第37話 麻里さんって何歳なんですか?
ボクの脳に掛かっているプロテクションってやつを外すのに、とくに何か儀式的なことがあるわけでもなく、麻里さんがパソコンに向かって何かを打ち込んだらそれで作業は終わり、ということらしい。
ボクってデジタルな存在なんだなってつくづく感じました。まる。
「体を楽にして良い」
「意外とあっさりでしたね……」
これでボクに掛かっていた制限はすべてなくなったのかな。
この後の行動のすべてが、七瀬マネージャーの記憶を取り戻す原体験のトレースになるかもしれない……。
「ボクはこれから何をしたら良いんですかね……」
これからのお前の行動に掛かっているぞ、と言われているみたいで、ちょっとビビっちゃう。何をしたら良いのかわからない……。
「それなら少し、昔話をしようか」
麻里さんが苦笑しながら話を切り出してくれた。
「おお、昔話! 麻里さんと七瀬マネージャーはどんな関係だったんですか? ずいぶん親しそうな雰囲気を感じるんですけど?」
最も気になっていたところに切り込んでみる。
「……間接的な知人だよ」
えー、ぜんぜんそんな感じじゃないですよねー?
一瞬間があったし、何か隠していそうな雰囲気が?
「あ、そうだ。ルーナちゃんから必ず訊けって言われていたことが!」
大事なことを思い出しました。
「なんだ? 言ってみろ」
「麻里さんって何歳なんですか?」
「女性に年齢を尋ねるものではないよ」
一蹴されてしまった。
だけど、ルーナちゃんは言っていた。「麻里さんの年齢を知ることが、ボクが知りたいことにつながっている」と。
ボクが知りたいことはいっぱいある。
たとえば、麻里さんと七瀬マネージャーの関係。
たとえば、麻里さんの恋愛遍歴。
たとえば、ユエユエがアイドルを引退した理由。
たとえば、メイメイの父親の正体。
たとえば、七瀬マネージャーの最期。
たとえば、≪The Beginning of Summer≫プロジェクトの真の目的。
麻里さんの年齢を知ることが、ボクの知りたいことのどれにつながっているのかはわからないけれど、きっと多くのことはつながっているんじゃないかなと思っている。
プロテクションが外された今、その答えはボク自身の持つ記憶の中から取り出せる可能性もあるわけだし。
「麻里さんが若い頃って、どんなものが流行っていたんですかぁ? 巨人、大鵬、卵焼き?」
「温厚な私でも殴るぞ」
「痛い……」
もうすでに喧嘩っ早いナックルパンチがボクの頭蓋骨にめり込んでます……。
「私は10万歳だ」
「デーモン閣下ですか……」
「実年齢とは別に、肉体年齢は12歳に設定してあるから安心しろ」
「それを聞いて何に安心したら……?」
「合法ロリというやつだ。どうだ? いたずらしたくなったか?」
悪い顔をしながら、ゆっくりとスカートの裾を持ちあげないでください。
「どうした? こういうのが好きなんだろう?」
「いや……ぜんぜん興味ないですけど……?」
なんで当たり前のようにボクをロリコン認定してくるんですか? ボクは生まれた時から普通にアイドルが大好きな人ですよ?
「おかしいな。お前は若い女が好みのはずなんだが……」
「若さの程度が……あ、それはもしかして、七瀬マネージャーのことですか……?」
「そうだ。1つ昔を知ることができて良かったな」
できればあんまり知りたくなかった方面の情報だった……。
でも、若い子好き(幼女好き?)でアイドルのマネージャーってヤバくないですか……?
「ああ、心配するな。直接手を出す男ではなかったよ。自分の好みの女の成長過程の輝きこそが、世界中の人々を笑顔にすると信じて疑わなかっただけだ」
「手を出さないけれど愛でる……。ある意味アイドルのマネージャーとしての資質がある、んですかね……」
若干危ない気がしますが。
「方向性やコンセプトを変化させつつ、自分の本能に訴えかけてくる女たちを探してスカウトする。それがアイツのやり方だった」
「あー……。トモちゃんがそれっぽいことを言っていた気がします……」
喫茶店に通ってトモちゃんを見初めて、事務所の子を使って強引にスカウトしたって……。
「トモはなるべくしてアイドルになった。アイツがスカウトしなくても、ほかの誰かには見つかっていただろうよ」
「まあ、そんな感じですよねー。なんでユエユエの後ろに隠れているんだろうって思うくらい、アイドルアイドルしてますし。センターに立っていても何ら不思議はないっていうか」
あの性格をもっと前面に出していたら、カルト的なファン集団が出来上がっていたんじゃないかなって思ったりします。油断していると、一瞬で心を鷲掴みにされるもん。
「トモはそれを望まなかった。ただそれだけだよ」
「本人の資質と、本人が望むものは違うってことですかあ。やりたいこととできることの違いみたいなものですかね。それからすると、ユエユエはそれがどちらもぴったりとはまっていたから、トップアイドルになれたんだろうなあ」
ユエユエ本人が頂点を望んだ。
それと同時に、ユエユエには頂点に立って輝き続ける資質があった。
「いいや、それは違うな。秋月美月はそんなものは望んでいなかったよ……。皆に勘違いされているが、もっと普通の……恋に恋するただの女の子だったな……」




