第2話 喜べ、なんと新薬だ。≪REJU_k-speed≫だぞ
よーし、ひさしぶりに薬を飲まないお風呂だ!
なんて思った時期もありましたね。
「ねえ、これおかしいでしょ……。見たことない色のカプセル……」
知らない薬が出てきたんですけど?
「喜べ、なんと新薬だ。≪REJU_k-speed≫だぞ」
麻里さんがうれしそうに黄色いカプセルを掲げて見せてくる。
「何をどう喜べと……? その≪REJU_k-speed≫……って薬ですか。ちなみに『k』は何の略ですか?」
「『kids』の『k』だよ。うれしいだろう?」
キッズね。
何もうれしくないですけどね。
「どうしましょう。かえでくんがさらに小さく……。わたしのかえでくんがさらに小さく……。わたしのかえでくんが……」
レイさん、両鼻から鼻血が流れてますよ。
のぼせたんなら温泉はやめておいたほうが良いんじゃないでしょうか?
「カエちんも罪な女……罪な子どもやな~」
言い直さなくていいですって。
気を遣うところが間違っている!
「それで『speed』の部分は何ですか?」
足が速くなるとか? まったく見当もつかないな。
「そりゃあれやろ。速度改善や」
「今までの半分の時間で遺伝子組み換えが終わるように改良しておいた。うれしいだろう?」
「苦しむ時間も半分ですか?」
「そうだ。今までに比べたら一瞬のように感じるかもしれんな」
「それはちょっとうれしいかもしれない……?」
絶対薬を飲む前提ならね。
まあ……絶対薬を飲む前提ですよね。
「では試してみてくれ。データを取りたい」
脱衣所にタブレットパソコンを持ち込まないでもらえます?
「一応聞いておきますけど……この新薬は安全ですか?」
「さっそく試してみてくれ。データを取りたい」
おいー!
絶対実験兼ねてるやつじゃんか!
人の体で人体実験するなー!
人権侵害!
「さっそく試してみてくれ。データを取りたい」
「あーもうわかりましたって! 水くださいよ、水」
こうなったらヤケだ!
ボクは新薬を飲むぞー!
「かえでくん、温泉水です。まろやかな口当たりでお薬も飲みやすくなるでしょう」
「……ありがとう」
気を遣ってくれるポイントが……飲みやすいといいね。
「……めっちゃ見られていると脱ぎにくいというか……普通に恥ずかしいんですけど?」
服を脱ぐところから全員で観察しなくていいんですよ?
「楓もずいぶん成長したじゃないか」
「わたしの指導の下、とくに食べ物には気をつけていますから。この美しい曲線を見てください」
レイさん、ドヤ顔で脇を撫でないでください。
「ええやん。もうちょっとでアイドルデビューできるやん?」
「しませんって……。もう薬、飲みますからね? あとのフォローはお願いしますよ?」
まあ、なんだかんだ言っても、麻里さんとシオがいる状態なら、もっとも安心な環境で薬を飲めるとも言えるわけで……。
えーい、今さらごちゃごちゃ気にしても仕方ない! いくぞー!
黄色いカプセル≪REJU_k-speed≫を口に含み、常温の温泉水で一気に飲み込む。
「はい、飲みました!」
「ゆっくりと横になれ」
麻里さんの指示に従い、ベンチの上に仰向けに寝転ぶ。
「どうだ、体に変化はあるか?」
「いや、今のところは何も……あ、あ?」
あっつ!
何これ、めっちゃ熱!
一気に来た⁉
え、これヤバくない⁉
「ヤバいヤバいヤバい! 体が熱すぎる!」
ボクの体から蒸気が吹き上がるのが見える。
目の前が真っ白に――これダメだ。
* * *
「えでくん、かえでくん、かえでくん」
「んぁ?……レイ?」
「かえでくん、無事ですか?」
「……うん、何とか生きてるみたい」
いつものレイの膝枕。
いつものレイのアイマスク。
手足も動くし、何もかもいつも通り。
大丈夫そう。
「ちょうど5分やな」
「予定通りだ。実験成功」
やっぱり実験って言った……。
ちゃんと実験が終わってから持ってきてほしい……。
「どうだ、一瞬だっただろう?」
「あのー、一瞬ってそういう意味ですか?」
意識を失うまでの時間が劇的に短かくなったけれども。
「そうだ。一瞬で気を失うことができれば、つらさは半減だろう?」
「まあたしかに? でもそれは先に説明しておいてほしかったですよ。めっちゃ焦りましたもん」
蒸気機関車じゃないんだから、あんなに煙を吹いたら死ぬかと思うでしょ。
「魔法少女の変身シーンみたいなもんちゃう?」
「絶対違うでしょ! 蒸気を吹いて変身する魔法少女なんて見たことないですし……」
「そないおねだりされたら、仕方あらへんな~。うちが描いてアニメ化しておけばええんやろ?」
シオセンセの素敵なウインク。
雑にアニメ化しないでほしい……。
「ぜんぜんおねだりしていないですし、解決方法が斜め上すぎるんですよ……。世間にそんな常識がないなら自分で創ればいい、みたいな理論。言っていることはかっこよすぎるけど、やっていることはひどく才能の無駄遣いを感じる……」
蒸気を噴き上げて変身する魔法少女ブームを作るくらいなら、なんかもっとやることあるでしょ!
なんかこう……何にも思いつかないけど!
よっ。
落ち着いてきたし、起き上がってみよう。
鏡の前に立って、とりあえず自分を観察。
これはまた……ずいぶん小さいな。
けれど、自力で歩き回れる年齢。
んー、5歳くらいってところかな?
「ああ、かえでくんがちいさい。ちいさくてかわいい。わたしのかえでくんがちいさくてかわいい。好き!」
「ちょっとレイ……」
興奮しているのはわかるけど、急に抱きしめるのはやめてってばー。
10歳よりも5歳のほうが良いの?
「だんぜんこっちのほうがかわいいです」
そうですかー。まあ、気に入ってくれたなら良いけどさ。赤ちゃんにされるよりはマシだもんね……。
「さあ、無事実験も成功したところで、楓もたっぷり汗を掻いただろうし、さっそく温泉に浸かるとしようじゃないか」
「……そうしますか」
あれこれ考えても仕方ないし。
さっと温泉に入って、食事をして、パジャマパーティーをしないとね!




