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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第十四章 定期公演 ~ Monthly Party 2024 -25~ #11編

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第36話 後から確実に取り戻すべきデータの存在

 すべてを選ぶ?

 ボクは何を選ばされようとしているんだ?


「あの……もうちょっとだけボクにもわかるように説明してもらえませんか……?」


 さすがに何もわからなすぎる。

 麻里さんの中で何かがめちゃくちゃ盛り上がっているということはわかるんだけど、何かとても重大な……いつもみたいになし崩し的に巻き込まれてはいけないモノなんじゃないかなと……。


「ふむ……。良いだろう。説明しよう」


 そう言って頷いた麻里さんは、幾分か落ち着きを取り戻したように見えた。

 いつものように冷静にね、頼みますよ。「愛している」なんて言われて、急に抱き着かれたりすると、さすがにボクもびっくりしちゃうので……。


「楓は人として成長した。もう、立派に1人前の『人』になったといえるだろう」


 それはさっきも聞きました。

 

「残りのすべてを預けても、問題ないと判断した」


「残りのすべて?」


「ルーナが先走ったせいで、楓はもう、自分が何者であるかはわかっている。そうだな?」


 ああ、やはりそのことか。


「そうですね。ボクの根幹にある記憶は、≪BiAG≫のマネージャー七瀬楓さんのものです」


 口に出して、あえての再確認。

 やはり麻里さんがもたらそうとしているのは、まだボクが持っていない七瀬マネージャーの記憶データだ。そうなんでしょう?


「破損が酷く、修復に時間がかかったが、データの再構築とインストールはすでに終わっている」


「えっ、インストール⁉ じゃあもうボクの頭の中には七瀬マネージャーの記憶がすべて入っている……?」


「私が手に入れられたデータはそれですべてだ。残念ながら、すでに失われたものはもう戻らない」


 あくまでも一部、か。

 七瀬マネージャーは事故に巻き込まれ亡くなったと聞いたし、おそらくその時に脳にも損傷が……。


「ん、でも、ボクのほうには何の変化もないんですけど?」


 とくに新しく何かを思い出したりはしていないし、これまでと変わっていない気がする?


「これから私が行うのは、お前に施していたプロテクションの解除だよ」


「あー、原体験をトレースすることで、記憶が取り出せるようになるあれですね?」


 ルーナちゃんが教えてくれた方法だ。


「そうだ」


 麻里さんが肯定する。


「人は、自分の脳内で整理した記憶データを常に参照できるわけではない。何かの出来事をきっかけに、ふいに過去のことを思い出すことがある。それは何らかのキーとなる出来事によって、長期記憶の中から記憶データを取り出すためのパスがつながったためと考えられている」


「何かの出来事をきっかけに、ですか。たとえば、昔好きだったアイドルの曲を耳にして、当時の推し活仲間のことを思い出す、みたいな?」


「ああ、そうだな。何が呼び水になるかは、本人の記憶の整理の仕方次第だろう。何と何を紐づけて記憶しているか。どんなことに強い関心を抱いているかなど様々だ。それは無意識の整理になるし、奥深くにしまい込まれた記憶を取り出すきっかけは本人にもわかるまいよ」


「なるほど? でもルーナちゃんは、記憶の取り出し方はわかっているから、ボクにかかっている暗示を解除するだけー、みたいなことを言っていたような?」


 今の麻里さんの話だと、記憶の取り出し方に確実な方法はない、みたいに聞こえちゃうな。


「ルーナの認識もまた正しい。楓に記憶をインストールする際、後に確実に取り戻すべきデータとして、表層にほど近い場所に意図的に格納しているものが存在するのだよ。それについての取り出し方は、当然ながら確立されていると言える」


 後から確実に取り戻すべきデータ、ね。

 ボクの脳はデザインされたデジタルな脳だから、そういうことも可能ってことですか。


「ちなみに、現時点でボクは、その取り戻すべきデータってやつをすべて手に入れている状態ですか?」


 麻里さんの中でのボクの完成度はどれくらいなんだろう?

 ふと気になってしまった。


「まだ0%だ。いや、ルーナが最初の1つを与えているから、0%ではないな」


 達成率が何%なのかは教えてくれないんですね。

 でもボクが自分自身を、『七瀬マネージャーの記憶を受け継いだ者だ』と理解することが最初の1つなんだということはわかりました。

 そしておそらくこの先にまだ複数の取り出すべき記憶データが存在することもね。


「あと何個かある記憶を参照できるようにするために、暗示を外してくれるってことなんですよね?」


「それだけではないよ。ほかの……整理されていない記憶データへのアクセスも可能にする」


 整理されていない記憶データか……。

 どうなっちゃうんだろう。


「これからの楓の行動が、果たしてどんな記憶を呼び覚ますことになるのか、もはや私にもわからないということだ」


「たとえば朝コーヒーを飲んだら思い出すこともあるかもしれない?」


「ああそうだな。あの人は……コーヒーに砂糖を入れないと飲めない人だった」


 麻里さんはうっすらと笑みを浮かべ、昔を懐かしむように語る。


「えー、ボクはすっかりブラック派なんですけど? もしかして記憶が戻ったら、砂糖を入れる派になるかもしれないってことですか?」


「そうだな。そうかもしれん。人は記憶によって性格を左右されるという研究結果もあるからな。どのように変化するのか、またはしないのか。とても興味深い……」


 興味深いって、研究対象扱いですか……。

 まあ、もとからボクは麻里さんの研究対象ですけどね?


「いずれにせよ、ただちにすべての記憶データが手に入るということではない。そんなことをしたら、楓の脳はオーバーフローを起こしてしまうかもしれないからな。これからの行動の中で少しずつ、記憶を取り戻していってくれ」


 それも前にルーナちゃんが言っていたな。

 七瀬マネージャーの何十年か分の記憶が一気に戻ったら、まあ、そりゃ頭がおかしくなりそうだなとは思うけれど、実際に起きてみないとわからないなとも思う。


「後から確実に取り出すべき記憶データってやつはどうなるんですか?」


 それは今すぐに思い出させられるってことですかね?


「それも……折を見て、だな」


 んー、なんか歯切れが悪いな?


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