第26話 楓と≪BiAG≫なデートをしよう♡ その20~ユエユエ(5)
真っ暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がる蛍光テープの目印を頼りに、セットポジションにつく。
無音。
観客たちの息遣いは聞こえてこない。
無観客ライブ? 配信ライブかもしれないな。
でも、そんなことは関係ない。
今からやるべきことは1つ。
すべての人を笑顔に。
ユエユエを笑顔に。
『Only God knows.~その運命は誰が決めたのか』。
ステージライトが一斉に点灯し、ボクたちを照らす。
激しい点滅が繰り返される中、長い前奏パートが始まる。
ああ、無観客のステージなんだね。
始まりは、本来ならユエユエ1人の時間を止めて、ほかのメンバーが激しいダンスで神への祈りを表現する場面だ。
それを今日はボク1人で表現する――。
目印の位置――センターポジション。
ユエユエの真ん前に立ち、1人で踊る。
普段なら≪BiAG≫の6人で作り上げるダンス。でも今日のパフォーマーはボク1人。誰かのポジションを代わりに務めるだけではパワー不足なのは明らかだ。
それならば――。
6人分以上のインパクトを!
ここをボクの戦場とする。
不動のユエユエにダンス勝負を仕掛ける。
ド派手にブレイキンで勝負だ!
いきなり大技でユエユエの度肝を抜いてやるぜ!
アップロックで挑発もそこそこに、一気にスピン系の技で勝負だ!
ヘッドスピンからのウインドミル。
ボクの体が小さいからって甘く見ないでよね!
ダンスを大きく見せるには、足の開きが大事だって!
からのー、床に手を着いて、ベビィスワイプス!
最後はつぶれてチェアーでフリーズ!
どうだ⁉
普段ならうつむいて目を閉じたままで待機するはずのユエユエが、顔を上げてボクのパフォーマンスを見ていた。
けれど、無表情。
「Only God knows.」
ユエユエがウィスパーボイスで呟き、Aパートが始まる。
くぅ、ユエユエは笑顔にならず!
ボクのパフォーマンスをユエユエの心に響かなかったか……。いやいや、落ち込んでいる暇はない。ここからが本番だ。
Aメロ。
ユエユエのソロパートが始まる。
えっ、まさかユエユエもブレイキン⁉
歌いながらそれは!
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大人が言ったことが正しいのか
年上がえらいなんて誰が決めた
神様だって間違うことがあるんだ
ボクたちは自由だ
だって 大人も昔は子ども
今だっておっかなびっくり生きている
何が真実かなんて誰もわからない
自分自身で決めろ
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マジか、この人……。
さすがにそれはありえないでしょ。
こんなに激しく踊りながら、一切声にブレがない。
ボクがやったのは前奏のパートで歌がなかったからだぞ……。
Bメロ。
今度は2人で。
セッションダンス?
ブレイキンで同時に踊るなんて!
いや、でもなぜだかわかる。
ユエユエがどう動こうとしているのか、一瞬手前に視線で知らせてくれている。
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運命なんて言葉で片づけるな
それはうまくいかない自分を騙す麻薬
自分の人生は自分でつかみ取れ
神に頼ろうとするな
だけど 独りで苦しいなら
周りを頼ったっていいんだ
ボクたちは仲間だ ボクはキミだ
Only God knows.
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これがホントのユエユエなのか。
ユエユエの世界に引き込まれていく。
違う。
最初からボクはユエユエの世界にいたんだ。
そんな気持ちにさえなってくる。
ああ、心地良い。
ずっと踊っていたい。
ずっとここにいたい。
ずっと一緒にいたい……。
サビへ。
恍惚の時。
ボクが笑ってどうするんだよ。
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その運命は誰が決めた?
自分で決めていないなら
そんなものは捨ててしまえ
決定を他人に委ねるな
その運命は誰が決めた?
自分で踏み出す一歩に
ホントの価値があるんだ
怖がらなくていい さあ
Only God knows.
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フリーダンス。
いや、もうずっと最初からフリーではあるんだけどね。
ここまで全部、基本の振り付け無視しているし。
さあ、ユエユエはどうする?
ユエユエの想い描く『運命』は?
『運命』とは何なのか。『運命』を決めるとはどういうことか。
人を笑顔にする。
そして自分を笑顔にする。
その『運命』をつかみ取るためには――。
えっ?
ユエユエが、後ろからボクのことを抱きしめる。
それはそれはやさしく。
肩にあごを乗せ、語りかけるように歌う。
その表情は――。
微笑んでいた。




