第16話 ウーミー、宣言する
ウーミーがゆっくりと近づいてくる。
ボクの真正面へ。……顔が近い。
「楓さん!」
「は、はい!」
え、怖い。……何?
こんな顔が怖いウーミー見たことない……。
そんなに睨まないでください……。
「好きですわ!」
……え?
今なんて?
「好きですわ!」
……好き?
「えーと……あー……そうだね、ボクも振袖は好きだよ?」
びっくりした。
主語がないと勘違いしちゃうじゃん。
着物を褒めてくれたってこと……だよね。
でも急になんで?
「楓さんのことが好きなんですの!」
あー……ね?
聞き間違いじゃなかったか……。
ボクのことが好き……?
ウーミーは急に何を言い出したんだ?
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」
怖っ!
ウーミーがメンヘラ化した⁉
ウーミーのビジュアルでメンヘラ化すると、ガチ感が半端ない……。下手なことを言ったら、冷たい笑顔でめった刺しにされそう……。
「えっとつまり……」
「愛していますわ」
とても冗談を言っているようには見えなかった。
そもそもウーミーはプライベートで冗談を言うタイプではないし……。
「ずっとずっとずっと言えませんでしたの……」
ずっと。
「楓さんのことが好きで好きで……」
いつも柔らかく接してくれるし、嫌われてはいないと思っていたけれど……まさかそんなに想ってくれていたなんてぜんぜん気づかなかった……。
「あり、がとう」
とってもうれしいよ。
尊敬する先輩に好きって言ってもらえるなんて、こんなにうれしいことはないよ。
「ボクもウーミーのことが好きだよ」
ありがとう。
すごくうれしい。
「かかかかかかかかカエデちゃん⁉」
「カエちゃんダメぇぇぇぇぇぇぇ!」
ハルルとナギチが慌てたように割り込んでくる。
今すごく良い場面だから、ちょっと静かにしていてほしいんだけど……。
「わたくし、負けませんから」
何に?
「春さんにも、渚さんにも……詩さんにも」
堂々のライバル宣言。
それって……ボクに対してあれってこと……?
まあ、ハルルとナギチも好きって言ってくれるから、きっとそうなんだよね。
でもウタは違うんじゃ……。いつもからかってくるだけだし、なんか保護者っぽいムーブだし。
「とうとう認めたわね。海さん、えらいわ。うじうじ悩んでいないで、はっきり言ってしまえばすっきりしたでしょう?」
なぜか満足そうなウタ。
「はい、ですわ。これからは堂々とアプローチできますわ!」
うわっ、笑顔がまぶしい!
何これ……。
ウーミーといえば、亡国の姫みたいに儚げな微笑みが売りのはず……急に現実感ある恋する乙女に変化した?
「ここにいる全員がライバルよ。いいわね?」
「負けないわ」
「私が宇宙で1番☆」
「全力でぶつかっていきますわ~」
え、どういう……。
「私たちはライバルでもあり、共通の敵に挑む仲間でもあるわ。時に協力し、時にぶつかり合う関係よ。決して、お互いに足を引っ張り合うことだけはやめましょ」
ウタのなんだかかっこいい宣言に、ハルル、ナギチ、ウーミーの3人が力強く頷いている。
共通の敵……?
なんかもうよくわからないな。ボクのことがどうとかって話は関係ないのかな?
「楓さん!」
突然ウーミーが、ハルルとナギチを押しのけ、ボクの両方を掴む。
「は、はい!」
目が血走っている……。
殺される⁉
「愛していますわ……」
目を閉じて、唇が……。
ウーミーの薄くてピンク色の唇がボクの唇に――。
「むがっ」
「ちょっとウタさん! なんで邪魔するんですの!」
唇と唇が触れ合う――寸でのところで顔を押しのけられてしまった。
「鋼の掟を守りなさい。約束したでしょう?」
鋼の掟?
「キスは勝者のみに与えられる。そう約束したわよね? なぜ今無理やり迫ったのかしら?」
キス……。
危なかった。
ウーミーがキスしようとしてきた時、なぜだか何も考えられなくなっていた……。
そうするのが自然――当たり前かのように。
「海さん。あなたの力はこんな時に使うためのものではないでしょう?」
力?
「楓さんはわたくしのことを『好きだ』とおっしゃってくださいましたわ。それならキスの権利もあるのかな……と……思いまして……」
しどろもどろ。
あきらかに違うなーと自覚しながらの言い訳をしている。そんな様子だ。
「楓の真意が読み取れないほど、おバカさんでもないでしょう。はしたない真似はおやめなさいな」
「……つい、ですわ。気持ちが高ぶってしまいましたの。もうしません。ごめんなさいですわ……」
ウーミーは自身の行動を恥じるように縮こまり、泣きそうな声で謝った。
ボクが言った「好き」は「愛してる」の「好き」ではないかもしれない。エロスの愛ではないかもしれない。いや、ウーミーには性的な魅力があるのは間違いないんだけど、どこか芸能人に恋をするような、そんな現実感のない気持ち、なのだと思う。
「春さんも渚さんも、海さんのことを許してちょうだいね」
と、ウタが2人の手を取る。
「大丈夫よ。ライバルだもの。キスは勝者の権利。告白して、つい気持ちが高ぶったのよね?」
「ねぇ、ほっぺは? ほっぺにチュ~はセーフ?」
「セーフよ」
ウタさん即答。
セーフなんだ……。まあセーフか。
「カエちゃん♡」
頬っぺたにキスされる、のか。
セーフって言われているし……。
「チュ~して♡」
ナギチが横を向いて自分のほっぺたを指さす。
「ボクがするほうなの……」
まさかの逆!
「あ、ずるい! 私も!」
「わたくしにもお願いしますわ!」
「まあ……楓がそこまで言うなら……キスしてもいいわよ?」
何も言っていないです。
ウタさんって時々とんでもなくデレますよね。
普段は妙にエロいお姉さんなのに、デレの時だけ年相応の表情を見せるとか……ちょっとそういうギャップはずるいですよ?
と、まあ、そんなことを考えつつも、ボクの思考は別のほうに向いていた。
サクにゃんは?
ウーミーにとってのサクにゃんは何なのだろう。
この場は、それを訊ける雰囲気ではない。
すごく楽しそうな雰囲気を壊したくない。
ウーミーはサクにゃんがいる前でも、今のような態度を取り続けられるのだろうか。それとも、この何とか同盟のメンバーと一緒にいる時にだけ見せる表情なのだろうか。




