第32話 定期公演#7 その5~海と詩のドキドキ♡ファッションショー(2)
『これからレイカエ以外のカップリングについて言及した人のアカウントを消していきます。覚悟してください』
レイさん怒りのアカウント削除宣言から数分間。
コメント欄は阿鼻叫喚の地獄絵図……とまではいかなかったけれど、それなりに恐怖体験を味わうこととなった。
つい今の今まで元気にふざけたコメントしていた人が、1人、また1人と減っていくのを目の当たりにさせられたのだ。
混乱するコメント欄。その間にも確実に同接が減っていく。おもしろ半分で「ナギカエ」なんて書き込んだ人は、なぜか書きかけのコメントだけが送信されてきて、リロードしたらIDがUNKNOWNになったりもしていたし……。ボクは見ているだけだったけれど、それでもかなり怖かった。コメントに参加していた人たちは相当な恐怖体験をしたんじゃないだろうか。
『今回だけは警告に留めることとして、特別にアカウントを復活させてあげます。これに懲りたら2度とレイカエ以外のカップリングについて語ってはいけませんよ』
“お、おれはいったい何を……”
“数分間の意識がない……”
“おかえりw”
“生きとったんかワレ~w”
“続々と人が減っていって本気で怖かったわw”
“コメントの途中で途切れるって、どういう仕組み?”
“急に意識が飛んでな……気づいたらここにおったんじゃよ”
“浦島太郎?”
“こわっ”
“#海桜は公式カップリングだから良いんだよな?”
“そりゃレイちゃんが言ってるのは、カエデに関するカップリングのことだろ”
“それ以外興味なさそうw”
レイさん、ホントにファンの人のアカウントを消すのはいけませんよ。それだと大切な同接が減ってしまいます。いや、復活させたら良いってわけでもないので……。しかも謎の力でアカウントと一緒に中の人の息の根まで止めるのはやめてください。どうやったのか……は知りたくないな。
『それでは気を取り直して続きの写真をお見せしますね。これが2ndシングルの時のかえでくんとわたしです。どうしてもかえでくんが「抱っこして」とせがむのでしかたなく……』
何事もなかったように再開されるレイのトーク。
無理やり盛り上がるコメント欄。
もはや恐怖政治……おや? レイにお姫様抱っこされて顔を赤くしているボク……こんなシーンあったっけ? ぜんぜん記憶にないなあ。
『これは3rdシングルの時のかえでくんとわたしです。どうしてもかえでくんが「サツマイモラブ」の名シーンを再現したいというのでしかたなく……』
レイさん、それ、「しかたなく」の顔じゃないですよ?
あと、ほっぺにキスシーン……捏造写真ですよね。さすがにこんなことしていたら覚えているよ。
『最後のこちら……はさすがに配信には乗せられないのでモザイクでお届けします』
いや、ボクの顔以外モザイク……。体全体が見えないってどういう状況⁉ 裸なの⁉
「ねぇ! これはどういうこと⁉」
ハルルがモニターをガタガタ揺らす。
壊れちゃうから備品はていねいに扱って……。
「いや、ボクに聞かれてもわからないですけど……。背景もよくわからないし、いつ撮られた写真なのかな」
そもそも合成写真の線が濃厚だし。
“続けて?”
“有料配信ではモザイクなしで?”
“スパチャ……解放されてない……だと”
“ギフトはいつもの配信のほうか”
“裏ファンクラブに入ると?”
“抽選1名様にプレゼントは?”
“ハッキングして写真を手に入れようずw”
“黄ちゃんのモザイク写真は私のものです”
“負けねーぞwww”
“おまえらカエデすっきゃな~w”
しっかしみんなノリが良いというかなんというか……。さっきの恐怖体験はもう忘れたってことで良いのかな? レイの悪ふざけに全力で乗っかってくれるもんなあ。それとも無理やり乗っているふりをしているだけ? もちろん裏ファンクラブとかないからね?
