第88話 ボクを産むか、ボクに産ませるか?
「ええい、このロープをほどけぇ~!」
裸の女ルパン(マキ)が何か言っているけれど、聞こえませーん。
ボクに襲い掛かったマキは、あっさりとレイに捕縛され、身動きが取れないようにロープでグルグル巻きに。今は床に転がったミノムシになっているのだ。
「がぅ~がぅ♪」
花子がミノムシ(マキ)を転がして遊び始めた。
「クマ公! やめるんだ! 今こそさっきの超高級ドングリのお返しをするチャンスだぞ! その鋭い爪でこのロープを切り裂け~! 野生を取り戻せ~!」
「がぅ?」
花子が自分の爪を確認している。
「おまえ……その爪は……野生を忘れたのか~~~~!」
うるさいなあ。
ボクと一緒に寝ている時に、爪が伸びている状態で抱き着いてきたら危ないでしょ。レイが毎日ていねいに磨いでくれているよ。
まあ、でも花子は体が大きくなってきてパワーも出てきたから、マキの体を転がして遊ぶくらいは余裕でやるからね。しばらく転がされながら反省しておいてー。
「それではロープ代も加算しておきます」
これもオプション料金⁉
なんという商売……。
「はっ、待てよ……。つまりプライベートジェットで現地入りすれば、パスポートがなくてもカエデを連れていけるのでは……?」
何がつまりなのかわかりませんが、それは普通に密入国ですね。
プライベートジェットだろうとなんだろうと、入国審査はあるし、パスポートは必要なんですよ。そんな知識で海外に行って大丈夫なの? 一生海外に行くことのないボクのほうが詳しいって……。はぁあ、無駄な知識だわー。
「かえでくん」
電卓を叩くレイの手が止まる。
「どうしたの? 計算終わった?」
総額でおいくら万円になったのかな?
ちなみにボクにも多少はお金って入ってくるんでしょうか?
「師匠にお願いして、かえでくんを胎児の状態まで戻して、カプセルに入れて飲み込んで入国ゲートを通り抜ければ、海外に行けるのではないでしょうか」
「その発想に至ったレイのことが心底怖い……」
何もかも怖い。
危ない薬の密輸よりもひどいアイディアだよ、それ。
「そのまま2時間経てば……わたしが出産して名実ともにかえでくんのママに……?」
世紀の大発見をしてしまった、みたいな顔をしないで?
ちゃんと思いだしてよ……。
2時間後に薬の効果が切れた時、ボクの体は少しずつ大きくなるわけじゃなくて、一気にボクの姿に戻るんだからね? 普通にレイの体が破裂して、スプラッター映画どころの騒ぎじゃなくなるよ?
「がんばって耐えますから」
がんばるとかそういう問題じゃないんだよねぇ。
「なんかこう……エイリアンみたいに自分がレイの口から出てくるのを想像して怖くなっちゃったんだけど……」
「どんな形でも、かえでくんの生みの親になれるなら、それ以上のしあわせはないのではないでしょうか?」
「ボクに訊かれても……」
レイがおかしくなってしまった。
台風のせいかな。
全部台風のせいということにしておこう。
「わたしは~! レイちゃんが生んだカエデに子どもを産ませるぞ~! いや、わたしが産むほうが良いのか……悩む……」
相変わらずミノムシのままのマキが、花子に転がされながら会話に入ってきた。
なんていうか、マキはいつも楽しそうで安心するよ。
この妄想力なら、長期間の海外ロケも無事乗り切れるんじゃないかな。知らんけど。
「つまりわたしがまきさんの義母ということになりますね」
そうはなりませんけどね。
「お義母さん! 娘さんをわたしにください!」
「結納金はいくらですか?」
金ェ!
そこは「どこの馬の骨とも知れないヤツに娘はやれん!」の名ゼリフを言うチャンスだったのでは⁉
「まきさんがどこの馬の骨なのかはよく知っています」
「うーん、馬の骨ってそういうことなのかなあ」
「エントリーナンバー1番。トリニティプロモーション所属の十文字真紀です! 娘さんをわたしにください!」
とうとうオーディション形式になっちゃったよ……。
「エントリーナンバー2番。ダブルウェーブ事務所マネージャーの仙川零です。生まれる前のかえでくんをわたしにください」
エントリーするなら、せめて同じ土俵で戦ってください。
「エントリーナンバー3番。ダブルウェーブ事務所マネージャーの七瀬楓です。2人に付き合っていると頭がおかしくなりそうなので、下で食事でもしてきます」
時間的にラウンジは開いていないけれど、コンビニで何か買って食べるかあ。
花子、ボクの代わりに楓役をやっておいてくれよな。
「がぅ!」
おー良い返事。
さっそくボクの服を着てボクになりすましてくれているね。
頼んだぞー。




