第7話 パジャマパーティー in スイートルーム~アフターパーティー
「私は認識を改めたよ。アイツはあの時の敵とは違う。もはや私と同格になった。全力で対処する。すべてを手に入れ、先に進まなければいけない」
ボンバー仮面V3との全面対決を宣言した後、麻里さんはベッドから勢いよく飛び降りた。そしてそのままボクのベッドを通り越し、寝室の入り口のほうへと歩いていく。
「あの、どちらへ?」
「私はもう寝る。あとは任せた」
「えっ、おやすみなさい?」
そのまま寝室をドアを開け、どこかへ行ってしまった。
「あれー? ここでみんなで寝るんじゃ……?」
おーい、麻里さん?
「教授はあれでデリケートなお人やからな~。誰かと一緒に眠ったりはしぃひんよ」
シオが笑いながらポテトチップスの袋に手を伸ばす。
「わたしも師匠が眠っているところは見たことがありません」
「えー、パジャマパーティーとはなんだったのか……」
みんなで寝るまで語り合って誰かが寝落ちして……みたいなのじゃないの。
じゃあこのまま解散、かな?
「パーティーの本番はここからやん? 3人で語り合おうやないか! おもろい話頼むわ~」
シオがポケットから端末を取り出し、録音ボタンを押してからベッドの上に置いた。
「嫌だよ、そんな取材みたいな女子会……」
どう考えてもマンガのネタ集めじゃん。
「カエちんの恋愛模様を聞かせて~な~。誰かとなんか進展ないのんか? 声優養成合宿は⁉ 3人でピーしたんか?」
「ピーって。ふっるいなあ。ずっと保護者がついていましたからね。期待しているようなことは何もないですよ。むしろほとんど休みのない体育会系な合宿で体力削られましたわー」
みんなで温泉に入ったり、ハルルに羽交い絞めにされてマキにもみくちゃにされたことは伏せておこう……。
「なんやの~。仕事全振りの合宿ってただの地獄やんか~」
「だから地獄のしごきでしたってば」
「師匠の指導を直接受けられたんだから良かったじゃないですか。他社からの依頼で講師をされる時には、相当な料金になるらしいと聞きました」
レイがハンドサインで示した金額を二度見する。
「え、そんなに取っているの⁉ なんか騙してるの? オレオレ詐欺? 催眠術?」
「それだけ師匠の講義を受けたいと思っている方々が多いということです」
まさか、そんな人いるわけない。
……とは思わないな。まあ、たしかにいそうか。
あの合宿を経験したからこそボクにはわかる。
本気で学習しようとしている人なら、確かに身になるだろうと思う。
うーん、でもその金額は……。対企業向けにしてもぼったくり価格では⁉
「研究者としての教授はそないなかわいい銭では語れへんで? 教授宛てにきたヘッドハンティングのメールをチラ見したんやけど、そっからゼロが2つも違ったわ。もちろんドル建てやで?」
言葉を失う。
世界全体1%に満たない超富豪たちが、世界の資産の40%だか50%だかを保有している、なんて話を聞いたことがあるけど……あるところにはあるんだなあ。
おかしいな。
ボクもけっこうがんばって働いているつもりなのに、外食500円のランチにも躊躇しちゃうのに……。格差社会って恐ろしいっ!
「かえでくんはわたしの紐になると、占い結果にもはっきり出ていますから安心してください。3食昼寝つき。ワンルーム窓なしドアなしトイレなし風呂なしのお部屋で一生大事にお世話します」
密室トリックの現場かな?
「うちにマンガのネタを提供し続けてくれたら、一生タワマンでの生活を保証したるで? うちは窓もドアもジャグジーだって用意したるで~」
ネタ提供……もうそれって24時間監視されているようなものですよね。
プライベートな時間は大切にしたいなあ。
「2人とも大変魅力的なお申し出ですが、ボクは今の生活で不自由していないのでどちらもけっこうです……」
実際、寮暮らしって楽しいなって思う。
ルームメイトとしてレイがいて、ほかのみんなも同じビルか隣のビルに住んでいて。現状、何も不満はないんだよね。こんな時がずっと続けばいいのにって思っているよ。
「ま、≪初夏≫が快進撃を続ける限り、寮を追い出されることはないやろな~」
「やっぱり武道館行って、ドームツアーして、宇宙行かないとだね」
夢はでっかく!
みんなで一生このビルに住み続けよう!
「わたしはかえでくんと月面コロニーに住みます」
夢はでっかくと言ったけどさ。
月面コロニーが建設されるのはいつになるだろうね。ボクたちが生きているうちに見ることができるのかな?
それにしても月かあ。
行ってはみたいよね。
実際はどんなところなんだろうなあ。
重力が1/6だってこととか、空気がないってこととか、知識はあるけれど、実際に見たことはないもんね。
もし月にうさぎの宇宙人がいるとしたら、メイメイなら友だちになれるんだろうなあ。
「その前に宇宙船の建造やな。ワープ航法を備えた宇宙船で、太陽系を飛び出すんや」
まさに銀河系アイドル!
その時はやっぱりナギチがセンターかな。
もっと宇宙っぽい楽曲もほしいな。最近の新曲って恋の歌ばっかりだもんなあ。麻里さんはセンターになるメンバーに合わせて歌詞を書いているみたいだけど、A面の全員曲も片想いの曲が多い気がする。
もしかして麻里さんの気持ちを歌詞に⁉
麻里さんが恋を⁉
まさかあの人が恋するわけないか。
麻里さんが恋しているのは研究対象の何かだけでしょうよ。
異性に興味を持つことなんてね。
「お~し、そろそろ寝よか~」
「もう遅いしそうしよう」
「まだ恋バナしてません」
レイ、それはまた今度ね。
「恋バナ……」
レイさん、なんだかんだ言って女子会好きですよね。
「ではわたしの恋バナを1席」
落語じゃないんだから。
さあ電気消してもう寝るよ。
「カエちん、何してるんや? せっかくやし、こっちのキングサイズのベッドで雑魚寝しようや~」
見ればシオとレイは、麻里さんのいなくなった大きなベッドに移動していた。
「えー、ボクは1人じゃないと寝られないんだけど……」
誰かが寝返りを打つと起きちゃう……。
「かえでくん、それは気のせいです。いつでもどこでもぐっすりおやすみですよ」
えっ。そうなの?
「わたしにしがみついて寝る姿はとてもかわいいですよぅ」
まるで花子じゃん……。
知らなかった。
だって寝る前も朝起きた時もいつも1人だったし……。
「カエちんが真ん中やな。今日はうちらが両側から抱きついて寝たるで~。豪華やな~」
自分で豪華とか言わないように。
ううーん、右手も左手も押さえられて……身動きが取れない……。
どっちからも良い匂い……。
でも安心する……。




