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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第十四章 定期公演 ~ Monthly Party 2024 -25~ #11編

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第25話 楓と≪BiAG≫なデートをしよう♡ その19~ユエユエ(4)

「カエくん、急いで! 10分前よ!」


 ハァハァハァ。

 全力ダッシュでどれくらい走っただろう。

 息が……切れる……。


「10分……前……?」


 さすがにボクだってそこまで鈍くはないから、これが何かのステージの開始時刻を指しているのだということはわかる。これからユエユエと何らかのステージに立ってパフォーマンスをするってことなんだろうね。何の準備も、何の打ち合わせもしていないけれどね!


「カエくん、深呼吸~」


 スーハー。


「私たちがアイドル衣装(勝負服)を身に纏ったら、することは1つ」


 ユエユエの右手の人差し指が、まっすぐ天井に向けられる。


「すべての人を笑顔にする」


 ああ、そうだ。

 ユエユエが、秋月美月さんがステージに立てば、みんなが注目せずにはいられない。そのパフォーマンスに息をのみ、そして最後には笑顔になるんだ。


「そろそろ時間よ、行きましょう」


 ユエユエが大股でゆっくりと歩き出す。


 ボクがユエユエと一緒に?

 さすがにそれは邪魔じゃないか?


「カエくん、こっちに来て」


 ユエユエが立ち止まり、テーブルの上に置いてあったヘッドセットを手に取る。


「はい」


 ボクの頭にヘッドセットをかぶせ、マイク位置を調整してくれる。満足したのか、ボクの両肩に手を置いてから大きく頷いて見せた。


「カエくんにお願いがあるの」


 お願い?

 一緒にステージにってことですか?

 伝説のアイドルと一緒になんて、ボクには荷が重すぎますよ……。


「カエくんには、カエくんのパフォーマンスをしてほしい」


 予想外のお願いに、一瞬思考回路がフリーズしかける。


「……ボクとしてのパフォーマンス?」


「誰かの真似じゃない。私でも、早月でも、そのほか誰の代理でもない。七瀬楓自身のパフォーマンスを見せてほしい」


 七瀬楓自身のパフォーマンス。


 ボクのパフォーマンスって何だ?

 シュークリームシスターズとか、チィタマ名義の楽曲がそうなのかな? あれは誰の代わりでもなく、ボクが任された仕事だし……。


「あの……セットリストは……」


「『Only God knows.~その運命は誰が決めたのか』。この1曲だけよ」


 ≪BiAG≫の……秋月美月さんの代表的な曲目だ。


「それを2人で、ですか?」


「そうよ。私は『私』として、カエくんは『七瀬楓』としてパフォーマンスをするの」


「なるほど……」


 ボクはボクとして……。

 自分のオリジナル曲ではない場合に、オリジナリティのあるパフォーマンスをするのってどうすれば良いんだろう。


 誰の真似でもないパフォーマンス。

 お手本となる人たちがいっぱいいるのにも関わらず、その人たちをお手本にしてはいけない……。

 

 誰かをトレースして踊ることは大して難しくない。

 その人が何を考えているか、何を表現したいかを想像すれば良いのだから。


 でも、ボクのパフォーマンスってなんだ?

 ボクがこの曲に対して何を考え、何を表現したいかってこと?


 急に言われても何も思い浮かばない……。

 この曲はボクが作り上げたわけでもない。しかもボクが生まれる前からすでにあった曲なわけで……。


 そして、とくにこの曲は難しい。

 なぜなら、サビの部分のダンスが定義されていないフリーダンスなのだ。各メンバーに解釈と表現が任されている……。


 この間の≪BiAG≫×≪初夏≫のコラボの時、みんなはどんな表現をしていたっけ……。でもオリジナルということは、みんなの表現とは違うパフォーマンスを求められているってことなのかな。


「時間よ、行ける?」


 ユエユエがボクの手を握る。


「えっと……」


 正直、何も準備はできていない。

 どうするどうする……。


 その時、ユエユエの手にギュッと力がこもった。

 

「私ね……夢だったの……」


「夢?」


「私の歌で、すべての人を笑顔にすること」


 おそらく≪BiAG≫が最後に行った武道館でのコンサート。

 あの時にユエユエはその目標を達成したんだろうね。


 だから、引退した。


「でもね、あとで気づいちゃったの」


 ユエユエが振り返る。

 頬には1筋の涙が伝っていた。


「まだ笑顔にできていない人がいたのよ」


「そんな……誰、ですか?」


 すべての人を笑顔にするって言ったって、アイドルに興味がない人はいるし、生まれたての赤ちゃんのような、そもそもユエユエのパフォーマンスを目にすることすらない人だっているわけで……。そういう人を笑顔にするのは、その定義からは外れて――。


「私」


「私?」


「そう。秋月美月」


 秋月美月は秋月美月を笑顔にできていない――。


「でも、あんなににこやかに笑いながら歌っているのに?」


 もちろん、鬼気迫るような厳しい表情だってするだろうけれど、基本的にはステージ上の秋月美月は笑っている。少なくともボクにはそう見えた。


「あれは、お客さんのための笑顔なの。私のために笑ったことは一度もなかったわ」


 そんな……。


「だからね、今日は『私』のためにパフォーマンスをしたいの」


 そういうことか。


「そのためには、私の隣には七瀬さんがいてくれないとダメなのよ」


 そうか。

 ボクのパフォーマンス。

 七瀬楓のパフォーマンス。


 ≪BiAG≫のマネージャーだった七瀬楓のパフォーマンス。


「でもボクは……」


 七瀬楓マネージャーの記憶をほとんど受け継いでいないんだ……。


「でも良いの。わかっているのよ。カエくんは、何も考えずにカエくんのままでいてね。でも、誰かの真似をして歌わないで。誰かの代理では踊らないで」


 ボクの中に眠る、ほんのヒトカケラの七瀬楓がほしい。

 

 わかりました。


「ボクは七瀬楓。ユエユエの隣で、ボクのパフォーマンスを――」



 |Only God knows.《神のみぞ知る》


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