「どうもおまたせ~」
「零さん、MC代理ありがとうございますですわ~」
舞台袖からウタとウーミーの声が聞こえてくる。姿はまだ見えない。
『お2人ともおかえりなさいませ。準備はよろしいでしょうか?』
レイが2人のほうを目視確認している。
「OKよ」
「いつでもいけますわ~」
いよいよファッションショーが始まるんだね!
『それではみなさまお待たせいたしました。「海と詩のドキドキ♡ファッションショー」開演です。最初のテーマは、「友だち以上恋人未満?~初デートの時に彼から告白されたいコーデ~」。ミュージックスタート!』
レイの合図とともに、会場の照明が切り替わる。
サイバーなシンセサイザーの音ともに、天井に吊り下げられた巨大なミラーボールが回転し始める。
『まずはうたさんの登場です。みなさん、盛り上がっていますか~?』
さっきのMC代理よりもかなりテンションを上げたしゃべり口調で、DJレイが会場を盛り上げる。
それに呼応するように会場はグリーンのペンライトが波のようにうねり、ウタの登場を祝福していく。
会場のテンションが最高潮に達した瞬間、舞台袖からウタが現れた。すまし顔でモデルウォークだ。かっこいい! 決まってるね!
『うたさんが全身真っ黒なドレスで登場しました。背中にラメ入りの羽根が生えています。このコーデは……まるでキュートな堕天使が彼のもとに舞い降りたのでしょうか』
「ウタちゃんかわいい~! 私も堕天使になりたいです~」
うんうん、でもメイメイは堕天しても天使だからなあ。
舞台中央に向かってゆっくりと歩いていくウタ。
ファッションショーだしモデルウォークをして終わりかなと思いきや、舞台のちょうど真ん中あたりで立ち止まり、すまし顔から一転、笑顔へ。会場全体に向かって大きく手を振りだす。
『これは反則です。かわいすぎます。こんな堕天使と一緒になら、地獄に落ちてもいい。彼もそう思うのではないでしょうか。『好きだ』。その言葉を発してしまったら最後、笑顔の堕天使に地獄の底へと引きずり込まれてしまうでしょう。だがそれが良い! そんな禁断の堕天使ファッション。文句なく一撃必殺のコーデです』
たしかにこれなら堕天しても良いと思える、かもしれないね。
ウタのセクシーな表情から一転、年齢相応のあどけない笑顔で手を振られたりしたら、そのギャップで落ちてしまいそう。
『続いて、うみ先輩の登場です』
ウタが捌け、会場からは割れんばかりの拍手。
その拍手鳴りやまぬ中、ウーミーが姿を現す。
どよめく会場。
「きゃ~! みっちゃ~~~~~~ん!」
ちょっとサクにゃん! うるさいって!
耳元で超音波ボイス出さないで……。
は、花子が……気絶してる⁉
『うみ先輩が真っ白なドレスで登場です。うたさんとは真逆。こちらは完全無欠の天使コーデです。ふわふわなうみ先輩のボディとふわふわな羽根がベストマッチ。頭の上に浮かぶ天使の輪っかが純真無垢なうみ先輩の美しさをさらに演出しています』
スキップするように笑顔で舞台を歩くウーミー。
あれ? 手に持っているのは魔法のステッキ?
ウーミーは舞台の真ん中で立ち止まると、魔法のステッキを会場に向かってくるくると回す。
魔法のステッキから虹色の光が溢れていく。
『これは……いけない! 恋の魔法です。この光線を浴びたら最後、どんな男もうみ先輩の恋の虜になってしまうことでしょう。「ああ、好きだ。うみ。君しか見えない」。一度かかった恋の魔法は一生消えることがありません。キュートな天使と一生の恋に落ちる。こんなしあわせな話があって良いのでしょうか』
あーあ、みんな撃たれちゃったね……。
配信の向こうにいるファンたちも……サクにゃんも言葉を失っている。完全に心臓を撃ちぬかれてしまったみたいに言葉を失っているね。
いや、でもこれはかわいすぎる。あえてエロさを消して、かわいさに振り切るとは……やりますね。
笑顔のウーミーが手を振りながら舞台袖へと戻っていく。




