第89話 マキ vs 花子 vs レイ?
花子、後は頼んだぞー。
朝はコンビニ飯かあ。
さて、何を食べようかな。
台風が来ているせいか、微妙に涼しいから温かいものが良いかな。いやー、だけどジメジメするし、さっぱりしたものが良いかなあ。
でもなー、まだ朝も朝。6時にもなっていないし、そこまでお腹が減っているって感じでもないし……かるーくスープくらいで良いかな。
ん? ドアノブが回らない?
台風のせい……なわけないか。寮の部屋は外に面していないし、台風の影響を受けるわけがない。錆びついたかな?
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ファイトぉぉぉぉいっぱぁぁぁぁつ!」
力任せに――回らない!
どうしたんだろう。ビクともしないな。本格的に壊れた? 困ったなあ。台風の日に修理の人なんて来てくれるのかな……。とりあえず花さんに連絡……するにはちょっと朝早すぎるか。
仕方ない、とりあえず戻って2人に報告するか。
せっかく脱出してきたのに、またあの異常空間に戻らないといけないとか、控えめに言って悪夢……。
今日この後8時間もマキのテンションに付き合わないといけないんだと思うと……ちょっと憂鬱だなあ。いやね、なんだかんだ言ってマキはやさしいし、もちろんキライではないんだけどね。最近とくにアプローチのガチ感が増してきているっていうか……演技のためのネタじゃなくて、もしかしたら本気でボクのことが好きなのかと思えて……って思わせるほど真に迫った演技ってことなんだろうね。やっぱりマキはすごい女優だなって思います。
「あのさー、なんか玄関のドアノブが回らなくてー。壊れたかもしれないから、あとで業者さんを呼んでもらおうかなって――」
マキはエロいパジャマから着替えを済ませていて、≪初夏≫の2ndシングルの時のエメラルドグリーンを基調とした制服っぽい衣装を身につけていた。
あら、マキさん? いつの間にか≪初夏≫の衣装なんて着ちゃってどうしたの? けっこう懐かしいね。あんまり装飾がついていないから、けっこう体のラインが出ちゃう系の衣装だけど、そこら辺もさすがマキ。似合っているなあ。
「おかえり~。どう? どうどうどう? 惚れ直したかにゃ?」
相変わらずグイッと来るねー。
「えーと、新しいアイドルかなって思ったよ。マキは美人だし、アイドルの衣装も似合っているね」
マキの体はメリハリが美しいから、シルエットがきれいに出るね。
「お? お? もっといやらしい目で嘗め回すように見て♡」
「どんなオーダーだよ……」
胸を寄せてくるんじゃないよ。
「ていうか、その衣装はどうしたの?」
「もちろんレイちゃんが着せてくれたんだよ~。カエデとエッチなことをするなら制服でしょ、って」
「レイがそんなこと言うかな……」
「意訳が過ぎます。もちろんわたしも着替えていますよ。かえでくんが好きなのはこっちのクリーム色のほうですから」
背後からの声に振り返る。
部屋のドアの前に佇んでいたのは、2ndシングルのマネージャー用の制服に身を包んだレイだった。自室で着替えてきたのかな?
「がぅがぅがぅ!」
さらにその後ろから現れたのは、レイとおそろいの衣装を身に纏ったクマの花子……。サイズがぴったりだね。わざわざ花子用に作ったのか。
「がぅ~~~!」
「あー、はいはい。花子も似合っているね。ボクがそこに立っているのかと見間違えちゃったよ」
「が~ぅ~♡」
いや、ボクがボクを見間違うなんて、そんなわけあるかい。
でも花子が喜んでいるから良いか。
「がぅがぅがぅ(わたしはかわいいですか?)」
「なんでレイまでクマ語……?」
「まきまきまきまき(わたしのこともいやらしい目で見て良いですよ)」
「今度は……マキ語? いや、そんなのないけど。でもさ、なんで全方位に対抗しようとするの?」
「ライバルが多いのでけん制しておく必要があります」
そうですか……。
花子もライバルの1人……1クマだったのか……。
「今のところわたしが一歩リードかにゃ?」
「そうだと良いねー。マキはいつでもポジティブだなあ」
根拠もなく言い切れるその心の強さは素直に見習いたいね。
とくになー、メイメイには爪の垢を煎じて飲ませたいね。なんでかね、最後のところでしり込みする癖が抜けなくて困っていてねえ。
もうさ、メイメイは定期公演#9を経て、アイドルとしては覚醒したはずなんだよね。あの時の最後のパフォーマンスはユエユエ――伝説のアイドル・秋月美月さんに迫るものがあった。それはユエユエも認めているところだし、もう≪初夏≫の顔として、堂々とセンターに立っても何ら不思議はないはずなのに……なぜかいつもの2列目のポジションにいたがるよね。
あとは心の問題だけだと思うんだよね。
そのあたりでマキのスパルタ指導がほしい……と思ったけれど、明日から海外ロケかあ。タイミングが悪いな……。




