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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第十四章 定期公演 ~ Monthly Party 2024 -25~ #11編

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第35話 私たちの関係は、次の段階へと移行する

 ルーナちゃんの特別なバリアに守られつつ、ボクは麻里さんの研究室に乗り込んだのだった。


「というわけで来ました」


 研究室に入ったのはボク1人だけ。

 ルーナちゃんは中には入らず、どこかへ行ってしまった。きっとボクを送り届けたことに満足したのかな。うん、いつもありがとうね。『ルーナちゃん好き好き愛してる。チュッチュしたい、今すぐに』。ううん、やっぱりそれは後でね。


「いらっしゃい。私の楓」


 麻里さんは自分のデスクから立ち上がり、わざわざ研究室の入り口まで迎えに来てくれた。その表情は穏やかなものだ。


「何をしに来た、とは訊かないんですね?」


 まさか歓迎されるとは思わなかったので、逆にちょっと警戒していますよ。

 ボクの侵入を許してどうするつもりなんですか?


「私たちは次の段階へと移行しなければいけない」


「次の段階? それは≪初夏≫がいよいよ天下を取りに行くって意味ですか?」

 

 それはつまり、≪The Beginning of Summer≫プロジェクトの最終段階に移行するという意味なのかもしれない。


 武道館ライブ。


 とうとう≪Believe in AstroloGy≫に肩を並べるのか。


「そうではない。私たちの関係だ」


「ん? 私たちとは?」


 ≪初夏≫と誰の関係だろう。


「私と楓。私たちの関係だよ」


 そう言って、麻里さんがボクの手を取った。

 ひどく冷たい指先。まるで氷のようだ。


「何ですか、急に。麻里さんとの関係? 親子? ああ、もしかしてボクの試験期間か何かが終わって1人前ってことですか⁉」


 何かの活動が認められたのかな。

 もしかして≪BiAG≫の人たちとのデートが何らかの試験になっていたとか? 麻里さんはサプライズが好きだからなあ。普通にあり得る。


「楓は成長したな。私がいなくても自ら思考し、自ら意思決定できるようになった。人としての狡さも備わったように見える」


「狡さ? それ褒めてます?」


「ああ、褒めているよ。私の楓。お前はもう立派な人間だ」


 突然、首に手をまわし、抱き着いてきた。


「ちょっと⁉ どうしたんですか⁉」


 もしかして、感傷的になっているんですか?

 ボクの成長がそんなにうれしいんですか?


「生まれた時から……いや、違うな。それよりもずっと前から、愛しているよ」


「それは、ありがとうございます?」


 ホントどうしたんだ?

 まるでこれでお別れでもするかのような口ぶりで……。


「私の親としての役目は終わりだ」


 麻里さんはボクから体を離すと、白衣の乱れを整えた。それからボクのことをまっすぐ正面から見つめてきた。


「私は、ずっとお前のそばにいる。これからもずっとな」


「はい……ありがとうございます?」


 親としての役目は終わり。

 そう宣言しておきながら、ずっとそばにいる?


 麻里さんが何を伝えたいのかよくわからない……。

 補助輪が外れた自転車みたいな扱いなんだろうとは思うんだけど、手は放しても見守っていてくれるよってこと、なのかな?


 ん、でもこの言葉、どこかで……?


「私がこれからしようとしていることを知ったら、楓は私のことを許してくれないかもしれないな……」


 手を後ろに組み、ボクから離れて歩き出す。


「それでも私のことを選んでほしいと思っている」


 選ぶ?


「ずっとこの時のために――。長かった……」


 麻里さんは立ち止まり、天井を仰ぎ見る。

 大きく息を吐いてから、首を傾けてボクのほうに視線を送ってきた。


「失われてしまったものは多く、決して完全とは言えないが、サルベージは完了している」


 何の……いや、この口ぶり、七瀬マネージャーの――七瀬楓の記憶データか。

 ボクに埋め込まれていたのは一部だと聞いているけれど、まだほかにもデータ化できた記憶が存在していたのか。


「愛しているよ」


 麻里さんの頬を一筋の涙が伝う。


「でも私はお前を、お前たちを愛しすぎてしまったのかもしれない……」


 いったい何を言っているんだ?


「この許されざる所業を止めてほしいと思っているのかもしれない……。だが私は、この時のためにここまで生きてきた。あの人のいない絶望の世界の中で」


 許されざる所業……?

 麻里さんは何をしようとしているんだ?


「だから選んでほしい」


 何を……ですか?


「これからお前に鍵を預ける。すべてを選ぶのは楓……七瀬楓さんよ」


 そう言ってから麻里さんは、自身の頬を伝う涙を白衣の袖でぬぐった。


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