第1話 居残りで落ち込む麻里さんを励ます会?
定期公演#7の撤収作業を終えたボクたちは、≪初夏≫のみんなを見送って一息ついた。残っているメンバーは、麻里さん、シオ、レイ、そして花子だ。ウタは≪初夏≫のみんなを送るために、一緒に車に乗り込んで帰って行った。
ボクたち居残り組は反省会というか、落ち込む麻里さんを励ます会というか……まあ、ぶっちゃけて言うと、麻里さんが車を運転できる状態でもないので、帰宅手段のないボクたちは今夜泊まりになったってだけなんだけどね。
「しかしさー、アイツの目的って何なんだろうなあ」
なんとなくみんなに向けているようなそうじゃないような感じの大きめの独り言。するとシオとレイが話に乗ってきた。
「目的な~。それがわかったら苦労せえへんっちゅ~か……」
「うたさんのチームのほうで、プロファイリングを繰り返しているようですが、未だどんな人物なのか特定には至っていないようです」
もうけっこう長く戦っている気がするけどね。
相当頭のキレる犯人ってことなのかな。今回の件を考えると、麻里さんに任せたら「一瞬にして事件を解決し、アイツの存在を取り除いてくれる」という夢のような結末にはなりそうもないということだけはわかってしまったわけで……。
この麻里さんの憔悴っぷりを見るに、たぶんそれがショックだったんだろうなあ。「まさか自分が負けるなんて」ってね。
「しっかしもうそろそろなんとかしないと、さすがに世間の目も気になってくるよね……」
果たして世間のみなさんは、いつまで≪初夏≫に対して同情的でいてくれるのか。
今回のMCコーナーの顛末は、どのように受け取られるのか。
「コメント欄の反応は、半々といったところでしょうか。『安全面を問題視する』声と『そういう演出として受け入れる』声に分かれています」
「でもさあ、今さら演出っていうのは無理があるよね。警察が介入している事件だってことは広く知られているわけだし。今回のことも当然調査が入るだろうし」
状況はわりと厳しいな……。
「今回の件は、『技術上のトラブル』ということで通すつもりだ……」
おっと? 麻里さんがしゃべったぞ!
ボクたちの話聞いていたんですね。
「それで通ります?」
「通すしかないやろな。この施設を開示したくないっちゅ~ほうが優先や」
と、シオ。
「やっぱりここってヤバいものがいっぱいだから、けっこう法律に触れてるんですよね?」
「ノーコメントだ」
「ノーコメントやな」
……それが答えになっちゃってますよ。
実際、ただのバーチャルアイドルライブのための施設じゃないもんなあ。
「でも、このドームってセキュリティ対策は相当なものなんでしょ? ズバリ聞きますけど、なんで今回ネットワークに侵入されたんですか?」
しかも侵入されたことの検知すらできずに?
そんなことある?
「話せば長くなる……」
麻里さんが小さく息を吐いた後、天井を見上げた。
「聞きましょう。今日はこのあと時間があり余っていますからね。どうせこのまま泊りですし、みんなでパジャマパーティーでもしながらゆっくりと話を聞かせてくださいよ」
「そうだな……。そろそろ話しておかなければいけない時が来たようだ……」
重たい前置きだ……。
心して聞かなければいけなそう。
「あれは私がまだ若かりし頃――」
「師匠、少しお待ちください。みなさん、その前にお風呂に入ったり、食事をしたりしませんか? パジャマパーティーをするには準備不足です」
今まさに麻里さんが話し出そうというタイミングでレイが割って入る。
たしかにまあ、長い話になりそうなら、落ち着いてから聞いてもいいかな、とも思うけど。麻里さんがせっかく話し出そうとした瞬間に止めるなんて……師弟関係にあるレイにしかできない芸当だよ。
「ああ、そうしよう。夜は長い。楓、花子を寝かせてこい」
麻里さんは話をさえぎられたことに対して気にした様子は見せなかった。
良かったよ……。
「わかりました。じゃあボク、ちょっと行ってきます。この後は温泉の前に集合で良いですか?」
花子はずいぶん前に寝てしまっていて、抱っこ紐で抱えている状態だったのだ。ご飯は食べさせたけど、今日はお風呂に入れてやれなかったな。明日の朝にでも入れてやるかなあ。
* * *
「おまたせー」
温泉の前に行くと、すでにみんな浴衣を持って集まっていた。急いできたんだけど、待たせちゃったかな。
「よし、いざ心の洗濯へ」
麻里さんの掛け声とともに、女湯になだれ込む。
ふと隣が気になって、ボクだけ足を止める。
ここの施設開設以来、男湯が使われたことってなんじゃないかな。一般開放される日が来たら使われるんだろうけど、いつになることやら……。
「なんだ、楓。男湯が気になるのか?」
女湯の下駄箱辺りから、麻里さんの声が聞こえてくる。
「カエちんエッチやん♡」
「かえでくんは男の子に興味なんてありません」
いや、別に興味があるわけじゃないんですけど……。
みんなから少し遅れて、暖簾をくぐる。
脱衣所に入ると、温泉施設独特の湿気に出迎えられた。
「そういうのじゃなくて、男湯って1回も使われていないけど、ずっと掃除したりメンテナンスしたりしているだろうなあって。お湯がちょっともったいないなって思ったくらいですよ」
「ここは循環式ではなく、源泉かけ流しだから誰も入らなかったら無駄になってしまうな」
麻里さんが笑う。
「ということは、誰か入っているんですか?」
まさかここって男性従業員がいたりするの⁉
「いや、誰も入っていないよ。そもそも男湯の施設はずっと閉鎖してある」
「なんだあ。もったいぶった言い方するから、もしかしてーと思ってびっくりしちゃいましたよ」
「当たり前のことだが、定期公演がない日は女湯も閉鎖してあるよ。しかしここで使用している湯量は、近隣に配っている湯量に比べたら微々たるものだ。そこまで気にしなくてもいい」
それなら安心ですね。地域貢献は大事だ。
「2人とも~、はよ入ろうや~」
「かえでくん、早く制服を脱いでください。クリーニングに回してきます」
見ればシオもレイも、すでにバスタオル1枚の姿になっていた。
シオはトレードマークのサイドポニーを解いて、お団子ヘアーにしている。めっちゃレア! なんだかちょっと幼く見える?
「かえでくん、見すぎです」
別にそういうつもりで見ていたわけじゃ……。
「はいはい。今行きまーす」
ひさしぶりに薬を飲まないお風呂だ!




