第3話 砂を食っているような味になるんじゃないか?
「うーん。幼女の姿になっても、ボクはボクなんですよ?」
羞恥心はあるんです。
「ええやん。減るもんやないんやし」
ところが擦り減るんですよ。心がね。
「楓はかわいいな~」
やめてください。いろいろなところを撫でまわさないでください。体は子どもでも心は大人なんですってば!
「かえでくんが嫌がっています。師匠としおりさんは離れてください」
レイさん、床が滑るので危ないです。
ボクを抱きかかえてお風呂の周りを走らないでください。
「レイちゃんだけずるいやんか~。うちにも抱っこさせて~な」
「私が楓を作ったんだぞ。私が楓の産みの親だ!」
「ダメです。かえでくんは渡しません」
やめてー。
ボクを取り合って争わないでー(棒読み)
「くしゅん……くしゅん」
あー、ちょっと寒くなってきたかも。
まだ掛け湯しかしていなくて、温泉に入っていないもの。
「たいへんです。早くかえでくんを温泉に浸けないと」
ボクは干からびたミイラか何かですか?
単に冷えただけなので、普通に温泉に入りたいです。あと早く普通に体を洗いたいのでお願いしても良いですか?
「そうだな。だいぶ汗もかいたし先に体を洗うか。洗体プレイにはローションとマットが必要だな」
「いや、普通にタオルで……何の話してるんですか!」
プレイって!
大人って汚らわしいですね!
「師匠、マットなら持参していますから間に合っています」
レイも対抗するんじゃない。
そんなのどこに持ち歩いているのさ。一度も使ったことないでしょ。
「体のスポンジで洗うんやな。ええ身分やないか~」
だから違うって言ってるでしょ。
変なプレイの話はもういいです。自分で洗いますから……。
* * *
「まったく、えらい目にあったわ……。みんな酔っぱらっているわけじゃないよね?」
脱衣所でレイに髪を乾かしてもらいながら愚痴る。
「みんなかえでくんのことがかわいくてしかたないんです」
まあ初めての5歳状態だし? ちょっとテンションがあがっちゃう気持ちはわからないでもないけど?
だけどさ……。
「それにしたって麻里さん! おしりをわしづかみにして、『蒙古斑』はもう一発ギャグでもなんでもないですよ? ただの幼児虐待ですからね?」
「すまんすまん。ちょっと楽しくなってしまってな」
謝罪が軽い……。
ボクのことをおもちゃか何かと思ってるでしょ……。
「あれは傑作やったわ~。今度ネタに使わせてもらうわ」
「また『メープル』シリーズが増えてしまう……。ボクのプライバシーはどこへ……」
「かえでくんよしよし。わたしが印刷された分だけ買い取ってあげますから大丈夫ですよ」
「それは……何も大丈夫ではない……」
ただシオセンセの懐が温まるだけなんですが。
そもそも印刷するのを止めてくれませんか?
「それだとわたしが読めないので困ります」
うん、最初から味方じゃなかったね。知ってたけど。
「お前らいつまでしゃべってるんだ? 早く食事にしよう。あまり遅くなってから食べると体に良くないからな」
と言っても、もう22時を回ってますけどね。
定期公演の日はどうしても食事が不規則になっちゃうなあ。≪初夏≫のみんなも車の移動中にお弁当食べているだろうし。
「何とかならないんですか? アイドルって体が資本ですよね。つまり食事って大事じゃないですか。なんかこうー、完全栄養食的な? 1口食べたら3日働ける、みたいなのは開発してないんですか?」
まあ、そんなのをしていたら普通に出してくれているよね。
「あるにはあるが……」
「あるんですか⁉」
「あるにはある……」
「あれかいな~。あれはな~」
麻里さんもシオも途端に渋い顔になる。
「夜中に食事することと比べても問題があるんですか?」
「「すごくまずい」」
まさかの味の問題!
忍者の携帯食の兵糧丸じゃあるまいし……。
「味くらい何とかならないんですか?」
「ならなくはないな……」
「じゃあいいじゃないですか。ちゃんと改良していけばいいじゃないですか。大事なのは栄養バランスだし、それこそ実験していきましょうよ」
夜中に食事するよりは良いですって。
「カエちんほんまか⁉」
今そんなに驚くようなこと言った?
「そうか……。楓が実験に協力してくれるなら心強いな……。しかしここには手術用の設備がないから、帰ったら頼む」
麻里さんが期待に満ちた目をしながら、ボクの肩を叩いてくる。
「ん? 味の調整の実験……? 手術? 何の話ですか?」
「せやから……」
「味覚のほうを携帯食の味がおいしく感じられるように調整する手術だ」
「それをするとどうなるんですか?」
「携帯食はおいしく感じられるようになるな」
「それ以外は?」
「砂を食っているような味になるんじゃないか? 細かくはわからんが」
「そんなのダメに決まってるでしょ! 何バカなこと言っているんですか!」
普段の食事が砂になったら絶望しかないでしょ。
どんな思考回路ならそれを提案できるんですか……。
マッドサイエンティストってやっぱりマッド(常軌を逸している)なんですね!
「もう携帯食の話は良いです。食堂に行って、さっさとおいしい食事にしましょう!」




