第8話 0カロリー理論を地で行く人がいるなんて!
カシャカシャカシャカシャ。
んー、なんかうるさいなあ。
ピロン。カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ。ピロン。
何もう、朝から耳元で騒がしい……。
花子?
ごめん、もうちょっと寝かせて……。
ふかふかの抱き枕……良い匂いだ……。
「んんっ」
暖かいなあ。
柔らかいし、良い匂い。
ピロン。カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ。ピロン。
もう、なんなの……。
* * *
「がぅがぅがぅ!」
「んぁー? 花子? ああ、おはよう」
花子におでこを叩かれて意識が覚醒する。
天井、そして辺りを見回して、昨日寝たのはいつもの部屋ではないことを思い出した。
「あーそうか、麻里さんの部屋でパジャマパーティーをしたんだった」
もうレイもシオも起きているようで、キングサイズのベッドの上に寝ているのはボクだけ。あと花子。
「がぅ~!」
はいはい、朝ご飯ね。
お腹空いたよね。
「よし、着替えてから食堂に行こうか!」
「がぅ!」
ボサボサの頭に花子を乗せ、巨大なベッドから降りる。
大きなベッドはいいなあ。
隣に人がいてもぜんぜん気にならなかったし。きっとこのマットレスとか、相当な高級品なんだろうね。どこ製なんだろ。
「おはよう、楓。ずいぶんゆっくりだったな」
寝室から出ると、麻里さんがリビングのソファでくつろいでいた。
「おはようございます。高級なベッドの寝心地が良くてつい……」
「気持ち良かったのはベッドやないやろな~。ん~? カエちんがあんなに大胆だとは思わへんかったわ~」
音もなく近寄ってきたシオが、何やら不穏な言葉を耳打ちしてくる。
「え……大胆って何⁉ ボク何かしてた⁉」
何にも思い当たることがない……。
寝ている時に何かやらかしたのかな⁉
「乙女の口からはとてもとても♡」
頬を撫でた後、ボクから視線を外してコーヒーカップに口をつけた。
誰が乙女だ。
由緒正しい乙女は、本名で18禁作品を大量に発表したりしないわ。
「かえでくん、おはようございます。コーヒーはいかがですか?」
「ん、ありがと」
笑顔のレイからコーヒーカップを受け取る。
今朝はずいぶん機嫌が良さそう。何か良いことでもあったのかな。
「がぅ~!」
「あーはいはい、ごめんごめん。朝食ね。みんな、朝食は? 花子がお腹減っているみたいだから、ボクはこれから食堂に行こうと思っているんだけど」
「うちも行くで」
「わたしも行きます」
「私は朝食はこれで済ませているからお前たちだけで行ってこい」
麻里さんが手に持っているのは、シリアルバーかな?
「そんなんじゃ昼まで持たなくないですか?」
「そんなことないぞ。これは研究中の携帯食料だ。3日持つ兵糧丸は砂のようにまずいが、半日用のシリアルバーなら、いろいろな味を楽しめるようになっている。ちなみにこれは『鴨のテリーヌ』だ」
「へえー。良いのを作ってるじゃないですか。昨日の夕飯の時にそれを出してくれれば良かったのに」
なんなら今、その携帯食料を試してみるのもやぶさかではないです。
「まだ改良中でな。生半可な気持ちで手を出さないほうが良い……」
麻里さんの表情が曇る。
これは何か重大な問題がある時のパターン!
「せやねん。まだ調整がうまくいってへんくてな~。そのシリアルバーはカロリーの吸収率が高すぎるんや」
「カロリーの吸収率が高いと問題があるの? ちょっと食べたら半日持つっていうコンセプトからしたら合ってそうなのに」
「楓の認識は正しい。しかしな……このシリアルバーの味がな……」
さらに表情が暗く……。
さっき味は楽しめるって言ってませんでした?
「味がうますぎるんだ……」
「はい?」
「うますぎて何本も食べてしまうんだよ……」
何言ってるんですか?
「成人男性なら、シリアルバー1本。女性ならミニサイズのシリアルバー1本が標準的な置き換え食になるんやけど……」
「私は毎朝10本食べてしまう。ちなみにこれは今日8本目だ」
「いや、それは食べ過ぎ……」
10倍は摂取カロリーが多すぎるでしょ。
「しかし、やめられない止まらない」
どこぞのお菓子のCMですか……。
何か常習性があるものとか入れていないですよね?
「1本で我慢できるように味を調整できない限り、市場に流通させるわけにはいかないな……」
「その前に麻里さん自身が激太りするのでは……? 見たところ体形は変わっていなさそうですけど」
「ま、教授以外が口にしたら大変なことになるやろな……。うちは絶対食べへん」
麻里さんだけ特別?
「私は……摂取カロリーを0にできる特殊体質だからな」
「何それ⁉ ずるくないですか⁉」
0カロリー理論を地で行く人がいるなんて!
どういう体の構造なんですか⁉ ボクも0カロリーにしてほしいです!
「師匠はずるいです。わたしはいつも体形を気にしながら生きているのに」
えっ?
レイは気にする必要ないじゃん!
超理想体型だし!
「カエちん……目がやらしいで?」
「違っ! そういう意味じゃなくて、レイはダイエットなんてぜんぜん必要ないよねって!」
「そんなに見つめられるとはずかしいですよぅ」
モジモジしないで⁉
ボクがおかしいみたいじゃんか⁉
「カエちんはレイちゃんの体が好きやんな~。今朝もレイちゃんにばかり抱きついて、寝ながらずっとおっぱい揉んでたしな~」
「えっ⁉」
どういうこと⁉
「し、しおりさん! その話は!」
あのレイが珍しく焦っている⁉
「ほれ、証拠の写真と動画や」
「しおりさん! それはひみつにする約束ですよ」
「ほかの人には見せへんよ~」
ニヤニヤ顔のシオが、ボクの目の前に端末を突き出してくる。
「な、なんじゃこりゃー⁉」
こ、これはいけない……。
こんなに激しく……。
もはやスキンシップを通り越して、ただのエロい行為……。
「ほ、ホントにボクがこれを……?」
「せやで」
「合成じゃなくて……?」
「今朝の撮りおろし無修正版や」
マジで……。
レイの顔が真っ赤だ……。
「なんかごめんね……。たぶん無意識に……」
「わたしはうれしかったので……大丈夫です」
いや、それは大丈夫じゃない時の顔!
深く反省します……。
「がぅ!」
ああ、花子ごめん! 朝食だよね! 早く行こう!




