第44話 レイ vs ルーナ~勝負の行方は?
秋月美月は芸名。
じゃあ、本名は……?
「楓ちゃん、それ以上はやめておいたほうが良いんじゃないかな?」
ルーナちゃんが不安そうな表情を見せる。
ボクがユエユエの本名を知ると、何か不都合があるのだろうか。もしかしたらメイメイの出自を知るきっかけになるかもしれないのに?
麻里さんが、ユエユエはアイドルになる前にはアメリカの大学で教授をやっていたと言っていた。さすがにそこでは本名で活動していたんじゃないか?
「ルーナちゃん。ユエユエが教授をしていた大学名ってわかる?」
おそらくルーナちゃんなら把握しているはず。
ルーナちゃん?
あ、これダメなやつか。
ルーナちゃんは光の失われた瞳で虚空を見つめていた。どうやらプロテクションに抵触しているらしい。
けれどこれでわかったね。
ユエユエの活動していた大学名を突き止めれば、何かがわかる!
ボクの持っている記憶の中に、都合よく七瀬マネージャーがユエユエをアメリカにスカウトしにいった時のものがあったりしないかなあ。ないかなあ。うーん……思い出せないかあ。
「かえでくん、師匠に訊いてみるのはダメですか?」
「それは……難しいだろうね。記憶のプロテクトを外したからあとは自分で、って感じだったし」
麻里さんはいろいろ教えてくれるんだけど、この件に関してはなんだか微妙に抽象的なことが多いんだよね。感情的になりやすい気もするし。ユエユエとは古くからの友人だから、いろいろな想いがあるんだろうなとは思うんだけど……。
「マリの年齢は教えてもらえなかったの?」
あ、ルーナちゃんの目に光が戻った。
おかえり。
「無理だったよ。あの手この手を使って教えてもらおうとしたけれど、絶対に言わない構えでどうにもこうにも……」
お手上げですなあ。
「そこが突破できないなら、まだまだ謎の真相には迫れないかな~?」
「謎の真相? ああ、≪BiAG≫の活動目的ね。それと≪初夏≫のほうも。なんかねー、どっちもアプローチは違うんだけど、目指しているところは同じなような……」
漠然とだけれど、どこか実験的な何かを感じるんだよね。
でも≪BiAG≫は七瀬マネージャーが始めたプロジェクトで、≪初夏≫は麻里さんが始めたプロジェクトで……2人の関係はユエユエを間に挟んで……。
やはりユエユエの存在がカギ。
つまりボクは、ユエユエのことをもっと知る必要があるんだ。
「麻里さんから話が訊けないなら、ユエユエと話をしたいなあ」
でもそんなことはできないし……。
ユエユエは常に肉体を得て活動することなんて許されていないだろうし、次にいつその機会が訪れるのかはわかっていない。
まあね、そんな簡単に往年のアイドルが現れたら特別感もないしダメだよね。ユエユエ本人はすでに亡くなっているわけだし、倫理的にもいろいろと問題が……。
「みつきさんならお会いすることができるかもしれません。会いたいですか?」
「マジで⁉ 会いたい会いたい! 会えるの⁉」
もしかして、ユエユエの人格プログラムに接続できる端末があるとか?
「零ちゃんそれは……」
ルーナちゃんがうろたえていた。
「かえでくんが会いたいなら、秘密の場所にお連れします」
「秘密の場所?」
「マリに怒られるよ……」
やっぱりどこかにアクセスポイントがあるんだな。そしてそのことをルーナちゃんも知っている。
「師匠がほんとうに知られたくないなら、ご自身の年齢のように、わたしにはひた隠しにするはずです。わたしが知っているということは、かえでくんが知っても良いということです」
レイの言葉には説得力がある!
さすが、長年麻里さんと一緒にいるだけのことはあるね。
「極論だ~。でも確かにそうかもね。零ちゃんかっこいい~」
「ごめんなさい。わたしはかえでくんのものなので、ルーナさんとはお付き合いできません」
なぜか告白を断った風に⁉
「わたしだって楓ちゃんと一心同体だから無理~」
ルーナちゃんのほうも断ってきた。
なんだこの2人の見えないバトルは……。
『わたしは楓ちゃん。楓ちゃんはわたし~♡』
「って、ルーナちゃん! いきなりボクの頭の中に入ってくるのやめて!」
「ルーナさん、今すぐかえでくんの中から出てきてください。すぐに出てこないと後悔することになります」
レイの厳しい視線がボク……の中のルーナちゃんに向けられる。
凄みがある……。
『わたしは無敵のルーナちゃん♪ 悔しかったらここまでおいで~だ』
「むやみに挑発するのはやめておいたほうが良いと思うけどなあ」
レイが怒ったら無傷じゃすまないよ? たぶんだけど。
「反省の色は見えませんね。わかりました。刑を執行します」
刑⁉ いったい何をするの⁉ くれぐれもボクを巻き込まないでよね⁉
『いくら零ちゃんが規格外だからって、わたしはインターネットの海に生きる存在だよ~。わたしに勝てるわけな――あばばばばばばばばばばば』
「ルーナちゃん⁉」
突然どうしたの⁉
ボクの脳内で大声を出して暴れまわり出した⁉
「そろそろ降参ですか?」
レイが何かしている⁉
『あばばばばばばばばばば零ちゃんなにをばばばばばばば』
完全にルーナちゃんがバグって――。
「秘密です。今すぐ謝って外に出てきたら許してあげます」
レイの紫紺色の瞳が怪しく光り、にやりと笑った。
「ごめんなさい。もうしません」
ボクの頭の中から飛び出して実体化したルーナちゃんが、レイの前に土下座していた。
人類(?)がAIプログラムに勝利した瞬間である。




