第27話 楓と≪BiAG≫なデートをしよう♡ その21~ユエユエ(6)
たった1曲のパフォーマンス。
『Only God knows.~その運命は誰が決めたのか』を歌い終わると、ステージは暗転した。
あっという間の5分間。
MCもなくこれで終わり、なのか……。
ゆっくりとライトが再点灯する。
曲中の突き刺すような光とは打って変わり、やさしい暖色系の灯だった。
サビのパフォーマンスの時からずっと、ユエユエがボクに抱き着いたまま離してくれない。
「あのー、ユエユエ? 曲……終わっちゃいましたけど……」
小声で呼びかけてみる。
返事はない。
ただユエユエの緩やかな息遣いが聞こえてくるだけ。
あれだけ激しいダンスと歌を披露した後とは思えない穏やかさだ。
でもその横顔は、ホントに満足そうに微笑んでいた。
「ユエユエは笑顔になれましたか?」
みんなと同じように笑顔になれましたか?
「う~ん、どうかな~?」
そんなに笑っているのに?
「ステージ、楽しかったですか?」
ユエユエは自分自身を笑顔にできましたか?
こんなボクでも役に立てたでしょうか?
「楽しかったよ~。カエくんの本気を見た気がしたかな。あれならオリジナルって言っても良いね。とっても良かった……」
ボクを抱きしめる腕に力がこもる。
しばらくしてから、ユエユエは何かを思い出したように突然吹き出した。
最初は口の中で収まっていた小さな笑い声も、次第に大きく。
「アハハハハハハハ! 真顔でブレイクダンス……かわいすぎっ……ハハハハハハ」
止まらない笑い声。
その笑い声が、ボクの鼓膜を心地よく叩く。
「まあ、おもしろがってもらえたなら良かったですよ。とっさに出てきたド派手なパフォーマンスってやつがあれしかなくて……」
自分の引き出しの少なさに驚愕しましたよ。もうちょっとちゃんとダンスを勉強しなきゃなって思いました。
「ごめんごめん。パフォーマンスが変だったから笑ったわけじゃなくてね。すごく良かったと思うよ? 誰の真似でもなく、カエくんのパフォーマンスだったし……。ん、あれはカエくんのパフォーマンスだったよ……」
だったらなんで今度は、とっても淋しそうなんですか?
って、それは聞くまでもないか。
ユエユエが見たかったのは、ボクの中に存在する七瀬楓マネージャーのパフォーマンスだったんだよね。
ボクにはそれは引き出すことができなかった。
このステージは、彼の記憶を呼び覚ます原体験にはならなかったみたい……。
「お役に立てなくてすみません……」
うな垂れるしかなかった。
ボクがもうちょっとうまくやれば何かが手に入ったかもしれないのに。
「痛っ⁉」
えっ、耳を噛まれた……⁉
「何するんですか!」
「う~ぅ~ぅぅ~」
ユエユエが若干強めにボクの耳たぶに歯を立てていた。小さく首を振って抵抗してみても、放してくれる素振りは見せない。
「耳は弱いんで、やめてもらっても良いですか……」
「嫌よ。昔からライブ終わりにはこうしていないと落ち着かないの」
「ええ……」
昔からって……。まさかと思うんですけど、ライブをする度に七瀬マネージャーの耳たぶを噛んでいたってことですか⁉ もしかして、ボクの耳が敏感なのって……その記憶を引き摺っているってことなの……?
「カエくんの耳はあの人と違って薄くて柔らかい……。汗も良い匂いで変な加齢臭もしないし。ホントに女の子なのね……」
なんだか鼻息が荒くなってきたな……。
ボクの耳たぶが薄いからって齧り取るのはやめてくださいよ? 血が出ちゃうから……。
「なんでカエくんは男の子じゃないのよ……」
「ボクにそんなことを訊かれても」
ボクが好きで女の子になったわけではないですし?
気づいたら最初からこの姿でしたよ。最初目覚めた時には違和感があったんですけどねー。もう完全に慣れちゃったかな。
「ボクの顔って、七瀬マネージャーの面影はあるんですか?」
どんな顔だったんだろう。
ボクの中にある記憶は、当然ながら七瀬マネージャーの視点での記憶だから、自分自身の顔がどんなだったのかはわからない。麻里さんもルーナちゃんも絶対に教えてくれないし、写真も見せてくれないし。
「ねぇ七瀬さぁん……いつもみたいに……お願い♡」
んん? 急にどうした⁉
ユエユエが甘えるような猫撫で声を⁉
「ユエユエ……?」
目つきがおかしい。
いや、目つきじゃないな。焦点が定まっていない。瞳孔が開いて……瞳がうっすらと紅く光っている気がする。ある種のトランス状態なのか?
「ねぇ~。いつもみたいに美月って呼んでよ~♡」
ユエユエは目を閉じて、ボクの頬に自身の頬を当てて頬擦りを始めた。




