かのキャラ作りかな? まあ良いか……。
「タイミングを逃さないためにどう指導したら良いかなって話なんだけどさ」
と、前置きをしつつ、メイメイの置かれた現状を説明する。
≪初夏≫は定期公演#9で≪BiAG≫とのコラボを果たし、メイメイはお母さんでも秋月美月さんと共演を果たした。特に後半のステージにおけるメイメイのパフォーマンスは圧巻で、ファンの間では≪BiAG≫を食ったかもしれないとまで評されるほどだった。
つまり、メイメイは今めちゃくちゃ注目されているアイドルで、仕事も殺到している状態なんだよね。当然全部の仕事を受けられるわけもなく、花さんと相談しつつ、今後につながりそうな仕事を選んでいる状態ではあるんだけど……。
「メイメイちゃんが外部の仕事に乗り気じゃないってことかにゃ?」
「そうなんだよね……。水着グラビアの仕事には異常に興味を示すんだけど、もっとこう、テレビ出演とか、役者の仕事とか、そういうのをやってほしいなって」
注目されている『今』こそ、名前を売るチャンスなんだって思うんだよね。
「本人がやりたくない仕事をさせようとしても、マイナスにしかならないよ」
「それはわかるんだけど、どうにかしてやる気を出させるのもボクの仕事なのかなって」
このままだと定期公演が終わって、武道館ライブをやったら目標を失ってしまうんじゃないか。フッとどこかへ消えてしまうんじゃないか。
やっぱりその不安がぬぐえないんだ……。




